ダブルライセンスDH #03「歯科衛生士×介護福祉士」吉永奈菜子さん

日本の「国家資格」にはさまざまな種類があり、歯科衛生士もその中のひとつの資格です。

現在、歯科衛生士として働いている方の中には、歯科衛生士以外の国家資格をもっている方もいます。

ふたつの国家資格を取得するという、エネルギーにあふれた歯科衛生士の方に、現在までの軌跡を語っていただきました。

今回のダブルライセンスDH

PROFILE

2009年
城北高校社会福祉科(現:医療福祉科)卒業

2012年
熊本歯科技術専門学校 卒業
歯ならびの歯医者さん 勤務

2019
歯科食育士(ベーシック、アドバンスド)取得
口育士 取得

歯科衛生士歴:9年

ふたつ目の資格を取得しようと思ったきっかけ

介護について学んでいく中で、口腔機能の重要性を感じ、もっと深く学びたいと思ったからです。

最初に取得した介護福祉士は、小学生の頃から参加していた老人ホームでのボランティア活動がきっかけとなり、目指しはじめました。

介護が学べる高校に入り臨床実習を行う中で、体が動かせる高齢者と動かせない高齢者の違いについて興味をもったんです。

調べてみると、歯の有無や、形態、色に顕著に違いが出ていることに気づきました。

「お口のお手入れの質が違ったんだろうな」と思ったことから、お口を健康にしたら、健康な人が増えるのではないかと考えました。

高校時代、介護実習の様子(左が吉永さん)
高校時代、介護実習の様子(右下が吉永さん)

また、祖父の入院をきっかけに、口腔機能が与える全身や脳への影響を強く感じたので、口腔について極めたいと思うようになりました。

そして、介護の道で、口腔ケアをする歯科衛生士になろうと決意。

歯科衛生士学校在学中に、臨床実習先で知り合った先生の開業医院に就職し、今も同じ歯科医院で働いています。

開業後、5年間ほど特別養護老人施設へ訪問にいき口腔ケアを行っていました。

その中で、「ここで高齢者の口腔ケアをすることも大切だけど、子どもの頃から口腔機能を発達させていく必要がある」と感じ、今は小児の勉強に励んでいます。

入り道は介護で高齢者を診ていましたが、今は赤ちゃんまで戻っているんですよね!(笑)

実際に今、子どもを出産して育てている中でも、やっぱり口腔機能をどう育てていくかがとても重要だと感じます。

娘さんの歯をクリーニングする様子
娘さんの歯をクリーニングする様子

それぞれの国家資格を取得するまでに苦労したことは?

臨床実習や国家試験の勉強はとても大変でしたが、それ以上に学べる楽しさを感じていたので、それほど苦労と思ったことはありません。

学校の先生方にはとても厳しく指導をしていただき、社会に出ても即戦力になる人材育成をしていただいたと感謝しています。

たとえば、歯科衛生士学校はお掃除に対してとても厳しい環境でした。

お掃除マニュアルや日誌があり、毎日清掃後に先生や先輩方がチェックを行います。その時、よくドラマで、きれいかどうか指でなぞって息で吹くシーンあるじゃないですか!あれを本当にされたんですよね(笑)

髪の毛が一本、流し台の水滴が一滴でも残っていたらアウトでした。

タオルも干す時に隅と隅が曲がっていないか、マニュアルどおりにできているかなど、毎日厳密なチェックがありました。

それが最初はすっごく堪えましたね…

今となっては、院内をきれいに保つため清潔不潔の意識を身につけるためだと分かるのですが、あの頃はここは本当に軍隊だと思っていました(笑)

ただ、この経験があったからこそ、新卒として開業医院に就職したとき、院内の各場所のお掃除道具の準備がスムーズにできたのでよかったなと感じています。

歯科衛生士学校での実習にて(中央左が吉永さん)
歯科衛生士学校での実習にて(中央左が吉永さん)

現在の業務内容

矯正専門の歯科医院に勤務しているので、歯科矯正治療における診療補助、予防処置、保健指導などを行っています。

また、当院は生後数日の赤ちゃんや先天性疾患をお持ちのお子さんも多く来院されるので、哺乳指導、抱っこ指導、離乳食指導、食育、口腔機能育成も行っています。

乳児期から成長の軌道が良い方向に進むようにお手伝いをしています。

その他、説明用の資料や動画作成もさせていただいています。

口唇口蓋裂の乳児へ術前外鼻修正装置(NAM)を装着後、哺乳指導を行う様子
口唇口蓋裂の乳児へ術前顎矯正装置(NAM)を装着後、哺乳指導を行う様子

資格の取得と現在学んでいること

私はもともと、歯並びの良い方ではなく、自分の子どもは歯並びのいい子に育てたいと思っていました。いろいろ勉強していく中で、そのメソッドを資格を取得しながら得られたらいいなという思いで口育士の資格を取得しました。

その中で、哺乳の仕方やメカニズム、どうすれば歯並びが育ち、育たないのかについてを基礎から学び直したいと思い、そこからは離乳食についても学びはじめ、歯科食育士の資格も取得しました。

現在は、理学療法士の方が開催しているコースに参加しています。赤ちゃんが産まれて、どのように寝返りをし、座って、歩いていくのかという勉強をしています。

体の発達とお口の発達って、リンクしているんですよね。

たとえば、離乳食をはじめる段階にきたとして、「腰が座ってないから食べられないよね。」「首が座ってないから飲み込めないよね。」という、そのメソッドをエビデンスを添えて説明できるように学んでいます。

そのおかげで、先生が口唇口蓋裂用の哺乳床を調整している間など、お子さんの体の動きをみながら「今この段階まで成長していますね」「ここの筋肉がちょっと硬いので、こういうマッサージしてあげてくださいね」というようなアドバイスができるようになりました。

患者さんに理学療法についての指導を行う様子
患者さんに理学療法についての指導を行う様子

今診ているお子さんたちが一歳半くらいなのですが、理学療法を学ぶ前に診てきたお子さんたちとは全然違う発達をとげてきているので、「これは間違いないね」と先生と話していて、いいルートができはじめています。

離乳食って口から食べるのに、どうして歯科で指導しないんだろう?と疑問に思っていたので、それが今できているのは嬉しいですね。

お母さんたちにも、いつから何を食べさせたら良いのかなど、明確なアドバイスができるようになったことが、歯科衛生士としての自信にも繋がっています。

ダブルライセンスをもっていてよかったと思うこと

車椅子の患者さんや、体に不自由のある患者さんが来院されたときに、車椅子の操作などスムーズに介助することができるので知識があってよかったなと感じています。

また、お子さんの中にも介護や医療的ケアが必要な方がいらっしゃるので、介護福祉士からの目線と、歯科衛生士からの視点がもて、アドバイスの幅も広がっています。

やりがいやうれしかったこと

最近、助産師さんから患者さんをご紹介いただくことが増えています。「離乳食を食べてくれない」とか「哺乳の量が増えない」などのお悩みで来院されて、それを解決できたときに「よっしゃー!」ってなりますね!

たとえば、「離乳食が食べられず吐き出してしまう」というお子さんがいて、実際に食べているところをみせてもらったんです。

すると、お母さんがお子さんのお口に次々と離乳食を運んでいて…早すぎるよ!と思ったのと同時に、食べているものの形態も、お子さんのお口の発達状態から見るとミスマッチなものでした。

そこで、実際にお子さんが食べられるものをお母さんに食べてもらおう!と思い、クリニックで食材を用意して、お子さんの今に適した離乳食を食べてもらうという指導をしました。

その後、「食べました〜!こんなに食べてるのみたことないです!」とお言葉をいただいて、学んでてよかった〜!!とその時はとってもうれしかったです。

実際に指導で使った煮野菜
実際に指導で使用した煮野菜

お気に入りアイテム

最近のイチオシアイテムは、100円均一で購入したヘッドライトです。

仕上げみがきの時に両手があいて作業しやすいですし、LEDライトでとても明るく、角度調整もできて重宝しています。

歯みがきを嫌がるお子さんにも、このヘッドライトを装着して「探検するよ〜!」と呼びかけると、ノリノリでお口をあけてくれます。

奥歯もよく見えるので、いつも「奥歯さんいた〜♪」などテンションをあげながら、歯みがきしています。お子さんも歯みがきを楽しんでくれるので、一石二鳥です♪

愛用歴半年。毎日使用しているヘッドライト
愛用歴半年のヘッドライト

今後はダブルライセンスをどう活かしていきたいですか?

これからも二つの資格の視点で患者さんを診ながら、お口と全身の関わりや、重要性を多くの方に伝えていきたいと思っています。

現在、当院には理学療法士、言語聴覚士、助産師の方が診察にきてくれています。

中でも助産師の古賀ひとみ先生とは、赤ちゃんのタッチセラピーを行っています。このセラピーには、体のゆがみや凝りを調整し、体やお口を動きやすくしたり、哺乳や姿勢を正したりと、歯並びに深く関係する内容も多くあります。

今後も多職種と連携をとりながら働く上で、しっかり共通認識をもち、チームでお子さんの成長のお手伝いをしていきたいです。

助産師の古賀ひとみ先生とタッチセラピーの様子(タッチセラピー:姿勢調整、発達相談)
助産師の古賀ひとみ先生とタッチセラピーを行う様子