これまでの連載では、主に医院づくりやスタッフ間の成長、関係性についてお話しさせていただきました。
チーフ歯科衛生士の流儀はこちら
SERIES1 医院のルールづくり
SERIES2 スタッフ育成のポイント
SERIES3 転職しないコツ〜長く勤められる医院とは〜
シリーズ最後となる今回から3回に渡っての連載では、患者さんとの関わり方についてお話しさせていただきます。
私は、歯科衛生士の仕事は患者さんとの信頼関係で成り立つ職種だと思っています。
歯科医院での主な業務は、患者さんがご来院してくださらないとはじまりません。つまり、患者さんが行動を起こして下さって初めて業務が成り立ちます。
これまで、私が勤務させていただいている医院は、患者さんからの厚い支持を得ており、その結果として医院の運営が潤沢であり設備投資や学ぶ機会に恵まれていました。
このことからも、誰しもが望む理想とする職場環境を作るには、スタッフだけではなく患者さんにも支えていただいていることが分かります。
その患者さんが、コンビニよりも多いといわれるほど数ある歯科医院の中から、ご自身が勤務する医院を選び、治療終了後もメインテナンスで定期的に継続通院してくださっている理由を考えたことがあるでしょうか。
治療であれば「痛い、大変」な思いをすると分かっているのに・・・
雨で足元が悪い中、面倒で足が遠のいてもおかしくない状況下で・・・
お約束通りにご来院いただくことに、みなさんも日々感謝しているかと思います。
患者さんが継続通院してくださる二つのモチベーション
治療に関しては、痛みがある場合や、脱離などの主訴は生活への支障があることが予測され、そのことが来院へのモチベーションとなることは理解できます。
しかし、メインテナンスの場合は、先述のような明確な目的はありません。
では、治療後も定期的に継続通院してくださっている方々の来院へのモチベーションは何なのでしょうか。
私はこのモチベーションに確答するものは、二つあると考えています。
一つは患者さんの健康観です。
近年、検診を目的に歯科医院に来院される方も多くなってきましたが、まだまだ初診時の主訴の半数近くは治療に関することだと思います。
治療が終わり、主訴解決後もその健康な状態を維持したいと思ってもらえるかどうかは医院次第です。
人が行動を変える場合は、つぎの5つのステージを通るといわれています。
(参照:行動変容ステージモデル-厚生労働省 e-ヘルスネット)
行動変容ステージモデル
治療が主訴で来院された患者さんに、メインテナンス移行期までに口腔の健康に対してどのように関心をもっていただくかは、それぞれのステージに合わせた働きかけが重要です。
二つ目は医院のファンです。
私は、自分が勤務する歯科医院に一度でもご通院してくださったすべての方々に、この医院のファン(fan)になっていただきたいという思いで接しています。
その考えの根底にあるのは、患者さんに医院のことを気に入ってもらうということです。
それは通院目的であった主訴が解決した後も、自ら行動変容を起こし、定期的な継続通院をしてほしいからです。
また、ファンになってくださった方は、お知り合いの方々に医院をご紹介して下さるため、このことは増患に繋がると実感しています。
この二つの確答に共通し、もっとも重要なのは私たちスタッフと患者さんとの関わり方ではないでしょうか。
つまり長くお付き合いさせていただく関わり方ができているか、ということです。みなさんは患者さんとどのようなお付き合いのしかたをされていますか。
信頼関係を構築する「見立て」とは
患者さんとお付き合いする上で、私がもっとも大切にしているのは「見立て」です。
まずは患者さんの話をよく聞くようにしています。沈黙の間を恐れずにひたすら聞き手に徹します。
次に、話している表情、様子を伺い、気持ちや気分、体調を観察します。そして最後に、そのすべてを受け入れてから、かならず返答するようにしています。
「見立て」には、病気を診断することや、その結果を意味する場合もあります。
しかし、私たち歯科衛生士には病気の診断はできません。ですが、病状や口腔環境の判断、そして患者さんの様子を伺い知ることはできます。
口腔のプロとして的確な判断やアドバイスを提供し、人として心の通い合いを行います。
私はこの見立てが、患者さんと長くお付き合いさせていただくための必須事項だと思っています。
上手な見立てには、それなりのテクニックや経験値が必要かもしれませんが、まずは患者さんを知る、ということからはじめてみてはいかがでしょうか。
私は、後輩歯科衛生士には“患者さんにとって担当歯科衛生士は常に自分の一番の理解者であり味方と思ってもらえる存在あってほしい”、と話しています。
これが、信頼関係構築のはじまりであり、第一歩だと考えています。
私は現在まで継続して15年以上に渡り、在宅歯科訪問診療に携わらせていただいております。
訪問診療は外来診療と異なり、患者さんのご自宅や入居施設に伺って治療や口腔ケアを行います。
「医療従事者が伺う」ということから、患者さんご本人やご家族の方から過剰な感謝を受けてしまう場合があります。
私が訪問診療をはじめたばかりのころに出会った患者さんは、気管切開を行い呼吸器が装着しており会話はおろか意思疎通もできない方でした。
吸引機を用いながら口腔ケアを行っていましたが、当時は私の技術不足から患者さんをムセさせ苦しい思いをさせてしまうことがありました。
私は口腔ケアを行いながらも、きっと患者さんはイヤだな、こんなことされたくない、と思っているに違いない。と考えていました。
しかし、このような不安な気持ちを抱えたままでは患者さんに申し訳ないですし、伝播すると考え、患者さんと自分自身のためにも、訪問時には未熟ながらも今できる最善の施術を行うと決めました。
そして、セミナーなどに積極的に参加し、学ぶことや実技の練習を積み重ね、訪問診療を続けました。
今振り返ると、この気持ちの切り替えはその後15年以上も在宅歯科訪問診療と関わることになる私のターニングポイントだったのかもしれません。
私はこれまでに、このときに学ばせていただいた「自分自身が今できる最善を尽くす」、「患者さんの心に寄り添い気持ちを考える」ということを、外来診療でも訪問診療でもずっと実践してきました。
その結果が、患者さんに支持される医院づくりに繋がっていると自負しています。
このような社会情勢だからこそ、今一度自分自身を見つめ、毎日行っている患者さんとの関わり方を見改めるのも良いのかもしれませんね。
クリニックの前にある桜の木が咲きはじめてきました。
この時期患者さんは、2階のデンタルケアスタジオの待合室から窓越しにお花見を楽しんでいます。
下から見上げるのではなく木の高さと同じ位置から見る桜はまた格別です。
一昨年までは、診療終了後にスタッフ全員でお花見をしていました。また、みんなで桜を楽しめるようになりたいです。
チーフ歯科衛生士の流儀
series1.医院のルールづくり
part1.働きやすい職場環境について考える
part2.あったら良いな、こんなルール
part3.ルールの活用方法
series2.スタッフ育成のポイント
part1.新たな仲間を受け入れる準備はできていますか?
part2.こんな質問にどう答える?「教育システムはありますか」
part3.相手に伝わる褒め方・叱り方
series3.転職しないコツ〜長く勤められる医院とは〜
part1.職場環境に求めること
part2.仕事でしか得られないこの気持ち
part3.問題解決力を身につけよう
series4.患者さんとの付き合い方
part1.患者さんの見立て~医療従事者として、人として~