近年、歯科医療の現場では「医科歯科連携」という言葉をよく耳にするようになりました。
実際に日々の診療においても、“医科から紹介されてきました”という患者さんが、以前より増えてきているように思います。
その背景には、歯周病と他の全身疾患とが、実はお互いに影響を与えあっていることがわかってきたことが挙げられます。
また、入院患者へ口腔衛生管理を行うことで入院日数の短縮にもつながるという報告などが、影響しているのかもしれません。
しかし、実際の現場で緊密な連携がとれているかというと、まだ十分とはいえない部分もあると思います。
その原因として、医科と歯科の双方が、お互いの分野を知る機会が少ないことが挙げられます。
医科のDr.をはじめコメディカルの方が、歯周病や口腔機能について知ること。歯科のDr.やコデンタルの方が口腔領域だけでなく、全身について知識を深めること。
その両方が大切なのだと感じています。
今回ご紹介させていただく、西田亙先生の著書『全医療従事者が知っておくべき 歯周病と全身のつながり(2020年発行)』は、まさにその問題解決の一助となる一冊でした。
『全医療従事者が知っておくべき 歯周病と全身のつながり』ブックレビュー
この書籍は、以下の4部構成となっています。
- 第一部 歯の数が人生100年時代を左右する
- 第二部 歯を失い続ける人々
- 第三部 歯周病とは何か
- 第四部 口腔が全身に与える影響
それぞれのタイトルを見ると、著者の西田先生は歯科関係の先生かと思いきや、実は日本糖尿病学会糖尿病専門医です。
私は現在、dStyleで糖尿病と歯科をテーマに連載を書いていますが、ここまで糖尿病について詳しく勉強するにいたったのは、西田先生の影響も少なくありません。
もう数年前になりますが、私の地元に西田先生が講演にこられたことがありました。
当時、まだまだ知識も少なかった自分にもわかりやすい内容で、またその軽妙なトークに聴き入ってしまったのを覚えています。
その中で、あまりに衝撃を受けたのは、西田先生がおっしゃった「生まれ変わったら歯科衛生士になりたい」という言葉でした。
先生ご自身の経験から口腔内の環境を整える大切さを実感し、その担い手である歯科衛生士という職業に、心からの敬意を表していただいた言葉だと感じました。
そこで、はたと考えました。果たして自分はその期待に十分応えられる振る舞いができているだろうかと。
それからは、それまで以上に積極的に他の職種の方々と関わるように、またさまざまな活動に参加するようになりました(特に糖尿病関連の活動)。
そういった活動を通じて、少しでも医科と歯科との架け橋となれればと日々勉強している次第です。
少し話がそれてしまいましたので、書籍紹介に戻ります。
この書籍では、さまざまな文献にもとづいて、論理的かつとてもわかりやすく文章が書かれています。
第一部では、医療費や介護費と残存歯数の関連について、日本老年医学会雑誌に掲載された論文『要介護と残存歯に関する疫学研究』を元に解説されています。
昨今謳われている人生100年時代を迎えるにあたって、ますます増えていくことが予想される医療費や介護費を下げるキーポイントとして、歯科が取り上げられているのです。
第二部では、日本や欧米諸国では実際どのくらいの人が歯を失っているのか、その実情が書かれています。
そして第三部では、『歯周病とは何か』というタイトルで、歯周病のメカニズムについて解説。組織学のミクロな視点からも解説されています。
それも、内科の先生が書いていることを忘れてしまうくらい丁寧に書かれているのです(歯科衛生士学生時代の組織の教科書を思い出しました)。
さらに、最後の第四部では、『口腔が全身に与える影響』と題して、歯科医師を対象とした歯と全身の健康、栄養との関連に関する研究「レモネード・スタディ」が紹介されています。
(参照:LEMONADE Studyとは-LEMONADE Study)
また、歯科医師や歯科衛生士による専門的口腔ケアが、入院期間に与える影響についても、2013年に中央社会保険医療協議会総会で発表されたデータを元に述べられています。
そして、糖尿病との関連、妊婦への影響、アルツハイマー病への影響なども示されています。
ご自身の専門である糖尿病との関連については、全体のページ数の1割程度に抑えているところに、歯科に対する先生の熱量を感じます。
そして、私たち歯科衛生士も頑張らねばと気合を入れるのでした。
他にも、西田先生はシリーズで書籍を出されています。
そちらも歯科と全身疾患の関係がわかりやすく書かれていますので、興味のある方はぜひ読まれてはいかがでしょうか。