2018.04.16

日々情報が流れ、先達からもたくさんの教えを受けられる今の時代。
けれども、忙しい毎日の中歯科医療人同士で本音を語る機会は減っているように思います。

そこでWHITECROSSでは、これからの時代の歯科を担う若手を中心に、とことん本音を語っていただきました。

今回は東京医科歯科大学で博士課程に在籍中の戸田花奈子さん。歯科衛生士としてはとても珍しいキャリアを進み、歯科衛生士とは何かを真剣に考えている歯科衛生士さんでした。


衛生士の博士課程について教えてください

歯科衛生士が博士課程を取るためには、まず修士の学位が必要です。
次に、衛生士が修士をとるためには学士の単位が必要になります。
その学士の単位を取得するには4年制大学を卒業する必要があるのですが、基本的に歯科衛生士は専門学校や短大がメインなのでまず4大に入ることが第一の関門です。
そして4大を出てから修士課程、博士過程へと進んでいきます。

修士課程卒業の衛生士は企業に採用されることも多いので、企業に就職する者もいました。
博士課程に進んだ同期の衛生士は社会人大学院生として、勤務しながら研究をしています。
私は研究活動に専念したかったので、通常の大学院生博士課程に在籍しています。働きながら研究をする体力も自分にはなかったので(笑)


学生時代に感じたことは

歯科医療は手も動かさなければならないし、頭でも考えなければならないのでとにかく学ぶことが多いと感じました。
そして個人的には、高校生の頃にイメージしていたものとは違うなと思っていました。私自身は、歯科治療を受けたことがなく、母の影響で歯科医療の道を進んだので自分で勝手に歯科衛生士をイメージしていたんです。

いま考えると著名な先生ばかりで贅沢な環境で学びましたが、だとしても歯科衛生士の教育は歯科医師のアシスタント、言って見れば歯科医師のお手伝いというような内容で、ここまでは教えるけどここからは歯科医師の範囲だから学ぶ必要ないからねということが結構あったんです。

それがなんか歯痒いなって思いました。同期でもそれが歯痒くて歯学部に編入した子もいました。
歯科衛生士の仕事ってなんだろう、と思い始めました。進学直後の歯科衛生士になるワクワクした気持ちっていうのがなくなってきていたんです。

留学の経験を教えてください

そんな中、海外研修奨励制度という学生を海外へ派遣する制度に参加させていただいて、3週間ほどフィンランドに留学をしました。

向こうに行って何よりも驚いたのは、衛生士が頼りにされているんです。

パーテーションで仕切られたユニットそれぞれに患者さんがいて、特に治療費にディスカウントもなく正規の値段で学生が診ているんです。細かく先生にチェックしてもらうようなことも一切ありません。

あらかじめ歯科衛生計画を立てて、フィードバックして、治療が終わった後にはユニットとは別のブースに移って患者さんに過去のチャートと照らし合わせながら “ここが出血しました”、“こう磨きましょう”と説明していました。ユニットではあくまでも施述のみです。

学生用ユニット

一連の流れを自分で責任を持って管理していて、しかも学生ですよ。それがめちゃめちゃかっこよくて、自分もこんな風になりたいって思ったんです。
患者さんもとても学生のことを信頼しているんです。言葉は分からなくても、患者の信頼が肌でわかりました。いっときは海外の衛生士になりたいと思ったくらい。あんな風に自信をもって患者さんに接したいですね。

習った技術を生かして判断している姿がとてもかっこよくみえましたね。

お世話になったEwva先生と

今の活動内容を教えてください

いまはまだ博士過程に在籍している学生です。
先生にお願いして大学の臨床実習の補助をさせていただいたり専門学校の授業をするといった点で教育には関わっています。
この世界って大学での教育になるとポストが限られているので、自分のしたいことを追求するだけではなく、与えられたところで自分のできることをやるべきだと思います。

博士までとった衛生士さんを数名存じていますが、ストレートで博士まで進む衛生士はあまりいません。
ですので後輩が将来のキャリアアップを目指すときの道を開くためにも、まずは私が博士を卒業することが任務だと思っています。博士卒業できた衛生士がいるんだよって伝えたいですね。

研究では糖尿病の患者さんを対象に衛生士ができる範囲の介入をしつつ、血液データや口臭の研究をさせていただいています。在学している大学は医学部付属病院も歯学部付属病院もありますので、専門家同士が連携して意見交換を行っています。

何か衛生士ができることによるエビデンスを作りたいなという気持ちを持っています。
研究をさせてもらえるのは大学にいるありがたみですので、結果を出したいと思います。

歯科衛生士の魅力とは

アルバイトしている歯周病専門のクリニックでは、メンテナンスとなると、最初にドクターが検診だけを行った後は TBI や SRPも含めて全部任せていただいています。

1対1で診せていただいて、その方の変化がダイレクトにわかるというのは本当に楽しいと思います。3ヶ月くらいで歯肉初見は変わりますし、所見が変わると患者さんも頑張ってくれるんですよ。

何よりも患者さんに「衛生士さんに言われたから(口腔清掃の)道具増やしたよ」とか「血が出なくなったからもっとがんばるわ」って言っていただくのが嬉しいですね。
きっとこれが、臨床の楽しみなんでしょうね。


患者に対する教育はどうしていますか

渡邊学先生にいただいた本で、カーネギーの ”人を動かす”という本があるのですが、あれを読んでからちょっと変わりました。

まずその人のできないことを責めるのではなく、褒める。怒って変わる人もいますがそれは長期的に見ていい効果ではないと思うので、久々に歯医者に来た人がいたらまず褒めます。
「よく来ていただきましたね!」って。
歯ブラシができていない人がいたら、歯磨きしていることを褒める。
「してるんだからあとはテクニックですよ」って。

(社会福祉士免許も取得しているんですが)社会福祉のなかではエンハンス(助長させる)とかいいところを伸ばしてあげるという考えがあるので、そういった点を気をつけていますね。 

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今後はどうしていきたいですか

臨床も楽しいんですが、今は卒業した衛生士さんの教育や知識のアップデートやスキルアップというのをお手伝いさせていただけたらなと思っています。教育って聞くとどうしても卒前教育というイメージがあると思うんですが、ドクターの専門制度のように卒後教育をしていきたいですね。

また、歯科医師の専門医制度についても調査しているのですが、なんとか衛生士もくっつけていきたいですね。
いまは学会の認定制度はありますが、それが例えばインプラント外来にいる衛生士は認定を持っているのが当たり前とか、そういう点での衛生士の役割も付与していただけると嬉しいなと思います。

認定を持っていても、「で?だから何ができるの」と言われてしまう現状があるので、頑張って認定を取得した分それが反映されるような歯科医療になればいいなと思っています。

歯科医師に対して思うこと

よく、「衛生士がやめちゃたんだけど、誰かいい人いない?」って聞かれます。

歯科衛生士として国家資格を取得している衛生士はたくさんいても実際アクティブに動いているのは12万人ほどです。半分スリープです。

だから、「いない?」って聞くんじゃなくて、「どうして半分スリープしたのか」を考えるのが先だと思うんです。アクティブに動いている方はたいていどこかで務めてますから、シフトの合う衛生士を探すのは大変です。

もしかしたら彼女たちは色々目的があったのかもしれませんが衛生士としての業務に魅力を感じられなくなったのが原因ではないかなと思います。
だってライセンスがあれば復帰しようと思えばできるのに、復帰しないということは何かしらの理由があるんだと思うんですよね。
なので、衛生士さんいない?って衛生士に聞く前にもっと衛生士の業務を理解していただきたいし頼りにしてほしいんです。

私が見たフィンランドの衛生士は一人でなんでもしました。
カリエスなど疾病に関してはもちろんドクターに相談しますが、(日本では)”自分の患者だから任せられない”とか、”言われたことだけしておいて。でもそれ以外は絶対に触らないで!”、”患者の話を聞くだけ聞いておいて。でもそれ以上は何も言わないで”って、ドクターに言われることもあります。

それだったら衛生士である必要はないですよね。きれいな大学生のお姉さんでもいいわけじゃないですか。だから衛生士のできることを知ってほしいです。
知っていただいて、頼りにしていただけたら衛生士も頑張らなければいけないですから、勉強もしますし、責任が与えられるとストレスにもなりますけれどやりがいを感じられると思います。


考えられる改善方法はありますか

金銭的な待遇はともかくとして歯科医師の先生方が自分がしてほしい待遇を衛生士にしてあげたら良いのではないでしょうか。
例えばドクターには個室があるのに、衛生士はレントゲン室で着替えて、とか。それって同じ待遇ではないですよね。

あとは私みたいな知りたがりの衛生士もいれば、助手さんと同じ仕事でもいいですというような衛生士もいるわけですので、各衛生士のキャラクターを見極めていただいていただきたいです。

採用する際はそのキャラクターが見極められない状態にあるから認定が役立つと思います。もっと色んなことをしたいと思っている衛生士もたくさんいて、そういう衛生士にはもっと信じて任せてほしいですね。

50歳になった時の目標は

学びたいという衛生士が学びやすいような環境を作りたいです。いまはまだ歯科医師のなかにお邪魔させていただいているような現状なので、歯科衛生士がもっと科学的な思考ができてそれを発揮できるような環境がほしいなと思います。
あとはドクターから頼られるような衛生士をもっと作りたいですね。

いずれ結婚して家庭を持ちたいと思っています。
そうすると臨床でバリバリ働くというわけにはいかないので、勤務体系に柔軟に対応してくださる歯科医院が増えるといいですよね。手段はいくらでもあると思うので、こんな年齢でも働いているんだよっていうケースになりたいです。

また、衛生士の復職支援の研修をすれば、離職してから復職するまでの自信につながると思います。医療安全をきちっと学び直して、臨床から離れていた衛生士が戻ってこれる体制が整うと良いなと思います。


戸田さんにとっての医療とは

医療って人と人とのつながりじゃないですか。
なるべくそれを切らさないで、人との出会いを大事にするっていうのは心がけていることなのかもしれません。

私は、自分が見た患者さんの口腔内が自分が処置した内容で30年間問題なくもたせられるかということをいつも考えるんです。
歯科医療はその人個人とのつながりでもありますし、患者さんが満足してくれたらその人が親になったときに子供にもメンテナンスを受けさせようと思ってくれるじゃないですか。世代を超えて。それって素晴らしいことですよね。

予防歯科は環境さえ整っていればあとは本人のやる気。
歯科は人を笑顔にできる職業。と思っています。