こんにちは、歯科衛生士の宮本友未です。
私は、訪問歯科に約7年従事した経験を活かし、「一般社団法人エンパシティックライフ」の代表理事として、訪問口腔ケアができる歯科衛生士の育成を日々行っています。
訪問歯科や口腔ケアを拡充するために、訪問歯科の立ち上げにおいてのコンサルティング業務や、病院・施設での口腔ケア研修も行っています。
この連載では、今までの経験を通して感じた、歯科衛生士として訪問歯科で働く魅力を、みなさんにお伝えできればと思っています!
訪問歯科との出会い
私が、訪問歯科の仕事と出会ったのは、約13年前。東京都町田市の医療法人社団 咲間歯科医院に勤めていたときのことです。
当時は、まだ歯科衛生士としての仕事をはじめたばかりでしたので、院長先生について、患者様のご自宅へ訪問し、歯科治療のアシスタント、保健指導、予防処置等を担当するのみでした。
しかし、そこで経験した世界はとてもすばらしいものでした。とくに、患者様とそのご家族様から、
歯科医院まで行きたくても、行けずに困っている私たちのところに、先生方がわざわざ来てくださるということが、とても、とてもありがたい。
というお言葉をいただいたとき、想像もしていなかった身にあまる感謝のお言葉に、恐縮してしまったことを、よくおぼえています。
当時の私たちは、診療の空き時間を活用して訪問歯科を行っていました。しかし、それが患者様にとっては大きな助けになっているということを知り、やり方や時間の工夫次第では、もっとできることがあるのではないか…?と感じました。
また、訪問歯科では、クリニックでお目にかかることのない「自分の口で食べることができない患者様」と接する機会が多くなります。「いつまでも自分の口で食べたい」という、人間がもつあたり前の願いを実現する意義や価値の大きさも同時に感じました。
このように、この分野についてしっかり勉強していけば、歯科衛生士としてできることがもっとたくさんあるにちがいないと、大きな可能性を考えるようになりました。
患者さんとの距離を近くに感じられる仕事
「クリニックで働く歯科衛生士」と「訪問口腔ケアを行う歯科衛生士」の仕事、両方の経験を重ねていく中で、「訪問口腔ケアを行う歯科衛生士」は、患者様との距離がより近くなるということを強く感じるようになりました。
口腔ケアをきっかけに、患者様から「食べる」ということに関わる、さまざまな相談をされます。また、摂食嚥下の問題を改善するために「少しでも患者様のご要望におこたえするにはどうする?」ということを、患者様本人やご家族様とともに考えることができます。
そして、「食べる」ということは、人間が生きる力の源であり、「口から食べたいものを食べられない」ということは、「生きたい」という根本的な意欲を失ってしまいかねないということがわかります。
「自分の口で食べる」ということは、単純に口腔機能の問題だけではなく、目→口腔→舌→咽頭→食道→胃腸というように、人体のさまざまな機能がすべてうまくいってはじめて可能になります。
それができなくなる原因は、単純に口腔機能の問題だけでなく、全身疾患の問題や心理的な問題も関係しています。
したがって、原因を考えずに単純にアプローチしても意味がなく、多職種連携が必要です。その中でも、歯科衛生士は口腔機能維持に関与する大きな役割を担っているため、非常にやりがいのある仕事だと思います。
私たち歯科衛生士にとって、「食べる」ということをあきらめかけていた患者様に対して、少しでも改善につながるアプローチができたときは、大きなよろこびにつながります。その瞬間こそ、私たち歯科衛生士が、社会的に価値の高い仕事をしているという実感をもてるときだと感じます。
歯科医師から見た、訪問歯科現場ではたらく歯科衛生士
最後に、私たちの仕事が歯科医師の先生方からはどのように見えているのか、訪問歯科や口腔ケアの分野でご指導いただき、お仕事をご一緒させていいただいる先生方から、メッセージをいただいています。
ひろいし歯科クリニック 廣石丈人先生
訪問歯科の現場では、歯科衛生士として輝けるステージがたくさんあります。
人生の終末期ともいえる在宅医療は、超高齢社会の時代がつづく中、歯科医院に通院することが困難になってしまった方々の口腔の健康の維持、予防そして摂食嚥下と、人が生きていくうえで大切な部分に携わります。
また、8020運動の達成率をみても、今後要介護者のほとんどが有歯顎者になる時代も遠くはありません。
身体の入り口である口腔のケアにおいては、歯科衛生士の力が必須となります。歯科衛生士が行う専門的なケアはその方の人生の最期によりそい、「食べる」ことを支える力になります。
骨折や転倒、肺炎などで一度急性期病院へ入院された方が、やせ細り、動けなくなった状態で在宅に移行するケースはよくあります。また、今まで元気に外来へ通院できた方々がいつ歩けなくなるかもわかりません。
私たちが「食べる」を支えることで、訪問先の方々とよろこびや笑顔を共有できるところに、訪問歯科の魅力がつまっています。義歯でしっかり噛めているのか?誤嚥せず飲みこめているのか?「おいしい」のその先にあるよろこびを一緒に感じることは、訪問歯科でしか味わえないかもしれません。
大切なその方の人生が、より豊かになる訪問歯科というステージ。今後の歯科衛生士の活躍に期待したいと思います。
坂井歯科医院 坂井謙介先生
超高齢社会に突入し、地域包括ケアの必要性が求められています。歯科業界は外来診療が中心であり、この本質は訪問歯科に足をふみ入れないと見えにくいものです。
訪問歯科を行ってみると、さまざまな職種や地域の関わりによって、人々の生活が支えられていることに気づくはずです。
私たち歯科医療従事者がその中ではたす役割は、歯科治療や感染予防、健康増進にとどまらず、地域医療を支える医療関係者としての社会的観点をもって行動しなければならないのです。
一方、歯科衛生士は、口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションの分野で唯一無二の存在であることを自覚し、患者さんや関係者によりそう医療人として目覚めていきます。働き方や考え方、診療内容、コミュニケーションも外来から外に向けて広がっていくことになるのです。
地域医療を支える多職種の中で、歯科衛生士が大きな役割をはたし、社会的な地位を確立していく時代がおとずれていると思っています。
訪問口腔ケアに携わる歯科衛生士さんたちは、必要な知識とスキルを身につけることに余念がありません。私はこういった歯科衛生士さんたちにやりがいを感じてもらえるよう、最大限のサポートをしていきたいと思っています。
訪問歯科や口腔ケアにご興味のある方、ぜひ一緒に学びましょう!
次回は、「これからの訪問口腔ケアについて」についてお伝えします♪
訪問歯科で働く魅力
第1回 訪問口腔ケアと歯科衛生士の果たす役割
第2回 訪問口腔ケアに従事して、見えてきた新しい世界