こんにちは。歯科衛生士の古家と申します。
私は小児期の矯正(顎顔面矯正)を行う歯科医院で小児専門歯科衛生士として従事し、今は前職の経験を活かして一般歯科にて勤務しています。
この連載では、これまで私が学んできた小児の健康な口腔育成を行うためのアプローチ方法についてお伝えしていきたいと思います。
[目次]
第1回 プロローグ
第2回 いま求められる子どもたちへのアプローチ
第3回 乳歯萌出前編
第4回 2歳児編
第5回 3〜5歳編
第6回 6〜9歳編
第7回 10〜12歳編
現代の子どもたちが抱える口腔の問題
厚生労働省の発表によると、3歳児の平均う蝕数は1989年には2.9本、2016年には0.54本と年々減少傾向にあります。
(参照:第1回歯科口腔保健の推進に係るう蝕対策ワーキンググループ:う蝕罹患の現状-厚生労働省 )
ですが昨今、う蝕はないものの、歯並びの悪い子どもたちが大変多くみられます。
これは、日本小児歯科学会が発表した3歳児歯科健康診断における不正咬合の判定基準です。
- 反対咬合
:前歯部の連続した3歯以上の逆被蓋
3歯未満の前歯部の逆被蓋は前歯部交叉咬合とする - 上顎前突:オーバージェット4mm以上
- 過蓋咬合:オーバーバイト4mm以上(下顎前歯が上顎前歯に覆われて見えない)
- 開咬:上下前歯切縁間垂直的に僅かでも空隙のある者
- 叢生:隣接歯が少しでも重なり合っている者
- 交叉咬合:左右どちらかでもある者
(公益社団法人 日本小児歯科学会HPより引用)
これまで皆さんが診られた子どもたちの中に、こんな歯ならびの子はいませんでしたか?
3歳では、おおよそすべての子どもたちのEが萌出しており、乳歯列が完成しています。そして、Eの後ろに6番が生えてきますよね。
これにより、乳歯列が完成する時点で、すでに将来の咬合がほぼ予想できるのです。
また、近年の子どもたちには食べ方の異常も多くみられます。
2015年に厚生労働省が行った「乳幼児栄養調査」の中で、0〜2歳児の保護者で離乳食について「困ったことがある」という回答した方は74.1%。
(参照:平成27年度 乳幼児栄養調査結果の概要-厚生労働省 )
その中でもっとも多かった項目が「もぐもぐ、かみかみが少ない(丸のみしている)」という回答で、28.9%でした。
そして、「現在子どもの食事について困っていること」
この回答から、保護者は食事をよく噛んで食べることへの大切さについて理解はしているものの、子どもへの伝え方について悩んでいることが分かります。
歯科衛生士として子どもたちにできること
歯は「食べる力」の要です。
これに対してアプローチできるのは、他ならない歯科衛生士である私たちです。
定期健診の際にチェックする歯の生え方や歯の並び方、食べ方、飲み方、そして姿勢。これは、子どもたちの正常な歯列、う蝕のない健康な口腔を育て、日本の健康な未来につながっていくことだと思います。
このような役割を担うことは歯科衛生士としての自信になります。そして、子どもたちの親御さんに安心感を与えることで新規患者獲得にもつながります。
歯科衛生士は、歯科医師と比べて子どもたちと近い存在にあるため、信頼関係が生まれやすく、医師と保護者の信頼関係形成の一助となることができます。
そして、定期健診を支え小児期に関わることで、子どもたちの一生の歯科受診行動を育てていくことができます。
小児期にセルフケアや定期検診などの予防行動が根付かなければ、そのままう蝕や歯肉炎、そして歯周病へと高齢になるまでお口のトラブルが続いてしまいます。
子どもたち自身に予防行動についてしっかり考えさせ、実践させることで将来のカリエスフリーを構築することができるのです。
また、歯列不正や不正咬合は姿勢や呼吸の異常、筋力の低下を引き起こします。
矯正治療を必要とするケースはもちろんありますが、まずは矯正介入に行き着くまでに、食べさせ方や飲ませ方、生活の中での舌の使い方など口腔周囲筋を正しく育てることは可能です。
口腔機能を正しく発達させることで、より「機能的に食べられる健康なお口づくり」ができること。
これは、歯科医師ではない私たち歯科衛生士にも叶えられる、また、矯正医がいない医院でも取り入れることができる、とてもやりがいのある取り組みだと思います。
この連載を通して、年齢別のアプローチ方法を学んで、「仕上げみがきをしてくださいね」という声かけしかできなかった昨日から、大きく一歩踏み出しましょう!
次回は、いま求められる子どもたちへのアプローチについてお伝えします。