2018.10.24

日々情報が流れ、先達からもたくさんの教えを受けられる今の時代。
けれども忙しい毎日の中、歯科医療人同士で本音を語る機会は減っているように思います。

そこでWHITECROSSでは、これからの時代の歯科を担う若手を中心に、とことん本音を語っていただきました。

今回は日本初のマウスピース矯正研修講師として全国を飛び回っている、株式会社ブランシュ代表取締役で歯科衛生士の穴沢有沙さん。偶然の縁を味方にし、可能性を最大限に広げるべく突き進んでいく行動力にあふれた衛生士さんでした。



歯科衛生士を志したきっかけはありますか

恥ずかしながら、歯科衛生士学校に入るまでは歯科衛生士の存在すら知りませんでした。

私は母が一人で育ててくれたこともあり、子どものころから母に資格を持つことを強く勧められていました。高校3年生の時の担任の先生に教えられたのが “県立の歯科衛生士学校” でした。県立で授業料も安く、奨学金も組めるということで愛知県立歯科衛生専門学校に入学しました。


マクドナルド時代にアテネオリンピックへ選出された際(真ん中列一番左)

県立の歯科衛生士学校があるのですね

私の母校は残念ながらもう閉校してしまったのですが、県立という名の通り県が管理していた学校でした。

とにかく授業料が安くて、入学金は5,000円、月謝も18,000円程度だったと記憶しています。1学年40人程の1クラスだけでしたので倍率がすごく高い学校で、授業料が安いからレベルが低いというようなことはなく授業はとても厳しいものでした。 

学校は歯科医師会からの出向の歯科衛生士さんが先生として携わってくださっていました。何が厳しかったかって、それはもうたくさんありますが…たとえば11番と12番のキュレットを間違って逆さまに持ってしまうとその時点でその日はもう実習終了。その後は参加させてもらえなくなるような環境でした。

私たちからすれば「そんなことで!」と思うようなことも先生からすると「患者さんだったら医療事故でしょう」ということだったんでしょうね。

当時は何回も実習中止になりましたし、厳しくて毎日泣いてしまうような環境でしたが、お陰で同期との絆は深まり切磋琢磨した経験が臨床で活きることを実感しました。すごく感謝できる学校でしたね。


愛知県立歯科衛生専門学校戴帽式(最後列左から4人目)

同期の方との関係は

卒後は早くに結婚出産を経験する同期がたくさんいました。 

今年2月に久しぶりに同窓会をしたんです。20人ほど集まった同期の中で半数はパートも含めて歯科衛生士として働いていましたが、もう半数は歯科衛生士ではなくスーパーのレジ打ちのパートや給食のおばさんをしているという子もいました。

独身時代から働いていた歯科医院に戻れるという環境でもない限り、やはり結婚出産後に歯科医院で働くのはなかなか難しいという現状なのだと感じています。


今年2月に行った同窓会にて(最前列一番左)

歯科衛生士の働き方に対して思うことは

医療の業界では『派遣』ができません。でも歯科衛生士こそ急な家庭の事情で空いてしまった穴を歯科衛生士同士で埋められると思うんです。 

フリーランスという肩書きを持ってバリバリ歯科衛生士をしている方とはまた違って、その地域で子育てをしながら午前中だけ働ける衛生士さんや、日によってはご両親に面倒を見てもらえるような衛生士さんを登録制でたくさん募ってみんなで支えられる仕組みがつくれるといいなと思っています。アプリなんかで管理できるといいですよね。

また、歯科衛生士の平均年収は330万円程度と言われています。私はそれを600万円以上に上げたいんです。時給だと3,000円位です。

この底上げが先ほどのスポットで働く衛生士さんの時給にもつながります。だって時給で1,500円前後だったら午前中3時間働いて4,500円です。それでは働く間のベビーシッターも雇えない。報酬の底上げをしていかないとスリープの歯科衛生士さんを減らすのは難しいと思うんですよね。だから離職が増えているのではと考えています。

しかし実際に働いている側からすると、時短の歯科衛生士さんばかりだと常勤の方にしわ寄せがくるという話をよく聞きます。朝の準備も診療後の片付けもして、残業になれば常勤の方が担う。一日の拘束時間が長く、プライベートもないというような負のスパイラルを打破することが必要だと思います。

たとえば歯科全体として『朝方』『夜型』の歯科医院に分ける分業のような形で、クリニックの開院時間が全体として短くなると歯科衛生士の働き方も変わるのかなと思います。



卒業後の経緯を教えてください

卒後は3年間、coop(コープ)の医療版とも言える、医療生協の附属歯科診療所に勤めました。医療生協の病院は生協に加入している一般の方々から出資をいただいて運営している病院です。

出資していただいた方を組合員というのですが、組合員の方には自費治療の組合員価格があるなど、双方で地域に根付いたような体制をとっていました。もちろん福利厚生もしっかりしていましたし、歯科助手が口腔内を触ることはもちろん印象をとることも一切ありませんでした。すごく良い環境で学ばせていただきました。

結婚を機に医療生協を退職した後は何か別のプロフェッショナルな世界を経験したいと思い、派遣社員という形で銀行に勤めることになりました。銀行で働いた4年間では、歯科では経験しないレベルの個人情報の取り扱い、電話対応、クレーム対応も含めて多くのことを学びました。

銀行では犯罪防止のために本人確認を求める機会が非常に多いんです。国の法律で決められているので高額の振込や出金の際には必須なのですが、本人確認を求めるとだいたい怒られます。「俺はオレだ!なのにどうして本人確認が必要なんだ!」って。私はその方を知らないので本人確認書類を求めるしか方法がないんですよね。そう言った意味でクレームの嵐でした。

銀行は個人情報の塊ですが、病院もそうだと思うんです。人間にとって譲ることのできないお金と身体のこと。だからこそ本気になって怒る。個人情報の観点からいうと歯科でたまに見かけるプリントアウトしたレントゲン写真の裏紙をメモ用紙にするなんてことは絶対ありえませんでした。

銀行での経験はすごく基本的で重要な部分と、人間としての尊厳を学べたと思っています。


銀行員時代(後列左から3人目)

ブランクに対して抵抗はありませんでしたか

ありましたね。印象を練れるのだろうか、口腔内を触ることはできるのか、とても不安でした。

そういう気持ちはずっと持っていたので、銀行に勤めながら後半の2年間は知り合いの先生のところで土曜日だけアルバイトをさせていただきました。

小さなクリニックだったので歯科衛生士業務は多くはありませんでしたが、週1回でも歯科衛生士として患者さんと口腔ケアの話をしたりスケーリングに携わっていたことで感覚をつなぐことができました。そのような形でしたが、歯科衛生士として歯科に携わっていたことでいざ復帰する時、精神的に安心できました。

矯正歯科衛生士としての復帰

28歳の時、愛知県を中心にした医療法人で歯科衛生士としての勤務を再開しました。

そこではいい意味で浅く広く経験させていただきました。福利厚生がしっかりしていて勉強の機会を多くいただけることが私にとっては大きなメリットでした。

そちらの理事長先生は今も現役ですが、とてもアクティブでクリエイティブな先生で、新しいものをどんどん取り入れてくださっていたのもあり、最先端のものに常に触れていることができました。

そちらの法人では当時、上田桂子先生という先生を中心にインビザライン矯正に力を入れていました。そして私は入局してすぐ偶然矯正チームに配属されました。

それまで矯正とは無縁だったので不安でしたが、法人内にはインビザラインを学べる文化がありましたし、矯正を学ぶことで患者さんと密に関係を持てる道筋をつくっていただきました。

そして私自身もインビザライン矯正を経験し、理解を深めていきました。 上田先生はすでにご退職されているので、私にとって良いタイミングで出逢えたと思っています。


自身のインビザライン矯正のケース

当時インビザラインは日本に入ってきて間もなかったのですが、そちらの法人では早い段階から導入していました。

上田先生はインビザラインを学ぶ為に世界でも有名なドイツのシュープ先生のもとまでインビザライン治療を受けに行かれていました。ヨーロッパやアメリカなど海外で学んだことを日本に持って帰ってきて法人内の勉強会で私たちに教えてくださるんです。

日本ではあまり手に入らないインビザラインの最新情報を学べたことは非常に貴重なことでした。日々の臨床ではとても厳しい先生でしたが、上田先生との出逢いが、私の矯正歯科衛生士人生でかなり大きなものとなりました。

現在の仕事内容を教えてください

今は名古屋と東京の歯科医院に臨床業務で介入しています。東京では宮島悠旗先生について3医院、名古屋では尾崎桂三先生が開業している医院とその他一般診療をしている医院に歯科衛生士として介入して5医院受けもっています。

そのかたわら、マウスピース矯正研修講師として全国のクリニックに出張研修をしています。


一般歯科にて


愛知を中心とした医療法人の退職を決めた時は求人票で歯科衛生士を募集している歯科医院を探していました。歯科医院で勤務し歯科衛生士としてアシスタント業務やメンテナンスをしていくことを想定していましたが、上田先生に「また一からやるの?」と言われたんです。

私はその言葉を、「30歳を過ぎて重ねてきたキャリアがあるのにまた一からやる意味があるのかしら」と言うようなニュアンスに受け止めたんですよね。あまり言葉が多い先生ではないので諭されたわけではありませんでしたが、独立も考えたらと言うような話をいただいて、そんな道もあるのかと気づき今のスタイルになりました。 

一度は認定歯周病歯科衛生士の資格を取りたいと思った時期もありましたが、独立してビジネスとして考えるとすでに技術も経験もある歯科衛生士さんがたくさんいらっしゃるのでそのジャンルは私が敵わない世界なんです。

そしてなにより矯正治療は今よりもさらにQOLの向上をお手伝いできると気付きました。宮島先生にも「ありさちゃんはブルーオーシャンを選んだんだね」と言っていただきました。

出張研修の内容とは

インビザラインをすでに導入している歯科医院さんはもちろんですが、これから取り入れたいけれど何から始めたらいいのかわからないという歯科医院にも行かせていただきます。

研修の基本ベースはありますが、各医院の状況に合わせてカスタムメイドでカリキュラムをご提案します。

治療の流れや施術で注意するポイント、印象採得の方法やアタッチメントのつけ方、カウンセリングやご提案方法の講義など、ご希望に合わせて研修する内容は様々です。全体としては6回~9回ほどのカリキュラムを組まれる歯科医院さんが多いですね。

矯正治療を患者さんに提案するとき「自費治療を売りつけられるイメージを持たれそう」と感じる方が多いですよね。実際私もそうでした。インプラントや自費補綴も同じだと思うのですが、歯科医院側としても患者さんに嫌われるのもいやでご提案しにくいという話をよく耳にします。

でも、本当にその患者さんのために必要なものはお伝えするのが私たちの使命だと思うんです。研修では患者さんの幸せのためにどうしたらよいご提案ができるかを一緒に考えていきます。

国の助成金を活用し研修をご依頼いただく歯科医院さんも多くなってきています。


研修の様子

インビザラインのメリットは何ですか

目立ちにくく取り外しができることです。

患者さん目線であれば、目立ちにくいのでコンプレックスやストレスが少ないと思います。歯科衛生士の立場からいうと、取り外しができるので歯磨きやデンタルフロスがいつも通りでき、虫歯や歯周病のリスクが減ります。

これまで矯正治療が終わった患者さんのブラケットを取ったあとにエナメル質が白濁したりカリエスになった歯面を見て非常に悲しい気持ちになっていました。マウスピース型の矯正装置であれば防げるかと強く思います。

ただ、インビザラインは取り外しができるというメリットが最大のデメリットでもあるんです。ご自身でマウスピースを装着しないと治らないのでモチベーションの上げ方は研修でもよくお話します。

できるだけ患者さんのライフサイクルや性格もヒアリングして患者さんにとって少しでもハードルが下がるようにするといいですよね。 

独立起業

今年の7月に株式会社Blancheを立ち上げました。ブランシュの意味は、フランス語の女性名詞で白と言う意味です。白は吸収できる色で成長できると考えています。歯も白いですし、私自身昔から何か白に縁があってブランシュと決めました。



法人化を決めたのは実は今年の4月のことでした。思い立ってすぐ行動に移しました。

漠然と将来的には仲間を集って会社を作ることも考えていましたが、私を取り巻く状況が今そのタイミングだと感じスピード感を持って設立に向けて動いています。デンタルグッズの販売プロジェクトを始動させたかったのもあって追い風になりました。 

デンタルグッズの販売とは

「こんなのがあったら嬉しい!」を提供したい。そんな思いから現在デンタルグッズの販売を考えています。インビザライン矯正をしている、またはインビザライン矯正を始めたい女の子たちが、InstagramなどのSNSを使い自主的に情報発信をしています。

そういった“インビザ女子”のみなさんに協力をしていただき「こんなデンタルグッズがあったら矯正ライフが楽しいよね」という可愛くてテンションが上がるポーチを作りたいんです。

インビザ女子のInstagramを見ていると、洗浄剤、デンタルフロス、ピック、洗口剤、持ち運びのしやすい可愛いポーチなど、各々に揃えている様子が伺えます。これって私たち歯科医療従事者が勧めるものと少し内容や視点が違うんです。

何を重要視するのか、何に心動かされるのかは聞いてみなくちゃわからない!ので、インビザ女子のみなさんに協力をしてもらい、実現させていこうと思っています。それを販売するにあたって、個人事業主ではなく会社として進めた方がいいとも思ったんですよね。

そしてグッズを詰める作業は地域の障害者福祉施設にお願いすることにしています。私の住む愛知県の大口町にはお仕事として依頼できる素敵な仕組みがあったので活用させていただく予定です。



コラボ研修はどのようなことをしていますか

接遇研修講師の柳沢可奈さんとはたまたま知り合いました。私が彼女のInstagramを見ていて興味がわいたのでメッセージを送りました。今時ですよね。

彼女はJALの客室乗務員からドコモの接遇研修講師を経て接遇やホスピタリティを伝えるお仕事をされています。一般企業やメディカルクリニックでも引っ張りだこですが、歯科医院からのお仕事も増えてきているということですぐに意気投合し、それぞれの得意分野を活かして研修をしようということになりました。 


「自費提案力アップ研修」は第一部でFABEという手法を使った提案力の講義を柳沢さんが担当し、第二部で私がヒアリングについて講義をするという二部構成になっています。合計4時間の講義ですぐに活かせる情報ばかりです。

歯科医院で物を売る、と思うとハードルが上がりますが「患者さんにとって必要な物をお互いにストレスなくご提案する方法とは」という内容です。

彼女はよく研修の中で「価格提案ではなく価値提案だ」という話をします。安くする為の争奪戦ではなく付加価値を提供していきましょうということです。個々にとって、また歯科医院というチームにとって、という視点で考えていきます。そのためには患者さんのことを知らないと提案できませんので、私がヒアリングの方法をお伝えします。

いくら価値のあるものでも、その人にとって必要な情報かそうでないかを見極めていかなければ、おせっかいになってしまいますからね。


コラボ研修の様子

やりがいは何ですか

先日茨城県の歯科医院にマウスピース矯正の研修に伺った際に、受付の方がこのようなアンケートを書いてくださいました。

「歯科治療の知識が足りず話についていけないところもありましたが、大まかなところは理解できたと思います。何よりも先生のテンションと話し方、雰囲気とオーラがとても素敵で、患者様からの信頼も厚いだろうなと憧れ、尊敬の思いを抱きました」
「先生のお姿を拝見し、最初にご挨拶をさせていただいた時から途中のマクドナルドの話を聞いてとても納得できました。わたしも先生のような溌剌とした受付を目指したいと思いました。」

ただなんとなく仕事をするのではなく、こんな風に働きたい、お仕事に生かそう!と思っていただけたことが涙が出るほど嬉しかったんです。

こんな風に働けるんだ、女性でもこんな道があるんだ、歯科衛生士でも歯科助手でも活躍できるんだというのを感じて欲しいなというのがわたしが今強く感じていることですね。
 
勉強会にて

そして何よりも、私たちが幸せでないと患者さんを幸せにはできないと思います。院長先生や経営者の先生にはやはりスタッフを大切にしていただきたいと思っています。スタッフは自分たちが大切にされていると感じれば自然に患者さんにも優しい気持ちで素晴らしい対応ができます。

これが最初の話でもあった、歯科衛生士の離職防止にもつながってくると思うんです。今の仕事にやりがいが感じられない、歯科の仕事はもういいから他の仕事に就こうかななどよく話に聴きます。

だからこそ「歯科衛生士ってかっこいいよね!」「歯科医院で働くっていいよね」って思ってもらえる人を作りたいんです。

その上で、矯正治療は患者さんの今よりさらによくなる、というQOLの向上のお手伝いができますし、自費治療なのでこれが歯科医院で上手く回れば経営的にも安定します。そうしたら働くスタッフの報酬にもつながるのではないかと思います。



目標は何ですか

独立を決めた時に上田先生から「価値ある仕事なんだからとりあえず1年で年収を倍にしたら」って言われたんです。「3年で5倍を目標に」って。当時の私にとって5倍って2,000万円なんです。

その時に目標になりました。2,000万円稼げる歯科衛生士がいたら結構面白いと思うんです。いろんな方に話すと笑われることもあります。

もちろんお金だけが目標ではないですし、いま3年目の時点でまだまだですがわたしが上がれば底上げの一助になれるとも思うんです。

そのために頑張ってます。