読者の皆さま、はじめまして。歯科衛生士の長内香織と申します。
歯科衛生士のみなさんは、日々の臨床の中でこのようなことに悩んだ経験はありませんか。
実は、歯科衛生士に必要な知識や情報、歯科衛生士の役割を、医師の立場から発信している先生方がいらっしゃいます。
この記事では、様々な専門の医師の先生方に、普段聞けない知識や情報を対談形式でお聞きします。
日常の臨床に活かせるヒントや、みなさんが持つ悩み解決のきっかけを見つけていただければ嬉しいです。
第1回は内科医の桐村里紗先生。
桐村里紗先生のプロフィールはこちら(WHITE CROSS「歯科医療人紹介」へ)
幼い頃から病気で落ち込む母親を見てきたことから、“病気を治すのではなく、予防したい”という思いを強くもっている桐村先生。
2018年に執筆された『日本人はなぜ臭いといわれるのか』という本はAmazonで大ヒット。
日々の臨床の中で、一生懸命スケーリングやブラッシング指導をしても、次のメンテナンスの時にはプラークがたくさん…
患者さんにももっと真剣に予防歯科に取り組んでもらいたい、と思うことはありませんか。
こちらの本は、“におい”という視点から、予防の重要性を伝えています。
執筆のきっかけ
桐村先生(以下敬称略):いかに健康に興味のない人に、予防という観点をもってもらうかということを考えて作った本です。
たとえば、血液検査の結果が悪いことを医者は気にするんです。でも、患者さん本人は何か症状がないと痛くもかゆくもないので、何を言っても気にされない人がほとんどなんですよね。
長内:歯科もそうですね。何かしら悪くなって治療してからメンテナンスの重要性に気づかれる方が多いです。むし歯や歯周病になったことはないけれど、予防に通われているという方は本当に少ないです。
そこをどう啓発していこうか悩んでいたときに、この本に出会いました。
この本では病気の症状ではなく、においにフォーカスしていて、予防歯科の大切さをいつもとは違った視点で伝えられるので、患者さんがとても興味を持ってくださるんです。
桐村:思う存分好きなことをして、体を壊してから気づいて病院に行くというところは似ていますね。その末路を医療従事者は知っているけど、患者さんにはなかなか想像してもらえない。
そんな中で、唯一生活習慣病で自分も他人も感じることができるのが“におい”だったんです。
自分が発しているものでも、周囲にも伝わってしまうもの。
日本人の他人に嫌われたくない、不快な思いをさせたくない、という気持ちのスイッチを押すことができるのがにおいかな、と思ってこの本を執筆しました。
本の反響
桐村:わりと実践的に書いたので、歯間ブラシやフロスを使い始めました、という声が一番うれしいですね。
長内:それはかなり嬉しいですね!フロスを勧めてもなかなか使用してくれないと悩んでいる歯科衛生士は少なくないと思います。
それにこの本は偏った知識ではなく、どの項目も丁寧に書かれていたことが本当に感激しました!
歯ブラシの選び方や磨き方、歯間ケアから全身疾患、プロバイオティクスのことまで…ポイントをおさえられていて、誤解を招かないように書かれている部分が、すごく考えられて書かれているなぁと感じました。
歯科衛生士学校の学生さんにも読んでもらいたいです。
桐村:一般の人に教科書的に読んでもらいたいと思って書いたので、よかったです。
医療もオーダーメイドの時代なので、絶対この方法がその人に合っている、とは限らないんです。
あの人に合うものがこの人には合わないかもしれない、といった可能性は常に考えておかなければいけません。
長内:医療もオーダーメイドの時代。本当にそうですね。
私たち歯科衛生士も、一人ひとり違うライフスタイルと口腔環境に合わせた指導をしていくことが常に大切だと教えられています。みんなに同じ指導をしていては、患者さんには響きませんもの。
日本の医療が抱える課題
桐村:ひとつは国民皆保険のあり方ですね。歯科は少ない方だと思いますが、医科はほとんどの病気が保険治療の範囲。
日本だと、病気になって破産するなんてことはないので、予防に対するモチベーションが上がらないんですよね。予防をしないことで何が起こるかまで、なかなか訴求できていないんです。
長内:歯科もその傾向があって、ただ予防のために歯磨きしましょう、と言っても聞いてもらえない。
私は保育園などでのブラッシング指導の際には、実際のプラークを顕微鏡で見たものや、実際のむし歯末期の患者さんの写真を見せることで、こうならないように歯磨きをするんだという意識を植え付けています。
マイナス1歳から始める予防歯科、内科医の視点から
長内:予防については、子どもたちもそうなんですけど、そのご両親や指導をしている保育士・幼稚園教諭の意識を高めていただくことが重要だと思います。
ただ、最近はむし歯菌が親から移るということが知られてきているので、産婦人科とタッグを組めば、子どもが生まれる前のお母さんたちに、興味がある時期に意識づけができるのかなと思っているんです。
桐村:それ、本当に大事です。
いま栄養外来をしているのですが、不妊治療で来られる方が結構いらっしゃいます。血液検査して、銅と亜鉛の比をみると、体のどこかに炎症がある方が結構多いんです。
原因は色々ありますが、他の臓器に心当たりがない方というのは、歯周炎のことが多いです。
歯周ケアしていますか?と聞くと、されてない方が多くて。歯周病で早産や流産、低体重児出産のリスクが高まるという統計が出ていることを知ってもらいたいです。
長内:本当は産婦人科に来ている方だけではなく、妊活中の方にも知ってもらいたいですね。
内科医から見た医科歯科連携
桐村:生活習慣病の分野の学会に行くと、いかに歯周病が内科疾患を助長するかということを習うので、これは口腔ケアしなきゃ、と思うんです。
でも、実際に現場で口の中を診ることはできないし、丁寧に予防歯科の必要性を伝える時間もありません。親切な医師であっても、「歯科医院に行ってね」と助言するくらいしかできないのが現状です。
歯科衛生士に期待すること
桐村:歯科衛生士さんは、患者さんにとってより身近に日常のケアを指導できる存在です。
生活習慣病の予防は、いかに生活の中に取り入れられるかということが大切。できるだけ患者さんの話を聞いてあげてほしいです。
あとがき
生活習慣病はその名の通り、生活習慣を何かしら変えなければ改善しません。その生活習慣を変えるということには、本人の意識変換が必要不可欠です。
「におい」をフックにした予防啓発。
誰しも感じる「くさい」と思われたくないといった潜在意識をノックし、その「におい」に予防の大切さを絡めて伝えていく方法が、想像以上に行動変容につながることを臨床や身内でも実感してきました。
そして内科医の立場から、口腔ケアの重要性を啓発されている桐村先生に学び、私たち歯科衛生士も一人一人の患者さんに予防の大切さを響かせていかなければならないと強く感じる対談でした。
桐村先生、有難うございました。
この本には症状別のにおいの種類なども書かれており、歯科衛生士が患者指導に使える情報が多く記載されています。
是非みなさん、ご一読ください!