歯科医師、歯科衛生士、歯科助手と呼ばれる人がいるのは知っているけど、「歯科技工士」って聞いたことないな…という方も多いのではないでしょうか。
でも歯科技工士はとっても身近な職業で、おじいちゃんの入れ歯も、おかあさんの白い被せ物の歯も、スポーツ用のマウスピースだって作る、お口の中に入るもののスペシャリストなんです!
1.歯科技工士って何?
2.歯科技工士の仕事内容は?
3.歯科技工士に向いている人は?
4.歯科技工士になるためにはどうすればいいの?
5.歯科技工士学校の費用はどれくらい?
6.国家試験の合格率
7.歯科技工士の給料
8.歯科技工士の数と求人状況
9.歯科技工士の離職率は?
10.歯科技工士として働く場所は?
11.歯だけじゃない!エピテーゼに特殊メイク?!
12.世界の歯科技工士事情_すごいぞ世界のセラミスト!
1.歯科技工士って何?
歯科技工士(Dental Technician/Dental Technologist/略してDTとも呼ばれる)は、厚生労働省が認定している国家資格です。
国家資格とは国の法律に基づいて証明されている資格で、歯科医院においては欠かすことのできない重要な職種です。一度資格を取れば更新は不要ですので、一生「歯科技工士」としての肩書きを持つことができます。
2.歯科技工士の仕事内容は?
歯科技工士法 第2条では、次のように定義されています。
「歯科技工」とは、特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物、充てん物又は矯正装置を作成し、修理し、又は加工することをいう。ただし、歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く
(歯科技工士法より抜粋)
現在の歯科医療保険制度では、銀歯(インレー・クラウン・ブリッジ等)や入れ歯の製作、矯正装置などの製作を行うなど、歯科医療の一端を担う重要な役割です。
近年では、歯科用CAD/CAMシステムや3Dスキャナーの普及により、歯科技工士の業務内容はデジタル化しています。
「歯科技工所」というと、粉塵などで汚い職場であるといわれていた時代もありましたが、デジタル化にともない、きれいな環境の歯科技工所が増えているようです。
デンタルテクニシャン/テクノロジストと呼ばれる通り、歯科技工士の業務には繊細な技術力が求められます。直接患者さんと触れ合う機会は少ないものの、食べることに直結する “咀嚼(噛む)” を支える非常に重要な役割を担っています。
また、セラミックを使いこなすテクニシャンは「セラミスト」と呼ばれ、歯科医師からも一目置かれる存在です。
3.歯科技工士に向いている人は?
何よりも小さな歯を正確に再現するお仕事ですので、細かい作業が必須になります。
とくに前歯を再現するという意味では色を再現するセンスも必要になり、歯科技工士はアーティストのような美的感覚の側面も少なからず必要です。
また、これからの歯科医療は歯科用コンピュータを使うデジタル時代になっていきますので、最先端の技術に興味がある方やものづくりを得意とする方にも向いているお仕事です。
4.歯科技工士になるにはどうしたらいいの?
歯科技工士になるには、歯科技工士国家試験に合格する必要があります。
歯科技工士国家試験の受験資格は、歯科技工士養成所(いわゆる歯科技工士学校)に入学し、2年以上学び知識や技術を学ぶと得られます。歯科技工士学校に入学するには、高校卒業の資格が必要です。
① 歯科技工士学校に入学するには
高校卒業の資格が必要です。高卒認定をもって、歯科技工士学校を受験することが可能になります。
② 歯科技工士学校の種類と期間
歯科技工士養成校には、専門学校と4年制大学、2年制の短期大学があります。もっとも多いのが2年制の専門学校ですが、3年制の専門学校もあります。
3年制では、1年長く勉強する分、CAD/CAM技工やスポーツ歯学、英語教育などを取り入れている学校もあるようです。また、働きながら歯科技工士の資格を目指す方のために夜間部を設けている専門学校や、聴覚障害者のための専門学校もあります。
4年制大学では、一般的な大学と同様に一般教養課程があり、外国語や統計学、化学基礎科目などを選択して学習することができます。その後、実習等を行いながら卒業研究を行います。
③ 歯科技工士学校に通っている人
歯科技工所は男性の職場というイメージを持っている方も多いですが、実際は女性も多く在籍しています。
講義を教えてくれる先生は、多くの臨床経験をもつ歯科医師や歯科技工士の先生や、大学の教授を務めている先生といった、その道の講師による講義や実習が行われます。
5.歯科技工士学校の費用はどれくらい?
歯科技工士は学費以外にも実習費や材料代がかかるため、歯科衛生士学校より学費が少し高額になる傾向があるようです。
2年制から4年制までが存在しているため、一概に平均を出せませんが、初年度納入金は130から160万円ほどが必要になります。
学校によっては奨学金制度や教育ローンなどを用意しているところもあります。
6.国家試験の合格率
国家試験は1年に1回のみ、現在は2月中旬に行われています。平成30年に行われた歯科技工士国家試験の合格者数は839名で、全体として受験者の合格率は 94.7%でした。国家資格の中でも高い合格率を誇り、安定して合格できる資格といえます。
(参照:平成30年度歯科技工士国家試験の合格発表について-厚生労働省)
また、今まで養成校がある都道府県知事が各々実施していた歯科技工士国家試験は、平成28年から全国統一化されました。
(参照:歯科技工士法改正に関する資料)
そのため、今まで実技試験で行われていた全部床義歯の人工歯排列や歯肉形成、クラウンのワックスアップなどは廃止され、歯型彫刻、ワイヤーベンディング、歯のデッサンの3題に簡素化されています。
7.歯科技工士の給料
歯科技工士の働き方はさまざまで、歯科技工所の規模や開業の有無によって大きく異なりますが、全国平均の年収は434万円(平均年齢43歳)で、内訳としては月給:32万円+年間賞与:42万円でした。
(参照:平成28年 賃金構造基本統計調査-厚生労働省)
技術職のため経験の浅い歯科技工士の賃金は低く、経験を積むことで年収も上がる傾向にあります。
また、技術職がゆえ、一度離職してしまうと感覚が取り戻しづらいために復職を懸念する歯科技工士もいます。一方で、「もっと臨床のことを知りたい」という強い思いで歯科衛生士や歯科医師の国家資格を取り、ダブルライセンス保持者として働く歯科技工士もいます。
8.歯科技工士の数と求人状況
厚生労働省が発表した平成30年 衛生行政報告例によると、現在歯科技工士として働いている方は、全国で34,468人といわれています。
歯科医院は全国に69,000軒存在していますので、単純計算で2つのクリニックを1人で請け負っていることになります。そのように歯科技工士の数は全国的に不足しているため、求人倍率は高くなっています。
9.歯科技工士の離職率
専門学校を卒業して5年以内の離職率は、8割と言われています。
「7. 歯科技工士の給料」にも記載した通り、卒後の年収は低い傾向にあり、かつ人材不足でハードな労働環境を強いられることが原因のひとつにあるようです。
10.歯科技工士として働く場所は?
歯科技工士学校を卒業した後は、主に歯科技工所・歯科医院・独立開業の3つの進路があります。
歯科技工所(通称「ラボ」)で働く歯科技工士は、さまざまな歯科医院から注文を受けて技工物を製作します。歯科技工所によっては、海外からの依頼を受けているところもあります。
歯科医院で働く歯科技工士は、基本的には勤め先の歯科医院に通う患者さんの技工物を製作します。歯科医院によっては、歯科技工士が印象採得を行なったり、患者さんへの説明を行ったりするところもあります。
また、「9. 歯科技工士の離職率」でも記載した通り、現状では離職してしまう歯科技工士が多く、離職した方は歯科医院の事務長や歯科関連企業など、歯科の知識を活かした職種に勤める方もいるようです。
11.歯だけじゃない!エピテーゼに特殊メイク?!
歯科技工士の中には、エピテーゼの製作や、特殊メイクを行なっている方もいます。
「エピテーゼ」とは、事故やがんなどで生じた体の欠損部に対して、審美的な回復を行うための医療用具です。眼や指、耳、乳房などをリアルに再現していくのですが、実はこの技術、歯科技工の技術に通じているのです。
細やかな皮膚のシワを加えたり、毛細血管などを着色していくことで、本物と見分けがつかないくらいに仕上げます。
エピテーゼは、体の一部を失った患者さんの精神的苦痛を解放することができるという、大きな役割を果たしているのです。
さらにこの技術、映画などの特殊メイクなどにも通じる技術なんです。なんでもリアルに作り上げる、歯科技工士ならではの凄技ですね。
12.世界の歯科技工士事情_すごいぞ世界のセラミスト!
歯科技工士は給与面や離職率など決してネガティブな現状ばかりではありません。
日本人歯科技工士の繊細さと日本の技術は、アメリカやヨーロッパなど世界中で“飛び抜けて素晴らしい” と評価されています。日本には一流のセラミスト(歯科技工士)がたくさんいますから、歯科技工士として学ぶには他国にはない恵まれた環境です。
歯科医師や患者から「一緒に仕事をしたい」「私の歯をつくってほしい」と指名されるセラミストも多く存在し、各国からその技術を学びに来日する歯科医師や歯科技工士がいるほどです。歯科技工士は自分の腕と努力次第で、歯科業界で最も飛躍できる職業です。