こんにちは、増田梢です。
日本顕微鏡歯科学会認定歯科衛生士の資格を取得し、臨床のさまざまなシーンでマイクロスコープを活用しています。
私にとってマイクロスコープは、日々の臨床で歯科衛生士の楽しさ、大切さ、そして必要性を感じるツールのひとつです。
今回は、マイクロスコープを実際に臨床で使用する時のコツについて、実体験に基づいてお伝えしたいと思います。
前回の記事はこちら
第1回 私がマイクロスコープを使う理由
第2回 準備と使い方
臨床でつまずきやすいポイント
マイクロスコープを導入しようと思っても、実際に使いはじめてみると困ったことがたくさん起こるものです。
私自身、臨床で使用するようになってからは、マイクロスコープが何かを見せてくれるのではなく、みずから見ようとする努力が必要なのだと気づかされました。
たとえば…
- ピントが合わない
- 見たいものが中心にない
- 画像がぶれてしまう
- ミラーできれいに見えない
- インスツルメントの操作がうまくいかない
- 臨床で使用すると時間がかかってしまう
- 記録がうまく撮れず、何を伝えたいのかわからない
などなど。つまずいたり悩んだりしながら、試行錯誤を重ねました。
今回は私が実際の臨床で、このようなつまずきに対してどのように向き合ってきたかをお伝えしていきます。
お伝えする内容は大きく分けて、以下の4つ。
- 視界を自在に確保するコツ
- ミラーを適切に使用するコツ
- 事前準備と計画の重要性
- 伝わりやすい記録と説明を行うためのポイント
それでは順番に詳しく見ていきましょう♪
1.視界を自在に確保するコツ
被写界深度を理解する
被写体をきれいに見るためには、「被写界深度」を理解しておく必要があります。
被写界深度とは、ピントが合っている被写体までの距離のこと。同じものを見ていても、倍率によって対象物までの被写界深度が変化するため、見え方が変わります。
ポジショニングと固定を意識する
良好な視界を得るために大切なことは、ポジショニングと固定です。
まずどこを見たいのか考え、適切な位置にポジショニングします。体がブレると視界のブレや移動、ピントのズレが起こってしまうため注意しましょう。
また、ミラーを臨床で使用する時も、ブレない工夫が必要です。ミラーを口腔内のどこかに固定したり、手首を頬骨に固定したりして、適切なポジショニングを意識してみてください。
2.ミラーを適切に使用するコツ
ミラーの構造を理解する
拡大した像を見る時、重要な役割を果たすのが「ミラー」です。
ミラーには主に「ガラスミラー」と「表面反射ミラー」がありますが、私は「表面反射ミラー」を使用しています。
表面反射ミラーは鏡面にコーティングが施されているため、反射像が二重にならず、高反射率により明るい像が得られるのが特徴です。
コーティングの種類には、タンタルコーティング、ロジウムコーティング、チタンコーティング、HDコーティング(Hu-Friedy社独自開発)などがあります。
ミラーの扱い方に注意する
術者はミラーが汚れていたり、傷ついていたりすると、知らず知らずのうちにストレスを感じてしまいます。ミラーの取り扱いには十分注意しましょう。
くもりへの対処
くもってしまうのは、ミラーと口腔内の温度差が原因です。ミラーを人肌で温めておき、患者さんに鼻呼吸してもらうなどの工夫をするとくもりにくくなります。
水滴への対処
たとえば27番を見る場合などは、写真のように対象物からなるべく遠いところにミラーを固定すると水滴の影響を受けにくいです。
ミラーにあえて水をつけて表面張力を活かす「ウェットビュー」や、エアーの出るミラーを使用してみるのも良いでしょう。
汚れへの対処
鏡面を粘膜につけずに排除するとクリアな像を維持できます。
3.事前準備と計画の重要性
実際の臨床で使用してみると、マイクロスコープでしか見えないものが見えるようになり、やりたいことや患者さんに見せたいことが増えるようになります。
一方で、決められた予約時間内で歯科医師や患者さんに情報共有を行うことは大変になりました。
どうしたら効率良く進められるのか考えた結果、現在は以下のことに気をつけるようにしています。
- 今回の診療で何を目的とするかを決めておく
- 時間配分を事前に考えておく
- 必要な器具は事前にすべて用意しておく
- 記録を患者さんに伝える時間を残しておく
- 精密な治療の場合は予約時間を十分に確保しておく
4.伝わりやすい記録と説明を行うためのポイント
マイクロスコープを使用して何かわかったことがあれば、患者さんにも理解して持ち帰ってほしいですよね。
せっかく記録をつけていても、伝えることができなければその良さが半減してしまいます。
記録と説明を行う際は、ぜひ以下のポイントに注目してみてください。
- 何を伝えたいのかストーリーを考え、ポイントをおさえて記録する
- 規格性を意識して記録する
- 術者が見ている視野を、患者さんはすぐには理解できないということを念頭においておく
今回のおわりに
「“Back to the Basic”、基礎がなければ応用もない。」
これは尊敬する歯科衛生士の先輩にもらった言葉です。マイクロスコープを臨床で使いはじめて、あらためて心に響きました。
マイクロスコープでの操作は直視やルーペとは異なり、インスツルメント操作が自分の思うように操作できなかったり、適切な位置にマイクロスコープを持っていけなかったりと、もどかしい経験をたくさんしてきました。
しかし、マイクロスコープの基礎が大切なのだと痛感し、その上で使い続けていくことで、自分の癖を改善できたり、これで良かったのだと思えたりすることも多々ありました。
困りごとや悩みがあったからこそ、試行錯誤して考えるきっかけになりましたし、たくさんの疑問から得られた学びはかけがえのないものです。
マイクロスコープを通して、一緒に成長していきましょう!
マイクロスコープを活用しよう!
第1回 私がマイクロスコープを使う理由
第2回 準備と使い方
第3回 臨床でつまずきやすいポイント