高齢者歯科への復職を選んだ私が伝える歯科衛生士の魅力 第1回 歯科における介護施設とその特徴とは?

はじめまして。小出千晴です。

歯科衛生士として21年目になるこの春。

また新たに新人の歯科衛生士さんたちが誕生しました。

私もあの頃は夢と希望にあふれつつも、毎日遅くまで勤務し、そのあとはその憂さ晴らしというのでしょうか。

夜な夜な同期と待ち合わせては、勤務後の楽しい時間を遅くまで過ごしていました。

振り返ると、まさか今このような場で記事を書かせていただいたり、講師として人前でお話したりすることになるとは思ってもいなかったですし、高齢者歯科という分野で仕事をしていることも予想のつかなかったことです。

ただひとつ言えるのは「一生、歯科衛生士の仕事をするのだろうな。」とは思っていました。そして今現在も変わらず、同じ気持ちです。

人にはいろいろな人生があります。

その中で、この仕事の素晴らしさを感じ、自分らしく継続していくこと。

一度離れていても、また戻ることができるこの仕事の魅力を、少しでもお伝えできたらと思います。

高齢者歯科

プロローグ

みなさんは高齢者歯科というと、どのようなイメージがわくのでしょうか。

おじいちゃん、おばあちゃんの入れ歯の確認や調整、衛生士業務においては食物残渣が多くて汚い。という印象をお持ちの方が多いのではないでしょうか。

今では外来の歯科医院でも、ご高齢の方が通院しやすいようにバリアフリーの医院が増えましたね。

外来でも高齢者の知識をもって診療にあたらなければならない時代になってきているくらい、高齢化が進んでいるのです。

近年、高齢者の死亡理由の上位に誤嚥性肺炎が占めており、その予防のためには口腔ケアが重要といわれていますね。

口腔ケアの方法はいろいろなサイトやセミナーで紹介されていますが、施設との関わり方については実践し、感じながら学ぶことが多いです。

私自身、最初はどの高齢者施設にどのような役割があるのか?などもわからず、ただ言われるがままについて行っていた気がします。

そこを少しでも先に理解していたら、また違った景色が見えたり、介入しやすかったりしたのかな?とも思いますが、自分自身で経験して学ぶことが、一番理解できる勉強法だと感じます。

今回は、歯科における介護施設の特徴や雰囲気などを、みなさんが敷居高く感じることなく、イメージしやすいようにお伝えできたらと思います。

訪問歯科の現状と復職のポイント

一口に訪問歯科といっても、いろいろな診療の仕方があります。

外来の診療をメインとして、訪問の時間を設けている医院もあれば、訪問がメインで外来の時間を最小限にとどめている医院、外来部と訪問部をわけている医院もあります。

勤務スタッフにおいても、外来も訪問も同じ歯科医師、衛生士がかけ持ちで勤務している医院があれば、部門ごとにスタッフをわけている医院や、訪問衛生士の在籍数が1〜3、4人であったり10人以上いらっしゃる医院さんもあります。

ここでのポイントですが、復職をお考えの方の中には、院内の女性スタッフとの人間関係に疲れてしまっているという方もいるかと思います。

そういった場合は、少人数でやられている医院を選ぶほうが気楽に感じるかもしれないですね。

スタッフの人数に、ケアの質は比例しません。大事なのは想いです。

どこの医院さんも独自性を持ちつつも、最終的なゴールや想いは同じだと思います。

話がそれましたが、歯科が介入することで高齢者の方がより安全においしくお食事したり、不安なく日常生活を送るために、訪問歯科として出向い、治療やケアに当たるやさしさと寄り添う心が重要で、とてもデリケートな現場でもあります。

歯科スタッフ

高齢者施設の種類とその特徴

高齢者施設には、次の種類があります。種類によって雰囲気や勤務している方の職種もすこし異なります。

  • 有料老人ホーム
  • 特別養護老人ホーム
  • グループホーム
  • サービス付き高齢者向け住宅
  • 老人保健施設
  • デイサービス
  • デイケアセンター

今回は、上記の中から訪問歯科が関わることの多い施設をお話ししてまいります。

有料老人ホーム

有料老人ホームは、“終の棲家”として入所されています。

時間や行動の規則がある生活ではありますが、介護度によって一人での外出が可能なところもあるようです。

訪問歯科にとって、一番多い訪問先なのではないかと思います。

居室が個室になるので、みなさんご自分の居室で思い思いの時間を過ごしつつ、施設が実施する体操やレクリエーション活動に参加したり、のんびり過ごされています。

介護度についても「要介護」ではなく、「自立」や「要支援」と認定された方も入居できるので自立度が高く、比較的静かでホテルのような雰囲気です。

患者さんの各居室に伺いケアをして回ったり、施設の方にフロアへ誘導していただいてケアすることもあります。

中には寝たきりの方もいらっしゃり、その場合は個室空間となるため、ケアに介入する前後のスタッフの方への連絡は、重要となります。

特別養護老人ホーム

特別養護老人ホームは、入所にあたり介護度が高い方が優先されます。

ですので、寝たきりや認知症の進行が顕著な方が多く、一人で居室で過ごすことが難しい方もおられ、フロアに出て見守りのもと過ごされている方がたくさんいます。

看護師さんはバイタルを計測したり、介護士さんも居室とフロアを行ったりきたりと忙しそうです。

その多忙な雰囲気の中、訪問歯科がケアに入ります。

特に寝たきりの方のベッド上でのケアは、だ液がのどに垂れ込み、むせさせることのないように十分な配慮が必要です。

基本的に、施術中は施設の方の付き添いはありませんので、事前にリクライニングの角度や患者さんの呼吸状況の確認を行っていただきます。

また、重度の認知症の方のケアにおいて、「忘れちゃうから…」なんて気持ちで臨んではいけません。ケアにあたる人の香りや声、肌の感じをどこかで感じ取り、覚えておられます。

認知症の方の中には、開口することを忘れている方や、歯ブラシの存在を忘れてしまっている方もいます。

歯ブラシを渡すとヘアブラシを思って髪をとこうとされる方もいますが、否定せず、受け止めながら待ちます。

その方の時間の流れに寄り添いながら、ゆっくり介入していきます。

高齢者歯科

グループホーム

グループホームの場合は、認知症の方が少人数で共同生活を送っています。

入所の方が洗濯物をたたんでいたり、スタッフの方とお昼の準備をしたりと、ゆったりと家庭的な雰囲気の施設が多いです。

老人ホームに比べて規模が小さいので、フロアの通路のような所でケアを行うように指定されたことも過去にはありました。

個人の羞恥心などの配慮も必要だと思いますが、そこに関しては施設側の方針に沿って指定されたところでの介入となります。

グループホームのこじんまりとした、あたたかい雰囲気ゆえに、理想的ではないケアの場所も、患者さんにとっては家庭のぬくもりを感じるのかもしれません。

ここまでの3施設は、実際に口腔ケアを行う看護師さん、介護士さんを中心に、口腔ケアについて伝達するのが歯科衛生士の仕事です。

グループホーム

老人保健施設

老人保健施設は、何らかの疾患により入院されていた方が、退院後ご自宅に帰るためにリハビリを行う入所施設です。

上記の3施設と異なり、医師、看護師、介護士のほか理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士と多職種の方が勤務されています。

ですので、フロアにいろいろな専門職の方が出たり入ったりしているのでにぎやかです。

リハビリ施設ですので、レクリエーションも体を動かすことが多くあるように感じます。

口腔ケアの指導は看護師さん、介護士さんへ行い、ケア時の姿勢補整の相談は理学療法士さん、食事の時の椅子、机の高さなどは作業療法士さんへと相談できます。

入所されている方の在宅復帰に向けて連携してきます。

以上、大まかな説明となりましたが、どの施設であっても目指すゴールは同じです。

そのため、構えすぎずに落ち着いてかかわっていくことが、安全で安心できるケアの方法なのかもしれません。

訪問歯科において大切なこと

すべてにおいて共通としていえることは、自分たちの想いを押し付けないことです。

「口腔内が汚れているから誤嚥性肺炎のリスクが高い。」と思うことはありますが、施設においての口腔ケアは、食事や入浴、排せつ介助のひとつです。

そこを訪問歯科が専門性を強く押して、“汚いですね”、“もっとちゃんとやってください”などと、否定的に伝えるのではなく、どの職種も限られた時間の中で携わっていること、我々と同じであるということを忘れてはならないのです。

実際、私たちが施設に書き置きしてくる訪問歯科衛生士指導の用紙や記録を、ケアスタッフ全員に目を通していただくことは、難しいのかもしれません。

ですが中には、口腔ケアに興味がある方や口腔ケアの重要性を知っていてくださる方もいらっしゃいますので、そういった方から協力を得たり、少しずつ寄り添っていくことが大切です。

医療連携

最後に

この記事を読まれると、訪問歯科や高齢者歯科に勤務されたことがない方は、寝たきりの方のケアは難しそう。

最初から意思疎通が困難な方や、寝たきりの方のケアに、認知症の方へ上手に対応できるか不安。と思ってしまうのではないかと考えつつ、この記事を書いていますが、みなさん大丈夫です。

わたしも30歳から高齢者歯科を学びはじめて、今11年目になります。

もちろん失敗談もあります。ですが、高齢者の方への優しい心があれば誰でもはじめられることです。

おじいちゃんおばあちゃんが好き。という気持ちでも十分だと思います。

歯科衛生士は口腔衛生のプロフェッショナルです。

最初から意思疎通が困難な方や、寝たきりの方のケアに、一人で介入することはありませんので、高齢者歯科については、徐々に身につけていけばいいということです。

そして、ご高齢の“人生の大先輩”から学ぶこともたくさんありましたので、ただ口腔ケアをしておしまい。ということではなく、一人の方の“生きる”という一幕に少しでも携わらせていただいていることを忘れてはいけません。

人間の「生」というものを感じる瞬間です。

この連載を通して、高齢者歯科を身近に感じてくださったらうれしいです。

また、高齢者歯科には訪問歯科だけではなく、施設の中に職員として勤務する歯科衛生士もいます。

次回は高齢者施設で勤務する歯科衛生士の一日について、私の経験談も含めてお話しします。