老人ホームで働く歯科医師・歯科衛生士の仕事って?

みなさんは、老人ホームで活躍する歯科医師や歯科衛生士がいることをご存じですか?

実は、老人ホームにおける介護の現場に、歯科が介入することは、お年寄りの健康や長寿をもたらすうえで、とても大切なことなのです。

日本は現在、65歳以上の高齢者が総人口の約28.7%を占める超高齢社会であり、さらに年間の医療費は43兆円を超えています。
(参照:統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで--総務省統計局

そして、高齢者の人口も医療費も、今後ますます増えていくと考えられています。

そんな中、歯科医師や歯科衛生士が、老人ホームなどにおいて要介護高齢者の口腔管理を行うことは、全身的な健康をもたらし、その結果として日本の医療費削減をももたらします。

しかし現在、要介護高齢者の口腔管理は非常にニーズが高まっている一方で、歯科医療従事者によってそのニーズが十分に満たされているとはいえません。

つまり、改善の余地があると同時に、未知なる可能性を秘めた領域であるともいえます。

今回は、老人ホームをはじめとする、さまざまな介護の現場において活躍する歯科医師や歯科衛生士の仕事について解説していきたいと思います。

[目次]
1.介護保険制度とは?
2.要介護認定から介護サービスを受けるまで
3.居宅療養管理指導とは?
4.老人ホームの種類と介護保険制度
5.要介護高齢者における口腔ケア
6.口腔ケアの手順
7.口腔衛生管理体制加算と口腔衛生管理加算
8.経口維持加算とは?
9.老人ホームにおける経口摂取支援
10.多職種連携による経口摂取支援の流れ
11.さいごに

1.介護保険制度とは?

まず、老人ホームや高齢者に提供される介護サービスの概要を理解するには、「介護保険制度」について知る必要があります。

昔は子供や家族が行うものとされていた高齢者の介護ですが、介護を必要とする高齢者の増加と核家族化の進行により、高齢者をその家族だけで支えることが難しくなってきました。

そのため、家族の負担を軽減し、介護が必要な高齢者を社会全体で支えることを目的に、2000年に創設されたのが「介護保険制度」です。

高齢者に必要な介護サービスを提供するのはもちろん、高齢者を介護する家族の負担を減らし、介護による離職者をなくすことも目的としています。

介護保険制度において、「保険者」とは、全国の市町村と特別区(東京23区)などの自治体です。

40歳以上の国民は全員、介護保険への加入を義務付けられており、「被保険者」として保険料を納付します。

また、被保険者は、65歳以上の方(第1号被保険者)と、40歳から64歳までの全国健康保険協会や国民健康保険などの医療保険加入者(第2号被保険者)に分けられています。

介護保険制度の仕組み
介護保険制度の仕組み(厚生労働省 介護保険制度についてを元にdStyle編集)

なお、高齢になり介護サービスを利用する立場になった場合でも介護保険料は免除されず、納付し続けなければなりません。

まず第1号被保険者の介護保険料は、市区町村が被保険者の所得や生活保護の受給状況などに応じて決定し、原則として年金から天引きすることで徴収されます。

また第1号被保険者になると、「介護保険被保険者証(保険証)」が発行されます。これは医療保険の保険証とは異なるもので、介護サービスなどを利用する際に必要となります。

第1号被保険者は原因を問わず、要介護・要支援認定を受けたときに介護サービスを受けられます。

そして介護サービスを受ける際は、原則としてサービス料の1割の自己負担が必要です。ただし、前年度所得が多い場合は、自己負担が2割もしくは3割になる場合があります。

次に第2号被保険者の介護保険料は、どの医療保険に加入しているかによって異なり、医療保険料とともに徴収されます。医療保険と同じように、扶養されている配偶者は介護保険料を納める必要はありません。

第2号被保険者は、原則として介護サービスの対象ではないため、介護保険被保険者証が発行されません。

しかし、特定疾病が原因で要介護・要支援認定を受けたときは被保険者証が発行され、介護サービスを受けることができます。

なお特定疾病とは、末期のがん、関節リウマチ、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、初老期における認知症、パーキンソン病などの16疾病を指します。
(参照:介護保険制度について-厚生労働省

2.要介護認定から介護サービスを受けるまで

まず、介護サービスを受けるためには、「要介護・要支援認定」を受ける必要があります。

要介護認定を受けるには、まず高齢者本人もしくは家族、地域包括支援センターなどが、本人の住んでいる市区町村の窓口に要介護認定の申請を行います。

申請すると、市区町村の職員または市区町村から委託されたケアマネージャーなどが自宅を訪問し、本人の心身状態や日常生活、家族や住宅環境などについて聞き取る、訪問調査を行います。

また市区町村は、かかりつけ医に対し「主治医意見書」の作成を依頼します。本人にかかりつけ医がいない場合は、市区町村から紹介された医師の診断を受けることになります。

そして、訪問調査の結果とかかりつけ医の意見書の一部の項目をコンピューターに入力し、一次判定を行います。

続いて、一次判定の結果と訪問調査における特記事項、かかりつけ医の意見書などをもとに、介護認定審査会による二次判定が行われ、要介護度認定区分が決まります。

介護認定申請から30日ほどで、認定結果と介護保険被保険者証が郵送されます。認定の区分は要介護1~5、要支援1・2の7つの分類のいずれか、もしくは非該当(自立)です。

認定された要介護度をもとにサービスを利用する場合、要介護者、要支援者のどちらにおいても、はじめに「ケアプラン」を作成する必要があります。

今回は要介護者について説明していきます。

ケアプランとは、その人なりに自立した生活を送れるようになるかを考え、介護保険サービスをどのように利用するかを決めた介護計画書のことです。

要介護者のケアプランは、民間事業者である居宅介護支援事業所に所属するケアマネージャーが作成するのが一般的です。

介護保険の専門家であるケアマネージャーへの報酬は、すべて介護保険でまかなわれているため、ケアプラン作成に対する利用者の自己負担はありません。

ケアマネージャーは利用者の状態を把握したうえで介護サービスを提供する事業者を選び、サービスを組み合わせてケアプランの原案を作ります。

そして、その原案が利用者と家族の希望に沿っているかを確認しながら、ケアプランを完成させます。

利用者がケアプランに同意し、それぞれの介護サービス事業者と契約すると、ようやく介護サービスの提供が開始されます。

なお、ケアマネージャーはサービス開始後も、定期的に利用者の自宅もしくは老人ホームに訪問します。

また介護サービスやケアプランが利用者にとって最適なものであり続けるよう、介護サービス事業者とも情報交換を行い、必要であればケアプランの見直しも行います。

3.居宅療養管理指導とは?

介護保険が適用されるサービスには、主に3種類があります。

  1. 居宅サービス
  2. 施設サービス
  3. 地域密着型サービス

居宅サービスは、要介護・要支援者が自宅に住んだまま受けられるさまざまな介護サービスを指します。

そのうち、歯科医師や歯科衛生士が担う主なサービスとして、「居宅療養管理指導」があります。

居宅療養管理指導は、要支援・要介護認定され、なおかつ通院が困難な高齢者を対象に、医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士などの専門職が自宅を訪問し、療養上の指導や健康管理、アドバイスを行うことを指します。

このことから、訪問歯科診療の際に、歯科医師または歯科衛生士が口腔衛生管理や指導を行うと、介護保険における居宅療養管理指導を算定することができます。

具体的には、利用者の自宅や有料老人ホームなどの介護保険請求が可能な場所に訪問し、管理指導計画を作成したうえで、歯科医師もしくは歯科衛生士が口腔内や義歯の清掃、摂食嚥下機能に関する実地指導を行った場合に算定できます。

このとき、歯科医師は実地指導の記録だけでなく、利用者や家族などへの実地指導内容についての文書交付や、ケアマネージャーへの情報提供も行う必要があります。
(参照:介護保険制度と歯科-一般社団法人 高崎市歯科医師会

4.老人ホームの種類と介護保険制度

老人ホームは、運営主体や目的、入居条件によってさまざまな種類があります。

公的施設 介護保険施設 特別養護老人ホーム
介護老人保健施設
介護療養型医療施設
介護医療院
軽費老人ホーム
ケアハウス
民間施設 介護付き有料老人ホーム
住宅型有料老人ホーム
サービス付き高齢者向け住宅
グループホーム

ここでは、先ほど述べた介護保険が適用される3種類のサービスのうち、② 施設サービスにあたる「介護保険施設」について説明します。

介護保険施設とは、要介護高齢者向けの公的施設に該当します。地方公共団体や社会福祉法人もしくは医療法人により運営されており、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院の4種類の施設があります。

まず、特別養護老人ホーム(特養)は介護老人福祉施設とも呼ばれ、一度入居すると最期まで充実した介護ケアを受けることができます。一方で、点滴、経管栄養、気管切開などの医療サポートが常時必要な場合は、入居を断られる場合があります。

次に、介護老人保健施設(老健)は、病院から退院した高齢者がリハビリに取り組み、在宅復帰を目指す場所です。リハビリが終わると退去しなければならないため、特養と異なり終身利用することはできません。

続いて、介護療養型医療施設と介護医療院について説明します。

介護療養型医療施設は、病院に併設されていることが多く、医療法人が運営していることがほとんどです。

長期間の治療が必要な高齢者向けの施設として創設され、喀痰吸引や酸素吸入、経管栄養などの処置が必要な高齢者でも生活することができます。

しかしながら、2018年度の介護保険制度改正により、介護療養型医療施設の機能に、さらに生活施設としての機能を加えた、介護医療院が新たに創設されました。

そのため介護療養型医療施設は現在新設されておらず、2023年度末までにすべての介護療養型医療施設が介護医療院に転換される予定です。

介護医療院の目的は、要介護高齢者に対して医療・介護・生活の場を提供することです。

Ⅰ型とⅡ型に分類され、Ⅰ型では介護療養型医療施設、Ⅱ型は介護老人保健施設以上に相当するサービスが提供されます。またⅠ型は、重篤な疾患もしくは身体合併症を伴う認知症のある高齢者、Ⅱ型はⅠ型よりも比較的状態が安定している高齢者を受け入れています。

Ⅰ型、Ⅱ型ともに医師、薬剤師、看護職員、介護職員などの人員配置に基準が設けられ、医療、介護、生活のすべての面において、より充実したサポートを受けられることが介護医療院の特徴です。

なお、老人ホームは、ここに述べた4種類の介護保険施設がすべてではありません。

要介護高齢者向けの民間施設には、介護付有料老人ホームや住宅型有料老人ホーム、グループホームがあります。

また比較的自立した高齢者向けの施設としては、公的施設である軽費老人ホームやケアハウス、民間施設であるサービス付き高齢者住宅や健康型有料老人ホームなどがあります。

5.要介護高齢者における口腔ケア

最初に、歯科医師や歯科衛生士が要介護高齢者の口腔管理を行うことは、非常に大切であると述べました。

そして、その口腔管理の中でも口腔ケアこそがすべての基礎であり、もっとも重要な役割を担っているといっても過言ではないでしょう。

高齢者は、年を重ねるにつれて手の動きが不自由になったり、口の感覚が鈍くなったりするため、自身の力だけで十分な歯磨きを行うのは難しいといえます。

そのため、歯磨きを本人任せにせず、歯科医師や歯科衛生士などが口腔ケアを行って清潔な口腔を保つことが、大変重要になります。

では、要介護高齢者の口腔内を清潔に保つことは、むし歯や歯周病を減らす以外に、どのような意義があるのでしょうか。

口から食べる機会の減少や、経管栄養、薬の副作用などのさまざまな理由で唾液の分泌量が減少すると、要介護高齢者の口腔内は乾燥し、汚れやすくなります。

そのような状況の中、十分な歯磨きができないと、食べかすやプラークだけでなく、痰なども口腔内のあらゆる場所にこびりつき、口腔内細菌が著しく増えます。

口腔内細菌の増加によってもたらされるのは、むし歯や歯周病だけではありません。嚥下機能や体の抵抗力が低下した要介護高齢者の場合、口腔内細菌が気管を通って肺に入り、誤嚥性肺炎を引き起こし、時に死をもたらします。

そのため、高齢者の介護や医療の現場において、口腔ケアによって誤嚥性肺炎を防ぐことは非常に大切なことなのです。

6.口腔ケアの手順

では、口腔ケアはどのような手順で行うのでしょうか。

口腔ケアにおいて重要なポイントは、バイオフィルムを破壊することと、破壊したバイオフィルムを除去することの2つです。

口腔内細菌の塊であるバイオフィルムは、強い粘着性をもち、歯や義歯、口腔粘膜に付着しています。バイオフィルムはうがいで破壊することはできないため、歯ブラシやスポンジブラシ、歯間ブラシ、ガーゼなどを用いて破壊し、除去を行います。

口腔ケアではまず、これらの清掃用具を用いて、歯だけでなく、入れ歯や舌、口腔粘膜をきれいにしていきます。このとき、口腔内が乾燥して汚れがこびりついている場合は、ジェルなどの保湿剤を塗布し、口腔内を保湿します。

また、唇が乾燥している場合はリップクリームやワセリンなどで保湿します。唇や舌、口腔粘膜は傷つきやすく出血しやすいため、十分に保湿したうえで、丁寧に口腔内清掃を行うことが重要です。

口腔内清掃によりバイオフィルムを破壊した後は、破壊したバイオフィルムを口腔内からすみやかに除去することが大切です。

健康な人の場合、歯磨きの後にうがいをすることで、口腔内に残ったバイオフィルムが口腔外に排出されます。

しかし、うがいのできない高齢者の場合、口腔内に残ったバイオフィルムを誤嚥する危険があるため、バイオフィルムな喉の奥に入らないように、さまざまな配慮が必要になります。

たとえば、多くの水や洗浄剤を使用しないこと、頚部を前屈させること、歯ブラシをすすぎ洗いしながら歯磨きを行うこと、必要に応じて吸引装置を用いることなどが挙げられます。

参照:テーマパーク8020 要介護者への口腔ケア-日本歯科医師会

7.口腔衛生管理体制加算と口腔衛生管理加算

現在、要介護高齢者の口腔ケアが誤嚥性肺炎の防止などに有効であることから、ほとんどの老人ホームが口腔ケアに取り組んでいます。

しかしながら、介護職員のみで入所者それぞれの口腔内状況に対応するのは決して容易ではなく、施設によっては十分な口腔ケアが行われているとは言いがたい状況です。

そこで、施設におけるより良い口腔ケアを推進するべく、介護保険制度に導入されているのが、「口腔衛生管理体制加算」と「口腔衛生管理加算」です。
(参照:口腔衛生管理について-一般社団法人 日本訪問歯科協会

まず、口腔衛生管理体制加算は、介護保険施設などにおいて、歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、介護職員に対して「口腔ケアに係る技術的助言および指導」を月1回以上行っている場合に、入所者全員に対して算定できます。

この「口腔ケアに係る技術的助言および指導」とは、口腔内状態の評価方法、適切な口腔ケアの手技、口腔ケアに伴うリスク管理など5つの項目のうち、いずれかについての技術的助言および指導を指します。

また、加算にあたり、当該施設において入所者の口腔ケアを推進するための課題や具体的方策、当該施設と歯科医療機関との連携状況などについて記載した、入所者の「口腔ケア・マネジメントに係る計画」を作成する必要があります。なお、この計画は個々の入所者ごとに作成するものではなく、施設ごとに作成します。

次に、口腔衛生管理加算は、前述の口腔衛生管理体制加算を算定していることを条件に、歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、入所者に対し口腔ケアを月2回以上行った場合、当該入所者ごとに算定できます。

なお、歯科衛生士は口腔ケアを行うだけでなく、介護職員に対して、入所者の口腔ケアについての具体的な技術的助言や指導を行うとともに、必要時には介護職員からの相談などに対応することが求められます。

加算の流れ(日本老年歯科医学会 介護保険施設等入所者の口腔衛生管理マニュアルを元にdStyle編集)
加算の流れ(日本老年歯科医学会 介護保険施設等入所者の口腔衛生管理マニュアルを元にdStyle編集)

口腔衛生管理体制加算と口腔衛生管理加算をそれぞれ算定できるよう、施設で口腔ケアを実施する場合、次のような職種ごとの役割分担が理想的であるといえるでしょう。

まず介護職員は、歯科医師、歯科衛生士から口腔ケアに関する助言・マネジメントを受けたうえで、デイリーケアとして口腔ケアを行います。そして、歯科医師や歯科衛生士は誤嚥性肺炎などのリスクが高い入所者に対して、プロフェッショナルケアとしての口腔ケアを行います。

このような役割分担により、施設での口腔ケアをより効率的かつ効果的にすることができるのです。

また、それぞれの加算の内容から、歯科医師以上に歯科衛生士の働きが、施設における口腔ケアの成功の鍵を握るといえるでしょう。

なぜなら、歯科衛生士は、助言や指導を通して介護職員の口腔ケアに対する認識と行動を変え、なおかつ入所者に自ら直接口腔ケアを行うことで、入所者の口腔内を変える、きわめて重要な役割を担っているからです。

このように、要介護高齢者施設での歯科衛生士に対するニーズは年々高まる一方ですが、歯科衛生士の数は不足しており、配置はまだ十分とはいえない状況です。

ちなみに、口腔衛生管理体制加算と口腔衛生管理加算は、施設の常勤もしくは非常勤の歯科医師、歯科衛生士にかぎらず、協力歯科医療機関の歯科医師、歯科衛生士でも算定可能です。

そのため、現在のところ、協力歯科医療機関の歯科医師、歯科衛生士が施設に訪問し、入所者の口腔ケアを行っているケースがほとんどです。

参照:介護保険施設等入所者の口腔衛生管理マニュアル-一般社団法人日本老年歯科医学会

8.経口維持加算とは?

口腔ケアによって清潔な口腔内を保つことは、高齢者が健康に長生きするうえで必要不可欠です。

しかし、口腔ケアだけでは十分ではありません。目指すべき最終的なゴールは、高齢者が最期まで自分の口で食べ物を咀嚼し、味わいながら食べられるということです。このことは、十分な栄養摂取を促し、高齢者が最期まで自分らしく生きることを可能にします。

そのため、歯科医師、歯科衛生士には、咀嚼・嚥下機能にも介入し、要介護高齢者の安全な経口摂取をサポートすることが求められています。

施設における要介護高齢者への経口摂取サポートを促すための加算として、平成18年度に「経口維持加算」が導入されており、今日にいたるまで、現場のニーズに応じてさまざまな改定が重ねられてきました。

導入当初は、経口維持加算を算定するうえで、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査や、2週間ごとの医師の指示などが必要とされるなど、多くのハードルがありました。

そのため、実際に経口維持加算を算定できる施設が少なく、経口摂取支援が必要な高齢者にサポートが行き届いているとは言いがたい状況でした。

そこで、算定のハードルを下げ、経口摂取支援を必要とする要介護高齢者へのサポートを充実させるために、平成27年度の介護保険改定により経口維持加算が見直されました。

この改定により、それまでの検査方法による評価区分を廃止し、多職種による「食事観察(ミールラウンド)」やカンファレンスなどの取り組み、および咀嚼能力などの口腔機能をふまえた経口維持のための支援が評価されるようになりました。

歯科医師、歯科衛生士は要介護高齢者の咀嚼、嚥下機能に介入できる職種の一部です。しかしながら、安全な経口摂取を効果的にサポートするには、単独の力では困難であり、栄養管理に携わるさまざまな職種と連携することが重要です。

9.老人ホームにおける経口摂取支援

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センターの調査によると、現在、介護保険施設に入所している要介護高齢者のうち約64%が、摂食嚥下機能障害により経口摂取の支援が必要とされています。
(参照:多職種経口摂取支援チームマニュアル-地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター

介護保険施設(老健・特養)入所者の摂食嚥下能力の状況:n=1646(引用:東京都健康長寿医療センター)
介護保険施設入所者の摂食嚥下能力の状況:n=1,646(多職種経口摂取支援チームマニュアルを元にdStyle編集)

摂食嚥下障害の原因疾患は、脳血管障害、認知症、神経難病などさまざまであり、摂食嚥下障害の臨床像もさまざまです。

要介護高齢者は摂食嚥下機能低下に加えて、精神機能の変化や意欲低下もきたすため、低栄養のリスクは高いといえます。とくに要介護度が高い高齢者ほど低栄養リスクが高く、それによって感染症発症リスクの上昇や認知症の進行をもたらすとされています。

また、加齢による全身の筋力低下や会話の回数、硬いものを噛む機会の減少が、機能の廃用をもたらし、咀嚼、嚥下にかかわる筋肉は衰えていきます。

摂食嚥下機能の低下はQOLの低下をもたらし、要介護高齢者の社会生活機能や心の健康にまで影響を与えます。

要介護高齢者がQOLを保ったまま穏やかな最期を迎えるためには、口腔機能を維持し、摂食嚥下機能の適切な評価を行いながら、複数の専門職による多様な視点からの包括的な支援を継続して行うことが必要不可欠なのです。

10.多職種連携による経口摂取支援の流れ

では次に、多職種連携による経口摂取支援の流れについて説明していきます。

多職種連携の主な取り組みとして、ミールラウンド多職種カンファレンスがあります。

ミールラウンドは、入所者の食事場面を多職種で観察することで、歯科医師、看護師、管理栄養士、介護職員などで行います。

咀嚼嚥下機能や食事環境、食事姿勢を適切に評価し、多職種間での意見交換を通じて、どのような支援が必要なのか総合的に考察することができます。

また、多職種カンファレンスには、歯科医師、歯科衛生士、看護師、管理栄養士、作業療法士、介護職員、介護支援専門員などの複数のスタッフが参加します。そこで、入所者が食べる様子を動画などで確認、共有しながら、本人の全身状態、栄養状態、咀嚼能力や嚥下機能に応じた経口維持計画を検討します。

それでは、この多職種連携による経口摂取支援の中で、歯科医師や歯科衛生士は、具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか。

まずは歯科衛生士が中心となり、口腔衛生状態を把握したうえで、口腔ケアを行います。

さらに歯科医師が中心となり、潰瘍やカンジダ症などの口腔粘膜疾患や、むし歯や歯の欠損による咀嚼困難、義歯の破損などがないかを確認します。そして必要であれば、口腔内疾患に対する適切な治療や義歯の修理、再製などを行います。

このように、多職種連携により経口摂取支援を効果的なものにすることで、肺炎発症者の減少や平均摂取エネルギーの増加、体重の増加をもたらすことが報告されています。

要介護高齢者が安全に口から食べられるということは、栄養状態の改善はもちろん、全身的な健康をももたらします。

つまり、要介護高齢者自身はもちろん、介護施設の職員や医療従事者にとっても、非常に意義深く、真剣に取り組むべきテーマなのです。

11.さいごに

今回、介護保険制度をふまえながら、老人ホームにおける歯科医師、歯科衛生士の仕事について説明しました。

老人ホームでの歯科の仕事は、主に要介護高齢者の口腔ケアや摂食嚥下機能管理です。一般の歯科医院と仕事内容は違いますが、高齢化の進む我が国において、今後一層ニーズが高まっていく分野であることは明らかです。

老人ホームにおける口腔ケアでは、歯科衛生士がその多くの役割を担っているため、老人ホームは、一般の歯科医院以上に、歯科衛生士が大きな社会的価値を生み出せる場所といっても過言ではないでしょう。

歯科衛生士は、女性が多くを占めるため、結婚、出産、育児などのライフイベントにより一度離職する方は少なくありません。

かつて離職し、再就職を希望する歯科衛生士は多い一方、実際に再就職を検討するうえでもっとも障害となるのは勤務時間とされています。

歯科医院へ就職する場合、フルタイム勤務を求められることが多いですが、老人ホームでの勤務の場合、非常勤もしくはパートタイム勤務が可能な施設も多くあります。

ブランクを経て再就職するうえで、勤務時間という観点ではハードルが低いかもしれません。また、これまで歯科医院で働いてきた歯科衛生士にとっても、老人ホームは、新たな領域に挑戦できる転職先として最適でしょう。

さらに、老人ホームの歯科の仕事に興味があるものの、資格を持っていないという方は、歯科助手として働くことができます。

仕事内容は、主に施設の歯科衛生士が行う口腔ケアの補助や道具の準備、片付けなどです。

歯科助手は、無資格や未経験者でもはじめることができる仕事です。歯科業界未経験の方も、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

今回の記事で老人ホームでの仕事に興味を持たれた方、老人ホームでの就職、転職を考えている方は、ぜひデンタルスタイル採用サポートにご相談ください!

ぜひご自身にあった職場を見つけ、キャリアアップしてくださいね。

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