義歯(デンチャー)は、欠損歯を補う補綴として代表的な治療ですが、歯科衛生士がしっかりと学ぶ機会が少ないように思います。
今回は、今さら聞けないデンチャーに対しての内容を、Q&A形式でまとめられた一冊をご紹介します。
超高齢社会に突入し、寿命が伸び、残存歯も増えてきています。一方で、義歯やインプラントのサポートを受けている場合も少なくなく、今後も増えて行くことは想像に難くありません。
口腔内で機能しているデンチャーが長期間不自由なく活用されるには、適切な管理が欠かせません。(introduction より引用)
当書はDHstyle増刊号として、編集委員に千駄木あおば歯科の谷田部優先生、神奈川県のナカエ歯科クリニックの前畑香先生と、補綴デンチャーのスペシャリスト2名の先生によってまとめられています。
歯科衛生士にとって今さら聞けない有益な情報が多いので、若い歯科衛生士さんも、ベテランの歯科衛生士さんも必読です。
当書は、以下の項目に分けて書かれています。
- 第1章 パーシャルデンチャー
- 第2章 フルデンチャー
- 第3章 メインテナンス・訪問歯科診療
早速、それぞれの章の内容とポイントを説明していきましょう。
最新治療もインプット!パーシャルデンチャーの基礎から応用まで
歯が抜けた後、そこの部位はどのように変化するのでしょう。
そして抜いた後、そのまま放置していくとどうなるのでしょう。
第1章のパーシャルデンチャー編は、抜歯後の生体の変化から、欠損部を放っておくことによる障害を解説するところからはじまります。
印象的な部分をあげると、第一大臼歯を1歯失った場合の咀嚼率は、全歯列が整っていたときの50%以下になることが示されている部分です。咀嚼率の低下を数値で表現すると、感覚論よりも理解しやすいように感じます。
他にも、欠損歯における治療法の選択肢や、パーシャルデンチャーの構造から製作手順だけでなく、パーシャルデンチャーを入れにくい口腔内の見分け方なども質問にあげられており、著名な先生方がわかりやすく回答されています。
さらに、インプラント・アシステッド・リムーバブル・パーシャルデンチャー(IA-RPD)についても記載があり、勉強になりました。
IA-RPDは、遊離端欠損に対してインプラントを埋入することで、パーシャルデンチャーの沈下防止と咀嚼能力の向上を期待する治療法です。
このようなインプラントとデンチャーと残存歯が混在する口腔を管理するには、より一層患者さん自身にセルフケアの重要性を理解していただき、メインテナンスを継続していただかなければいけません。
最近ではより多くの情報を欲する患者さんも増え、深い質問をされる場面も多々あります。そんな時にしっかりと医学的に回答ができるよう、基礎的な内容を学び直すきっかけになりました。
フルデンチャーの製作〜食事指導のギモンを解決!
第1章のパーシャルデンチャー編に続き、第2章のフルデンチャー編でも、義歯の製作から種類まで、一から解説されています。
この章を読むと、パーシャルデンチャーとフルデンチャーでは使用する材料や形態が違うこと、そのため管理方法や清掃方法が違って当然ということに気づきます。
製作工程の中で、特に歯科衛生士が携わることといえば、印象採得と石膏注ぎです。フルデンチャーの場合、どこに注意して石膏を盛るべきか、写真つきでわかりやすく解説されています。
歯科衛生士が行うことが多い工程ですが、基本や理論を理解していないと、完成時にとても大きな誤差や変形となってしまう可能性があります。
印象剤や石膏の混水比、効果時間、または練り方などもしっかりと見直してみましょう。
また、無歯顎の患者さんであっても服薬が歯肉に悪影響をおよぼすことや、唾液が出にくいフルデンチャー装着者への対応など、知っておかなければない項目が盛りだくさんでした。
他にも、
- フルデンチャーを入れるとものを飲み込めない原因は?
- フルデンチャーを入れても味はわかるの?
- フルデンチャーを入れると鼻のシワがなくなるの?
などの質問に理論的に答えられており、臨床で患者さんに質問されそうな項目が多くみられます。
中でも「フルデンチャーで噛みにくいものは?」のページに、食品群の分類表が記載されてあったのが印象に残っています。
もっとも噛みにくい群の食品の中に、生アワビ、酢だこ、生人参などが記載されてあり、現在矯正中の筆者にとっても、大きく頷ける内容の食材ばかりでした。
このような情報を知ることで、詳細な食事指導ができれば、フルデンチャーの方でも迷わず食事をすることに貢献できるのではないかと感じます。
また、第1章と同じく、保険の義歯と自費の義歯の違いについても詳細に説明されています。
材料の違いだけでなく、手間と期間の違いや製作工程の内容も記載されているため、患者さんに双方の利点欠点を理解してもらえるような説明が行えるようになることでしょう。
無歯顎患者にも必要?メインテナンス・訪問歯科診療
第3章では、歯科衛生士が一番気になる質問がありました。
- メインテナンス時にどこを診ればいいの?
- 無歯顎でもメインテナンスは必要?
皆さんならどう答えますか?
もちろんパーシャルデンチャーやオーバーデンチャーのように残存歯があれば、口腔内のメインテナンスはかならず必要です。
では、無歯顎の患者さんがメインテナンスに来院されたら、どこを診て、何を行えばいいのでしょうか。
まずは、義歯性口内炎、義歯性線維症やフラビーガムのような、顎堤粘膜の変化に気付く必要があります。
また、ビスフォスフォネート製剤を服用している患者さんの場合、副作用で義歯性潰瘍ができていないかどうか、それが顎骨壊死に発展しないように、早期の発見や対応が重要です。
他にも、「義歯使用患者のメインテナンス時にはどんなことを指導しますか?」という質問が。
それに対して当書では「残存歯同様、義歯も染め出し、プラークの付着部位を視覚的に確認し、患者さんの清掃に対してのモチべーションを高めることが有効」だと述べています。
さらに義歯洗浄剤の使い分けも掲載されており、ティッシュコンディショナーや軟質義歯裏層材が施されている場合の洗浄剤選びにも役に立ちました。
- 管理方法について、就寝時には義歯を外した方がいいのでしょうか。
- 義歯はつけたまま就寝した方が良い症例はどんな方でしょうか。
- 義歯を洗うとき、歯磨剤は使用しても良いのでしょうか。
といった、患者さんからよく尋ねられる質問の答えも、当書に載っています。
そして、歯科衛生士の役割は、患者さんとの何気ない会話から、生活環境や生活習慣を把握し、個々人に合った保管方法を提案すべきだと述べられています。
最後に、訪問歯科診療について書かれています。
- いざ訪問歯科診療をはじめるとなったら、何から準備したら良いのでしょう。
この項では、訪問前に必要な手続きから、実際に準備するもの、訪問歯科診療の特徴までがまとめられています。
筆者は、15年ほど前に訪問歯科診療の現場で働いていました。その際、車椅子だった患者さんが、義歯を入れたことで立てるようになった現場に立ち会ったことがあります。
他にも義歯で噛めるようになったことで、きざみ食から固形食に変えることができ、食事の時に笑顔が見られるようになった方もいました。
義歯とは、咬合や咀嚼ができること以外にも患者さんが受ける恩恵はとても大きく、生活のQOLに大変影響するものだと痛感しています。
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私たち歯科衛生士は、歯の予防家です。
義歯にならないようにすることが理想ですが、超高齢社会に突入した現在、義歯がなくなることは考えにくいでしょう。
また、現役の歯科衛生士では、カリエスや歯周病については実際に体験した方が少なくないかもしれませんが、実際に義歯を使用して、体験談を話せる方はそれほど多くはいないと思います。
義歯を使用することになってしまった患者さんのQOLを下げないためには、私たち歯科衛生士がしっかりと義歯の管理方法を伝えることが重要です。
また、口腔機能の回復のその大切さを患者さん自身、場合によっては患者さんのご家族や介護に携わる方に発信していかなければいけないと強く感じました。
義歯についての基礎から管理方法までまとめられた当書は、改めて義歯を学ぶのにオススメの一冊です。
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