患者さんとの付き合い方 part2.患者さんが求めていることが分かりますか

4月を迎え、新1年生になりピカピカのランドセルを見せにきてくれる子や「4月から何年生?」「え、もう中学生だよ。」という会話をしていると、来院するお子さんたちの成長の速さを実感します。

当医院もこの4月から新しいスタッフを迎え、新しい出会い、変わりゆく環境が楽しみです。

一方で、まだまだ世界的に新型コロナウイルスによる感染拡大が落ち着かず、さまざまなことを我慢しながらの生活環境が続いています。

行動抑制を求められている中、来院してくださる患者さんとの付き合い方についての第2弾になります。

チーフ歯科衛生士の流儀 患者さんとの付き合い方 part2.患者さんが求めていることが分かりますか

前回の冒頭でもお話しさせていただきましたが、私たち歯科衛生士の主な仕事は、患者さんへの“施し”です。つまり、「相手あっての仕事」ということです。

仕事への取り組みに対し、私が大切にしている考え方は、「相手がどう思うか、相手のために自分には何ができるかを考える」ということ。

つまり、相手を思いやる前向きな気持ちで仕事をするということです。

一方で、気を付けなければいけない考え方は、「自分が相手にどう思われているか、相手に嫌われないようにするにはどうすればよいかと考える」ということ。

つまり、自分が主役で後ろ向きの気持ちで仕事をしてはいけないということです。

相手を思いやる前向きな気持ちで仕事をする

みなさんは、「ジョブ・クラフティング」という言葉を聞いたことがありますか。

私は以前に読んだ書籍で初めて知りました。アメリカイェール大学のエイミー・レズネスキー准教授らによって提唱された、働きがいのある仕事をするための方法論です。

「与えられた仕事をこなす」というのは、楽なようで実は単なる義務であり、つまらないものになってしまう。

仕事に対して働き方や職種、業種で考えるのではなく「どのように仕事と向き合うのか」が肝心だということ。

このことからも、「相手あっての仕事」のとらえ方を誤ってしまうと、考え方や行動が一方通行の“強要”になってしまい、自分自身も仕事への情熱や楽しさを見失ってしまう危険性があります。

私は今回のように、新入社員が入職するタイミングや新期を迎える時期にはかならず自分自身を見改めようと決めています。

みなさんもご自身の言動に問いかけてみるきっかけをつくってみてはいかがでしょうか。

やりがいをもって働くための5つの行動指針

多忙を理由に流れ作業を繰り返す日々において、たまには一息ついて自分自身を見つめ直すことをおすすめします。

さて、前述の私が大切にしている考え方を後輩歯科衛生士に説明する際には、以下の5項目を徹底することからはじめましょうと話しています。

5つの行動指針

  1. 自分ができる最善の施術、対応をする
  2. 自分がされたら嬉しいことをする
  3. 自分がされたら嫌なことをしない
  4. 導入時、退出時にはかならず挨拶をする
  5. 患者さんにもスタッフに対しても元気に明るい笑顔で対応する

この5項目は、たとえ新人のスタッフであっても「いつでも、どこでも、誰にでも」できることだと思います。

当医院に入社した新人歯科衛生士とはすでに数回の面談を行っていますが、その際には毎回かならずこの5つの行動指針を繰り返し伝えています。

今回は、その伝達方法をご紹介します。

私は新入社員に対して、かならずする質問があります。かれこれ10年以上はこの質問を継続しているかと思います。

その質問内容は、
Q「今、自信をもってできると言えることはありますか

新人スタッフのほぼ全員が考えた挙句、絞り出す回答は
A「ありません」

私はその回答に対して「そうだよね。私も他の先輩スタッフも、最初はそうだったよ。でもね、実は自分の気持ち次第で、今すぐにでも自信をもってできるようになることがあるよ」と言って、この5つの行動指針について話しています。

新人スタッフにとっては、分からない、できない事柄に囲まれ不安な毎日を過ごす中で、自分にもできることを見つけることが、仕事に対しての自信や意欲に繋がります。

このことは「ジョブ・クラフティング」でいう、仕事との向き合い方の基礎になるのではないでしょうか。

この行動指針は職種や勤続年数に関係なく、すべてのスタッフにとって大事な共有次項だと考えています。

なぜなら、この行動指針の主役とその目的は、自分ではなく自分以外の「相手」であり、私たちは「相手あっての仕事」をしているからです。

私たちが仕事をする上での主役は患者さんです。来院された患者さんが、私たちに求めていることが分かりますか。

私が新人の頃に院長先生に言われた、忘れられない言葉があります。

治療やドクターに夢中になるんじゃなくて患者さんに夢中になれ

この時は院長先生の本意が理解できずにいましたが、後日、冷静になって業務を振り返ると、主役はいつも自分でした。

新人の頃は先生のアシスタントにつく際に、治療の流れについていくのが精一杯で治療が滞り、先生に怒られないようにと自分の保身を第一優先に考えながら業務をしていました。

この頃、私が行っていた業務は、確実に“仕事”ではなく“作業”でした。

つまり、業務内容に発展的な要素はなく義務として取り組み、ことなきを得るのが第一優先でした。

しかし、先生の言葉をきっかけに、私は「私の仕事の主役は患者さん」であると初めて認識し、仕事への向き合い方が変わりました。

これまでと同じ内容の業務であっても、成果や価値を届ける相手が存在することを意識し、相手のことを考えて行動するようにしています。

このことは時を経ても揺らぐことはなく、現在も私の業務を“仕事”ととらえて行動するための考え方の基盤になっています。

自分と患者さんの立ち位置を了知することで、患者さんの求めていることを感じ、理解し、その結果として全身全霊で答えようと行動を起こすのではないでしょうか。

この行動の起因は、冒頭にある「相手を思いやる前向きな気持ち」なのだと思います。

そして、すべてにおいて、なにごとも自分ごととして捉え、取り組むことが同じ業務であっても作業や義務としてではなく、“仕事”としてなり得るのだと思います。

さまざまなことがはじまるこの時期に、自分自身の仕事への情熱を奮い立たせてみてはいかがでしょうか。

新たに教育係に加わった3年目の歯科衛生士と新人歯科衛生士
新たに教育係に加わった3年目の歯科衛生士と新人歯科衛生士

彼女たちは、新たに教育係に加わった3年目の歯科衛生士と新人歯科衛生士です。

3年目の歯科衛生士の成長のためにも「指導する」ということは重要だと思い、抜擢しました。

教育係には、8年目のベテラン歯科衛生士も在籍しています。この二人をときには暖かくときには厳しく指導し、見守る役割です。

毎年恒例の新人歓迎会では、新人歯科衛生士と既存の歯科衛生士で一芸披露をしてもらっています。

今年の一芸は『T T姉妹』。マスクをしながらのお披露目になりました。

新人歓迎会で披露した『T T姉妹』

チーフ歯科衛生士の流儀

series1.医院のルールづくり

part1.働きやすい職場環境について考える
part2.あったら良いな、こんなルール
part3.ルールの活用方法

series2.スタッフ育成のポイント

part1.新たな仲間を受け入れる準備はできていますか?
part2.こんな質問にどう答える?「教育システムはありますか」
part3.相手に伝わる褒め方・叱り方

series3.転職しないコツ〜長く勤められる医院とは〜

part1.職場環境に求めること
part2.仕事でしか得られないこの気持ち
part3.問題解決力を身につけよう

series4.患者さんとの付き合い方

part1.患者さんの見立て~医療従事者として、人として~
part2.患者さんが求めていることが分かりますか