グリフィス友美が解説!アメリカの歯科衛生士事情 #01 歯科衛生士学校編

はじめまして、アメリカで歯科衛生士として働いているグリフィス友美です。

みなさんは、異国で働いてみたいと思ったことはありますか?

私は、日本で歯科衛生士として勤務した後、自分の思い描く歯科衛生士像を実現するため渡米しました。

インタビューはこちら:わたしのDHスタイル #44 グリフィス友美さん

この経験から、アメリカで働く歯科衛生士について、みなさんに詳しくお伝えできればと思います。

今回は、アメリカの歯科衛生士学校の教育制度や国家試験についてお話ししていきます。

アメリカの歯科衛生士学校の教育制度

アメリカの歯科衛生士教育における学位は、2年制の準学士号と4年制の学士号、そして大学院の修士号に分かれています。

まず、2年制の準学士号を取得することで、歯科衛生士業務に携わることができます。

準学士号は、初級の資格であり、最短で歯科衛生士のライセンスが取得できます。ただ、この資格では、公衆衛生の仕事や大学でインストラクターとして指導を行うことはできません。あくまでも、一般歯科や歯科業界での営業の仕事が多いです。

公衆衛生の仕事や大学でインスタラクターになりたい場合は、学士号を取得する必要があります。

学士号は、教育の向上を目的とした学位取得プログラムなので、歯科衛生士学をさらに深く学ぶことができます。

学士号を持つ歯科衛生士は、主に研究者や、公衆衛生の分野、教育者(大学でインストラクターや教授として指導が可能)を目指すことができます。

さらに上級学位である修士号を取得すると、歯科医療や歯科教育、ヘルスケア提供の分野で、より幅広いキャリアを築くことができます。

修士号を目指す方は、大学の教授や学会などで活躍されるスピーカーの方が多いと思います。

これらのプログラムの多くは、フルタイムまたはパートタイムで提供されており、オンラインなどの遠隔教育で受講することが可能です。

受験について

アメリカでは、ほとんどの歯科衛生士学校において、願書申し込みの条件として、あらかじめ決められた必須科目を修了しておく必要があります。

これは主に、一般教養(英語、コミュニケーションなど)と理数系(化学、数学など)の科目になります。

ただ、歯科衛生士のライセンスは州ごとに管轄されているため、州や学校によって必須科目は違います。

そして、この必須科目を修了するのに、約1年かかります。

ですので、まずどこに入学するのかを選択し、願書提出までの道のりを自分で綿密に計画していかなければなりません。

私が卒業したネバダ州にあるCollege of Southern Nevada Dental Hygiene Program(CSN)への入学試験は、ポイント制です。

母校の歯科衛生士棟
母校であるCSNの歯科衛生士棟

試験は、空間的な手先の器用さと基礎学力(読解力、数学、化学、英語)を測るものがあります。

基礎学力では、必須科目である理数系の偏差値が高いほどポイントが上がります。また、歯科助手として勤務した経験も加算されます。

そして、すべての試験の合計ポイントが高い順に、毎年25名が入学を許可されます。

授業について

試験に合格したら、まず入学前のオリエンテーションに参加します。

この日に、講義で使用する大量の器材などが各生徒に配られます。拡大鏡など調整が必要なものは、業者の方がきてフィッティングをしてくれます。

必要な器材がすべて揃ったら、ようやく1学期のはじまりです。学期がはじまると、それぞれのクラスで授業計画が配られます。

講義はエッセイやプレゼンテーション、グループディスカッションなども多く、テストの点数だけではなく、すべての総合点数でクラスが通過できるかが決まります。

また、学期毎にスケジュール2年間のプログラムが決められているため、学期毎スケジュールが決められているため、合格基準を満たせない場合は1年生の1学期からやり直しになってしまいます。

私の母校であるCSNでは、最初の学期で1割ほどの学生が落第します。

アメリカの歯科衛生士学校は入学することも難しいですが、卒業することもなかなか大変なのです。

実習について

日本の歯科衛生士学校で「実習」といえば、歯科医院や大学病院を連想する方がほとんどではないでしょうか。

アメリカの校外実習は、幼稚園や小学校がメジャーです。ちなみに私の学年では、女子刑務所で受刑者へのスケーリングを行いました。

特に校内実習においては、特に大きく日本との違いがあると思います。

CSNでは、校内に実際のクリニックと同じように診療が行える臨床実習用のラボがあります。

隣接する歯科診療所もあるので、何かあればすぐに歯科医師を呼べるようになっています。

ラボには、約20台のユニットがあり、1人の学生につき1台のユニットが使用できます。

そして、25名の生徒はAとBの2つのグループに分かれ、2人の学生に1人のインストラクターが付くようになっています。

プログラムは、受講できる学生数に制限があります。それはユニット数に限りがあることに加え、各学生がより細かい指導を受けられるように設定されているからです。

実習は、まず学生各自で患者をスクリーニングし、実習に必要なケースタイプを探すところからはじまります。誰でも良いというわけではないので、探し出すにも一苦労です。

ケースタイプは以下の5段階に分類されます。

  • 0(健康)
  • 1(歯肉炎)
  • 2(軽度の歯周炎)
  • 3(中度の歯周炎)
  • 4(重度の歯周炎)
  • 5(侵襲性歯周炎や若年性歯周炎など)

6点法でプロービングポケットデプス(PPD)と、エクスプローラーで1顎に歯肉縁下歯石がどのくらいあるかを調べた上で、患者を選びます。

このスクリーニングにより、患者の歯肉炎や歯周炎などの進行度を理解し、歯石のある場所を的確に確認できるようになることが理想とされます。

また、薬の服用歴がある患者については、その薬の種類、副作用、歯科ではどのような影響があるかを調べておきます。

他にも、キャビトロンやピエゾなどの超音波スケーラーや新しい器材、治療用薬剤の使い方、用途をすべて理解しておきます。

その後、実習内で実際に治療を行います。

このように、学生の頃から厳しい実践を叩き込まれるので、卒業して働きはじめる頃にはすべてができるようになっているというわけです。

国家試験と臨床試験について

日本の歯科衛生士の場合、筆記のみの国家試験に合格すればどの都道府県でも働けますよね。

それに対しアメリカでは、国家試験、臨床試験に加え、業務を行う州ごとに州法試験に合格する必要があります。

国家試験

試験はすべてコンピューターで行われます。

問題数は、多肢選択式の350問。

試験問題は2つのグループに分けられており、セッション1では歯科衛生士業務の科学的根拠、歯科衛生士の臨床サービスの提供、地域保健/研究の原則の分野から200問が出題されます。そしてセッション2では、歯科衛生士の患者のケーススタディ12〜15症例から150問が出題されます。

また、試験時間は最長8時間。休憩時間はその時間の中で、自分のペースで取ることができます。

セッション1とセッション2の間に30分間の休憩を取り、各セッションのうち、好きなタイミングで15分ずつの休憩を取ります。

もちろん、休憩を取らずにすべての問題を終わらせ、早く退出することもできます。

合格率については、日本が約95%であるのに対し、アメリカでは約75%です。

臨床試験

以前は州によって、臨床試験の内容が違いました。ですが最近は、ほとんどの州でADEXと呼ばれる共通の試験が行われています。
(参照:Dental Hygiene (ADEX)-CDCA

このADEXは、患者治療(臨床能力、判断力の評価)コンピューターシミュレーションの臨床検査、2つの試験からなりたちます。

臨床能力の試験では、歯石の検出と除去、歯周ポケットの深さの測定、組織管理、および最終的な症例の提示が求められます。

判断力は、臨床能力の試験を行う患者を選択する中で評価されます。提示されたすべての検査基準を満たす診断品質のX線写真があるか、すべての歯石の要件を満たす症例が選択できているかで判断されます。
※ 現在は、新型コロナウイルス感染症により、実際の患者かマネキンで行うかを選択可能になったようです。

たとえば、口腔を4分割にして、試験を行う1顎を選びます。その1顎には、以下の要件が含まれていることが求められます。

  • 6〜8歯の永久歯があること
  • そのうちの12歯面に歯肉縁下歯石があること
  • さらにそのうち8歯面は臼歯部にあり、5歯面はその隣接面にあること
  • 少なくとも3歯面は隣接歯がある大臼歯部の近心または遠心にあること
  • 1歯面のみ隣接歯がなくてもよい

ちなみに、 第3大臼歯が半埋伏している患者は認められません。

臨床試験では、SRPを行います。衛生士学校で麻酔実習を合格した受験者は、自ら患者に麻酔を行います。

アメリカでは、ほとんどの州で歯科衛生士の麻酔が許可されている

治療が終わると、患者は別室に移され、試験官による細かいチェックが行われます。

主に患者選択、歯石除去、プラークやステインの除去、歯周ポケット測定、そして麻酔による疼痛管理などが確認され、75%以上で合格となります。

このように歯科衛生士になるまでには、多くの試験を通過する必要があります。

さらに、卒業した後も、すべての州でライセンスを維持するための卒後研修が義務付けられています。

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いかがでしたか?

日本とアメリカの歯科衛生士養成学校の違いについて感じていただけていれば、嬉しいです。

次回は、『臨床編』をお伝えしていきます。