矯正歯科の基礎知識 vol.1 矯正の目的とその必要性とは?

みなさんは普段、矯正歯科の分野とどのくらい関わりがありますか?

実際のところ、矯正歯科専門のクリニックに勤めているか、矯正専門の先生が在籍しているクリニックに勤務しているということがない限りは、なかなか詳しく学ぶ機会はないですよね。

そこでこの連載では、矯正歯科で働いていなくてもこれだけは知っておきたい、といった内容をお伝えしていきます。

ぜひ、クリニックに矯正中の患者さんがこられた時、そして矯正歯科専門クリニックで働く機会があった時のために、読んでいただければ嬉しいです。

第1回では、矯正の目的とその必要性や、矯正装置の分類について解説していきたいと思います。

矯正の目的とその必要性とは?

患者さんが矯正をはじめるきっかけは、多くの場合、「出っ歯である」「上下の前歯に隙間がある」などの外見的要素の改善だと思います。

強い上顎前突や反対咬合、開咬を矯正すると身体全体のバランスが整います。また、姿勢や顔つきなどの印象も大きく変わるため、自分に自信が持てるようになることも。

このように、外見に与えるメリットが大きいのはもちろんですが、

  1. う蝕の予防
  2. 歯周病の予防
  3. 発音障害の改善
  4. 咀嚼障害の改善
  5. 顎関節症の改善
  6. 顎変形症の改善

う蝕や歯周病予防のための矯正

歯列不正があり叢生状態にあると、すみずみまでブラッシングを行うことが難しくなってしまいます。

そのため、特に歯の重なった部分にプラークが残りやすくなり、う蝕のリスクが上がってしまいます。

また、プラークの残存が歯石の付着を誘発することから、歯肉炎をはじめさまざまな歯周疾患を引き起こす可能性があります。

このように矯正治療は、叢生によるう蝕や歯周病を予防する効果があります。

口腔機能改善のための矯正

歯間空隙や強い反対咬合、上顎前突があると、正常な発音ができないことがあります。

また、不正咬合は食べ物の咀嚼にも影響を与えます。たとえば前歯部の開咬により、食べ物を前歯で噛み切ることが難しくなるほど、食生活にまで影響がでることもあります。

このように矯正治療は、口腔機能障害の改善にもつながります。

顎機能改善につながる矯正

咬合異常の場合、下顎の運動が制限され顎がうまく動かなかったり、関節雑音が出たり、咀嚼時に強い痛みを発症することがあります。

また、肩凝りやめまいなどの全身への症状が出ることも。

さらに顎の成長が左右非対称の場合は、顎変形症を引き起こすことがあります。その場合、顎骨の異常となるので、外科的に顎の骨を切断する外科矯正が必要になります。

このように矯正治療は、顎機能障害の予防、改善にもつながります。

矯正装置の分類

矯正装置は、患者さんのニーズや症状の状況にあわせて、さまざまなものが使い分けられていますが、大きく分けて「可撤式装置」と「固定式装置」の2種類があります。

今回は、それぞれの装置について、メリットやデメリットを紹介したいと思います。

可撤式装置

患者さん自身で着脱ができる矯正装置のことです。主に長時間使用できる睡眠時に装着し、日中に装着する場合、食事の際などは患者さん自身で取り外してもらいます。

主な可撤式装置は以下の通りです。

  • 床矯正装置
  • 機能的矯正装置(アクチバトール、リップバンパーなど)
  • 顎外固定装置(ヘッドギヤ、チンキャップなど)
  • アライナー矯正(マウスピース矯正)

可撤式装置のメリットは、患者さん自身が必要に応じて外すことができるため、口腔内や装置の清掃を容易に行うことができます。

反対にデメリットとしては、患者さん自身が装置装着の管理を行うので、装着の時間がどうしても短くなりやすいこと

また、装置方法や調整の仕方を間違えたり、着脱時の破損や紛失も起こりやすいです。

そのため、患者さんへの装置の使用方法や着脱法、使用時外の保管方法の説明がとても重要になります。

固定式装置

術者が装置を歯にセメントや接着剤で装着して使用するもので、患者さん自身では着脱ができません。

調整が必要な場合も、術者がその一部または全部を外して調整します。

主な固定装置は以下のものが挙げられます。

  • マルチブラケット装置
  • 舌側弧線装置
  • 急速側方拡大装置

固定式装置のメリットは常に口腔内に装置を装着したままになることから、矯正力は術者が調整するとおりに確実に作用してくれます。

それに対しデメリットは、患者さん自身で着脱ができないこと。そのため、ブラケットを装着したままブラッシングをする必要があり、毎日のケアが難しく、食物残渣が停滞しやすくなります。

装置装着時には、食事とブラッシングの指導がとても重要となります。

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いかがだったでしょうか。

学生時代に学んだ歯科矯正学のおさらいになれば嬉しいです。

次回は、可撤式装置の種類や特徴について詳しく解説したいと思います♪

参考資料:全国歯科衛生士教育協議会(1997年)『歯科矯正学(新歯科衛生士教本)』医歯薬出版