歯科衛生士ができること〜食べる機能の発達を学ぶ〜

歯科衛生士の鯨岡紀子です。

衛生士歴34年目の現在、歯科医師の主人とともに診療所を経営し、働きやすい環境づくりにつとめています。

前回は、BLWワークショップについて記事を書きました。
(参照:食べる力を育てる“赤ちゃん主導の離乳”を学ぶワークショップが開催

今回は、摂食嚥下基礎講習会『食べる機能の発達』〜主に発達期の正常発達のつまずき〜で学んだことをまとめます。

この講習会は、千葉県歯科医師会と匝瑳歯科医師会が連携し、地域の医療従事者への教育と、地域における歯科の必要性をアピールすること、繋がりを広げることなどを目的に企画されたようです。

講師は千葉県歯科医師会障がい福祉保健委員会副委員長の鈴木真子先生。

千葉県歯科医師会障がい福祉保健委員会副委員長の鈴木真子先生
千葉県歯科医師会障がい福祉保健委員会副委員長 鈴木真子先生

この講習会は障害児(者)のための摂食嚥下指導事業ということで、保育士さんなどが多く参加されていました。

会場では飲料品に含まれる砂糖の量などが可視化された展示物が用意されていました。

砂糖の含有量を可視化した展示物
砂糖の含有量を可視化した展示物

さて、講演内容です。

今回の講演では、離乳後の特徴と、注意すべきポイントについて、8つの段階ごとに詳しく学ぶことができました。

  1. 経口摂取準備期
  2. 嚥下機能獲得期
  3. 捕食機能獲得期
  4. 押しつぶし機能獲得期
  5. すりつぶし機能獲得期
  6. 自食準備期
  7. 手づかみ食べ機能獲得期
  8. 食具食べ機能獲得期

① 経口摂取準備期

新生児には、次の5つの『哺乳のための原始反射』が見られます。

1.探索反射

口唇や頬に乳首が触れると顔を乳首に向ける。

2.口唇反射

口唇を刺激すると、口唇を丸めて突き出し乳首を捕捉する動きをする。

3.吸啜反射

口唇に乳首が触れると、母乳を吸い込もうとする。

4.咬反射

指で歯グキを刺激すると咬もうとする。

5.舌の挺出反射

固形物を与えると、舌を突出させ排除しようとする。

離乳開始となる経口摂取準備期は、この原始反射の減弱・消失が見極めどきで、指しゃぶりや玩具舐めが大切になるそうです。

口にものが入る感覚への慣れ、素材、形、硬さの違いを経験する学びとなるのです。危ないときには教えてあげます。

準備不全の場合には、拒食や過敏、摂食拒否、誤嚥、原始反射の残存といった特徴が見られます。

自分の育児を振り返りますと、月齢で離乳のタイミングを図っていました。生後何ヶ月には、これを食べるという育児雑誌に従って。

母乳と歯列の関係については意識していましたが、離乳についてはまったく情報をキャッチできていなかったからです。

② 嚥下機能獲得期

嚥下が反射から随意運動へと移行します。

乳児嚥下と成人嚥下の仕組みの違い
乳児嚥下と成人嚥下の違い

講習会では、乳児様嚥下でストロー、コップを使い飲む実習を行いました。飲みにくいし、むせてしまいます。

実習に使用したもの
実習に使用したもの

嚥下機能獲得不全だと、舌が出たり、よだれを垂らすといった特徴が見られるようです。

③ 捕食機能獲得期

口腔前方で食物の量、物性を感知します。食物にあった処理ができるようにたるための準備期です。

実習では、指名を受けた保育士さんが目隠しをされた状態で、他の受講生からプリンを食べさせてもらいます。

受講生が斜めにスプーンを引き上げたら、プリンは吹っ飛びました。保育士さんによると、どんな量が口に運ばれるかわからないという恐怖心もあったそうです。

赤ちゃんにとっては未知の体験なのですから、赤ちゃんの口の大きさに合わせたスプーンで適量を与えることが重要になります。

無理やり突っ込んだり口の周りについた食物をスプーンで拭うというのが不快な行為であるというのも、体験すればわかるでしょう。

捕食機能獲得不全であれば、こぼす、口が開き過ぎ、舌突出、食具噛みなどといった特徴が見られます。

引用:irasutoya.com/
引用:irasutoya.com/

④ 押しつぶし機能獲得期

押しつぶすことで食物の大きさが変化する感覚の体験、前歯咬断。また、押しつぶし機能獲得期になると、舌が前後だけでなく上下に動きます。

舌と上顎で押しつぶし、舌の上でまとめて飲み込みます。硬すぎるものを与えると丸呑みを覚えてしまうので、とにかく急がない!!

押しつぶし機能獲得不全の特徴は、丸呑み、舌突出、食塊形成不全です。

⑤ すりつぶし機能獲得期

臼歯が生えてくる位置の歯肉で、食物をすりつぶす動きを獲得します。

今回は、お菓子を舌と上顎で押しつぶして食べる、次に奥歯で噛むという実習を行いました。噛んでいる方の口角は上がり、左右異なる噛み方をします。

すり潰し機能獲得不全ですと、丸呑みの特徴が見られます。

⑤ 自食準備期

経口摂取準備期から続く歯がため遊び、手づかみ遊びの時期です。見たものに手を伸ばし握り掴み、叩いたりします。握った手の向きを変えたりするなど、遊びの中から学びます

自食準備不全の特徴的な症状は犬食い、押し込み、流し込み、食具を持っていられない、体を支えていられないなどです。

⑦手づかみ食べ機能獲得期

目、手、口の協調運動を獲得します。食物の入る位置、頸部回旋、口唇での取り込み、食物の入り方、指の入り方などがポイントになり、食具をもつ前にこの動きをしっかり経験することが大切です。

目で見て、指で触る。物性探知、力のコントロールの学習になります。

引用:irasutoya.com/
引用:irasutoya.com/

手づかみ食べ機能獲得期の食事は、あちこち汚れてしまうためにお母さんたちにとっては非常にストレスを感じる部分であると鈴木先生は言われました。

汚れるから、別室で遊ばせた後に一般的な離乳食を与える家庭もあるようです。でも食への介入は、間違うと母親を追い詰めることになるので保育士さんの役割が大きいという言葉が印象的でした。

手づかみ食べ機能獲得不全は、手で押し込む、引きちぎり、こぼす、咀嚼不全などの特徴が見られます。

⑧ 食具食べ機能獲得期

食具食べ機能獲得期になると、より高度に手指機能が発達。食具の使い分けをし、スプーン→フォーク→箸の順で上達していきます。

手指機能の発達の流れ(引用:のびっこだより-さいたま市認定のびっこ保育園)
手指機能の発達の流れ(引用:のびっこだより-さいたま市認定のびっこ保育園)

ここで、手と口の協調運動を無視して早期に食具を使わせると、せっかく獲得した口の機能が退行してしまうこともあります。

食具食べ機能獲得不全の特徴は、食具で押し込み、犬食い、かき込み食べ、流し込み、こぼす、咀嚼不全などです。

これらのステージは、月齢や年齢ではなく、個々の発達に応じて目標設定をすることが大切です。また、どの段階でも、獲得不全が見られた場合には、そのステージまで戻ればよいのです。

また体全体の発達・手指機能の巧緻性を上げるには、よく遊ぶことが重要となります。食事中、安定して姿勢を取れる体感の強さとバランス感覚を養うことが理由の一つです。

鈴木先生の言葉で響いたのは、

馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない。
(You can take a horse to the water, but you can’t make him drink.)

幼児、感覚敏感な自閉症児などはイヤなことを言葉で表現できません。食卓が楽しい場であること…その目的はその子の幸せ

追い詰めないことが大切です。子どももお母さんも…

BLWとは導入の際の食物の形状は異なりますが、本質の部分では共通することが多いと感じました。離乳と発達について、どんな視点で見たら良いかを知るきっかけにもなりました。

どんな風に『食べること』を育んでいくかは、家庭の方針で良いと思います。ただ核家族が多く、悩んではいるけれどどうしていいかわからないという場合に、こんな感じはどう?という助言ができたらいいのかなと思っています。正解はありません。

みんなが、一生涯美味しく、楽しく、安全に食べていけますように。

小学校勤務の際は、給食支援を行うこともありました。小学生といっても、まだ食べることを学び中だと感じる場面に遭遇もしました。(ご飯にスープをかけて食べてもいいかと聞かれたり、ソースの袋を切れないなど)

食具の持ち方、それは鉛筆の持ち方にも共通する点があります。筆圧が弱いのは、前段階での遊びが足りていなかったのかもしれません。このことは、歯磨きのテクニックにも繋がります。年齢で決めつけるのではなく発達に応じた支援が重要です。

歯科衛生士として食への支援は、誰に何ができるのか今後も考え、できることから取り組んでいきたいと思っています。