2018.05.18

歯科医療は社会的価値の高い大切な医療であり、歯科医療で働く人々はこの社会になくてはならない存在です。


それでは、実際に歯科医療の中で働いている人々は、どのような想いを持ち、やりがいを感じて日々の仕事に向き合っているのでしょうか?

そこでd.Styleでは、今まさに歯科医療で輝いている方にスポットライトを当てて、今の仕事についてとことん本音を語っていただきました。


今回はエムズ歯科クリニックで訪問診療に携わる田口知実さん。訪問歯科のネガティブなイメージを変えるために自ら扉を開け続ける、衛生士になるべくしてなった歯科衛生士さんでした。

歯科衛生士を目指した理由を教えてください

介護福祉士であるおばあちゃんがバリバリ働いている姿を幼い頃から見ていたので以前から介護の仕事に興味があり、高校生の時に、インターンシップを利用して介護施設でお手伝いをしていました。

その施設では、皆さん朝からごはんをすごく楽しみにしていて食事時には食堂に集まって楽しそうに食べるのですが、ある日、食堂にいない人がいることに気がつきました。

なんでいないんだろうと部屋を見てみると、胃瘻で食べられなかったんですね。

部屋でぼーっとテレビをみている姿を見て、すごく切なくなりました。

口から食べられないからみんなとワイワイできないんだ、テレビしか見ることができないんだと思うとすごくかわいそうになって、口から食べることを支援する歯科というのもすごくいい仕事なんじゃないかなと思い、歯科衛生士を目指しました。


日本歯科大学短期大学を選択した理由とは

(出身地の)秋田にも衛生士学校はありますが、日本歯科大学では介護ヘルパーの資格をとることがカリキュラムに入っていたことが大きな理由です。

何か自分で始めなければつまらない人生になると思っていたので、やれることをやりたかった。だからこの学校が東京じゃなくても行っていたと思います。



訪問歯科の実情はどうでしたか

実際に始めてみると、口腔ケアをして診療終了なことが多いことに驚きました。

施設の方とのコミュニケーションも密ではなくて、「こういう風にお掃除をしてください」と言っても、「時間ないのでできないです」と返されることもありました。

私はそれに対して「こんなんじゃ綺麗にならないよ、週一回口腔ケアしただけじゃなんの意味もない!」と思っていました。

複数の施設にお邪魔してそのような対応をされることが多かったので、施設の方の多忙さや人手不足、点数、時間などを考えるといろいろ壁が多いなと、どうにかできないのかなと、悔しくて悩みました。

歯科がもっと介護の人と協力できたら、口腔ケアの重要性を伝えられたら、入居者の方の日々の健康のお手伝いができるのではないかと思い、現状を変えたくてとりあえず自ら介護の集まりに顔を出すようにしていました。

エムズ歯科クリニックとの出会い

当時私の周りには訪問歯科をやっている友達が全然いなかったので、みんなになぜやりたくないのかを聞くと

「臭いし華やかじゃないし、おしゃれじゃないし」って言ったんです。

やれば患者さんは喜んでくれるのに、マイナスに思われている訪問歯科って悔しい!!! と思いました。

少し昔は、売り上げがいいからどんどん口腔ケアしろ!っていう流れがあったと思うんです。たくさん老人を並べてバーって口腔ケアをするだけ、以上、っていうやり方。そういうのも嫌で変えたいと思っていました。

でもどこかで成功事例を作らないと誰も真似してくれないから、ちゃんと口腔ケアができていて他職種連携がとれていてかつ算定もしっかりできているみんなが真似できるモデルケースを作りたい。

そんなときにあるセミナーで(エムズ歯科クリニックの)森田さんと出会い、思っていることすべてを森田さんに伝えました。

森田さんはその気持ちをわかってくれたんです。だから、エムズ歯科クリニックに入りました。


現在取り組んでいる内容とは

週3で訪問診療に出て、週1日は外来、残りの1日は事務局で資料を作っています。日々の診療の他に研修もしています。

施設の場合は専門のドクターによる摂食嚥下検査の後、各フロアの核となる方、生活相談員、施設長、看護職など多職種が集る「食べる力支援委員会」を作り、OHATと検査の結果を元に、食べる力が弱くなっている方・口腔ケアが十分でない方の対応について話し合うようにしています。


食べる力支援委員会の様子

そこでもっと伝わるように施設の方に口腔ケアの実技指導をしたり、誤嚥性肺炎などの “こういう症状がでたら危険ですよ” というようなポスターや、入居者さんが安全に美味しくお食事を召し上がっていただけるように、食事介助に関しての入居者さんの姿勢・食形態やとろみの具合なんかのポスターを作って貼りました。


そんな活動をしていると「こんなことまでしてくれる歯医者さんはじめて」といってみなさん協力してくれるようになったかなと思います。


介護の現場が変わってきているという実感

最初の頃は歯科や私の存在がめんどくさがられていたんです。また来たわ〜って。笑

分かってはいたんですけど知らないふりをして明るくいましたね。

「◯◯さん髪型変えたんですね!」とかコミュニケーションを続けていると、施設の方も理解してくれるようになりました。

施設の方から「◯◯さんの口の状態はどうでした?」って声をかけてくれるようになって、そのときに「ここは歯と歯の間に汚れが詰まっていることが原因で歯肉が炎症してしまっているので、歯間ブラシでケアして下さいね」と伝えると聞いて実行してくれるようになりました。

OHATの推移や口臭もそうですが、一番変わったと感じるのは何よりも、ブリッジなどの補綴物が脱離したときに、今までは気づいてくださる方って少なかったのですが、とれた次の日に「ブリッジがとれちゃったんですけどどうすればいいですか?」って、声をかけていただくことが多くなったことです。

ブリッジっていう専門用語を使ってくれた事も嬉しかったのですが、口に対して興味を持っていただけるようになって、口の中の状況を把握してくれる人が多くなったと実感しています。

その他にも、舌苔が付着している方のケア方法や、口腔乾燥の人はどうしてあげたらいいですかって聞いてくれるようになりました。

すごく関心を持ってくれるようになったと思います。


患者さんを知る努力

口腔ケアに対して拒否があり中々お口の中を触らせてくれない患者さんがいて、けど口臭はすごいしチラッと見えるお口の中は乾燥と汚れで大変な状態で・・・

このままじゃ心配なのでどうにかしてあげたいと思い、まずは人を知ろう、認知症について勉強しようと思い、認知症セミナーに行って認知症について教えてもらったり、本を買って読んだりしました。

そうするとその方は、「見当識障害」といって、時間や日付が分からない・場所が分からない・人が分からないなどの、自分が置かれている状況の認識が難しくなってしまう症状だということが分かったんです。

なのでリラックスしてケアを受けていただけるように、「今日は歯医者の日です」「私は歯科衛生士です」「お昼ご飯の後なので、口腔ケアをしましょう」っていう事を1回だけじゃなく何回も何回も、口腔ケアしながらも言ってあげると落ち着いて受けていただけるようになりました。

結局「嫌」ってなるのは、自分がどうしてこういうことをされているのかがわからないから「不安」で「恐い」からなんです。わかるとそういうことか、なるほど!と思いました。

お口の中だけでなく、全身の状態やその人の気持ちに寄り添っていくことが大切なんだなと感じました。

訪問診療は奥が深く、たくさん勉強することがあるなと思います。

あとは摂食嚥下の知識として、食べるために必要なお口の機能が低下している人に対して、マッサージや機能訓練をしてあげられるように勉強しています。



歯科医師に対して思うところ

ずっとクリニックに通っていた患者さんが来院できなくなって、ご自宅や施設に訪問に行くのはすごくいいと思います。

その人のことを一番良くわかっている歯医者さんに変わらず見てもらえるのは、患者さんも安心なのではないかと思います。

でも施設とかで大量にやればいいやとか、点数だけを見たり、ただ口腔ケア・治療をするだけの訪問歯科は、患者さんがかわいそうだし、施設の人にも歯医者ってそんなもんなんだとしか思ってくれなくなってしまうと思います。すごくもったいないです。

患者さんの既往歴や、高血圧かとか出血しやすいお薬を飲んでいるかなどの情報はもちろんですが、もっとその人の性格や生活、求めていることを一緒に考えて介入していけたら、患者さんにとっても自分達にとってもいいことなのではないかなと思います。


訪問に向いている衛生士さんはどんな人だと思いますか

話すことが好きで人が好きで、誰かのために何かをやってあげたいという気持ちがある人は特に楽しいと思います。

入れ歯を使っている人や、自分で磨けない人が多いので、やっぱり口腔内が汚れている人が多くて、臭うこともあります。

でもそんな時こそ、自分から動いて介護スタッフさんとコミュニケーションをとって「こうやってあげるといいですよ」って教えてあげると解決されることなので、むしろ私は口腔内が汚い人を見つけたら気合が入りますね。

患者さんに「ありがとうね!さっぱりして気持ちがいいよ」といっていただけたり、ご家族の方が喜んでくださるのはとても嬉しいです。

また、患者さんの口腔内の出血や口臭の減少を体感したことのよって、介護スタッフさんが口腔ケアの重要性を感じてくれたり、口腔ケアに対して興味を持ってくれたり、そういったきっかけになれるのも、歯科衛生士としてやりがいを感じられる瞬間だと思います。




訪問歯科の魅力とは

肺炎は日本人の死因の第3位です。肺炎と気管支炎による死亡の9割は65歳以上の高齢者であるため、肺炎は高齢者の健康管理にとって最も重要な課題です。

高齢者の肺炎は、口の中の細菌などが誤って肺に入って発症する「誤嚥性肺炎」の割合が高いと言われているため、口腔ケアがとても大切になってくると思います。

訪問歯科を行う歯科衛生士は、口腔ケアによって口腔内の細菌数を減らし誤嚥性肺炎予防をしたり、お口から美味しく安全にお食事が召し上がれるように機能訓練を行ったりと、患者さんの健康寿命を延ばすお手伝いができるのがひとつの魅力だと思います。

そのことによって、患者さんの笑顔が増えたり感謝していただけると、歯科衛生士でもこんなことができるのか!嬉しい!と感じる機会も多いです。

しかし一方で、高齢者の中には重い病気を抱えていたり、酸素吸入や経管栄養がなければ生活できない方も多くいらっしゃるため、命に関わる機会も多く、責任が大きい仕事であるともいえます。


そして歯科だけでは解決できないような問題を多職種と話し合ったりと、普段絡むことのないようなと他の専門職の話を聞くことができるのでとても勉強になります。

施設の方も「○○さん、最近口臭がなくなって明るくなった」などの体感から、歯科に興味を持ってくれてコミュニケーションをとってくれるようになって、そういった積み重ねからひとつの施設が明るくなってくれるのもすごく嬉しいです。

何よりも診療にお伺いした際に、おじいちゃんおばあちゃんが「歯磨きの人だ〜」って喜んでくれると、「私でもだれかの役に立つことができるんだ」と感じて嬉しくなりますね。

あとは、人はいつか絶対高齢者になるので、そのときに自分の家族にやってあげられるのも魅力のひとつかなと思います。

エムズ歯科クリニックとは

訪問歯科衛生士の取り組みを導入してくれたり、クリニック内でも予防委員会を作ってそこで摂食嚥下・口腔ケアに関して勉強したり、みんなで話し合ってマニュアルを作ったり、そういうことのアドバイスをしてもらっています。

施設や企業など外部で研修するときも、資料やスライドを事務局で修正してくれたり、荒井先生も福祉施設でお話しして下さいます。

藤田保健衛生大学病院で2週間の研修の機会をいただいたりと、勉強面でもサポートが厚いです。

エムズ歯科クリニックは、やりたいことに対してすごく応援してくれて、利益だけじゃなくて理解してくれて、いち衛生士の話を聞いてくれますね。

多分一番欲しい人材って文句を言わずにやってくれる人材なのかと思うんですけど、そういうんじゃなくってプラスαの活動をしたいということをすごく応援してくれるクリニックだと思います。私一人の力じゃただ考えているだけでしかなかったことを協力して実現の手助けをしてくれたり、新しい考えをアドバイスしてくれたり、本当にありがたい環境で働かせていただいていると思います。感謝です。



これからの目標を教えてください

訪問のイメージを変えたいです。訪問をやりたいって人を増やしたいです。

私みたいに田舎が遠くにある人間だとよけい、おじいちゃんおばあちゃんと話していると懐かしい気持ちになって、癒されるのではないかと思います。

いろんな地方の話や、おじいちゃんおばあちゃんが若かった頃の話も聞けるので、若い人のお話の感じと違ってまた楽しいです。

ネガティブなイメージだと誰も協力してくれないと思うので、汚いとかダサいとか、そうじゃなくてもっといいことあるよって楽しくやっているよということを伝えたいと思っています。若い衛生士さんがたくさん入ってくれて訪問が盛り上がって、訪問で歯科衛生士が頑張ればおじいちゃんおばあちゃんこんなに変わるし楽しいんだよっていうことを伝えたいのが一番の私の目標です。

こんな働き方があって、こんなことがで出来るんだよって広めていきたいです。

そして今までの訪問歯科が流れ作業だったものを変えて他職種で連携して、あとの6日間のケアもしっかりしてもらえるようなモデルケースをつくりたいんです。

それで歯科界も無理なく報酬も得られて、施設側も口腔ケアができるようにすることが目標です。

今後2025年問題も迎えて、若い人に対しての高齢者の負担が今より倍になると考えると、仕組みを作っておいてそのときに困らないようにして置かなければならないなと思います。 


                                             

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