歯科医院内の感染管理システムを見直そう!改善のアイデア その1

こんにちは、歯科衛生士の長谷川雅代です。

私は、現在臨床現場で実際に感染管理を行いながら、一般社団法人DHマネジメント協会のインストラクターとして、定期的に感染管理対策講座を開催しています。

スタンダードプリコーションとよばれる「標準予防策」が、世界的にも定着した現在、すでに医科の分野ではあらゆる医療機関で実践されています。
(参照:医療施設等における感染対策ガイドライン

とりわけ歯科においては、 血液や唾液との接触が日常であり、感染リスクが高い環境です。そのため、感染管理に対するマネジメント能力が求められるようになってきています。

この連載では、歯科医院における感染管理システムの見直しと、環境改善に必要な解決策をわかりやすく解説します。皆さんにも共感していただきたいと思い、リアルな写真を掲載しています。

院内のメンバー全員で共通認識をもち、安心安全な医療に取り組む指標としてお役立てください。

歯科医院内の感染管理システムを見直そう!

歯科医院の感染管理の現状

歯科医院には、毎日多くの患者が来院します。
予約時間に来院した患者をお待たせしないよう配慮し、あらかじめ器材を準備し、診療がスムーズに進むよう補助を行います。そして、治療が終わったらすばやく片付け、次の患者の準備を行います。

このように、歯科医院において歯科衛生士は、施術内容や患者の様子を含めた業務記録を記入し、器具の片付けを行うなど、歯科医院では、準備・施術・記録・受付・片付けを、「ひとりで何役も行う」環境にあります。

一方、大学病院では、器材処理に集中できる環境があり、専任スタッフが配置されています。専任スタッフは、マニュアル化された安全な方法で適切に器材処理を行うことが業務で、歯科医師の診療補助や受付業務などの患者対応は行いません。

それに比べて、歯科医院には、器材処理の流れを統一するためのマニュアルがなく、感染管理に対する意識を共有できていない医院も少なくはありません。また、感染管理は、効果が見えにくい反面、労力や経費は目に見えて表れます

そのため、同じ歯科医院であっても、意識や処理内容に違いが生じてきます。

どの歯科医院も限られた時間の中で最善を尽くし、器材処理を行っているにもかかわらず、感染管理の本来の目的を見失いかねない状況にあるのが現実です。

洗い場のイメージ写真(歯科医院では非常に多くの器具が使われます)
洗い場のイメージ写真(歯科医院では非常に多くの器具が使われます)

誰のための感染管理?−器具の向こう側には患者がいる−

歯科医療に携わっている歯科衛生士の多くは、患者の健康を願い、生涯自分の歯で食事ができる口腔内を維持してもらえるよう、日々の臨床に取り組んでいます。

歯科では、診療前に採血をして感染症の有無を調べることはほとんどないため、誰がどんな感染症に罹患しているかわかりません。そんな中、唾液や血液という感染源と常に接しながら診療を行っています。

そのため、歯科の臨床現場で使用される多くの器材に対しては、「適切な器材再生」をほどこす必要があります。

器具に付着している唾液や血液を未処理もしくは不十分な処理のまま、次の患者へ使用することで、院内感染のリスクが上がります。これを回避するためには、「器具の向こう側には患者がいる」ということを、院内のメンバー全員が共通認識として持つことからはじまります。

器具の向こう側には患者がいる

誰のための感染管理?−自分の身を守るための手段−

「器具の向こう側には患者がいる」という共通認識を、院内のメンバー全員がもつことと同時に、もうひとつ大切なことがあります。

それは、自分自身を守ることです。

感染は必ずしも器具から起こるものではなく、手指を介して起こる感染もあります。個人防護具のグローブですら、ピンホールがある可能性もあり、装着しているからといって、感染から防護されているという保証はありません。

正しい知識を持って器具を管理すること、手指を衛生的に保つこと、場面ごとに必要な個人防護具を装着することといった、感染管理の習慣は、自分自身を守ることになります。

手指消毒を行う様子
手指消毒を行う様子

感染管理のプロフェッショナルを目指す

感染管理について本当に正しいのか?と不安に感じることがあれば、まずは自ら行動することが大切です。日常で習慣的に行っている動作を見直すことで、意外な気づきが得られることが多いです。

歯科衛生士は、患者の口腔内の健康を維持するためのサポートをすることが大切な使命です。それと同時に、患者が安心して通える環境、歯科医療従事者が安心して働ける環境を積極的に見直すことも求められています。

感染管理の改善をきちんと行うことができれば、臨床への自信に繋がり、「感染管理ができます!」と言えることで、自分の強みにもなると思います。

次回は、感染管理を行うために現状を確認する方法についてお伝えします。