歯科管理栄養士のいろは 第3回 職種の壁を乗り越える方法

こんにちは、医療法人靖正会 歯科管理栄養士の前です。

この連載では、歯科管理栄養士の役割や実際の業務について、臨床現場のエピソードをまじえながらお伝えしたいと思います。

前回まではこちら

第1回 予防歯科の必需品!?歯科管理栄養士の仕事とは?
第2回 立ちはだかる仕事の壁

第3回は、歯科に務める管理栄養士の前に立ちはだかる壁の中でも、一番大きいと感じる壁についてお話します。

それは、第2回で少しだけ触れた「第三の壁」、口腔内と全身・食との関係性がリンクしないことです!

目次

1.立ちはだかる仕事の壁
2.歯科と管理栄養士の知識がリンクした瞬間
3.case③ 親子3世代で口腔内へアプローチ

1.立ちはだかる仕事の壁

第1回でも少しお話ししましたが、管理栄養士は全身の状態や食生活、栄養については、知識を持っています。

まさかその知識が歯科に入ると、余計な混乱を招くことになるなんて当時は考えもしませんでした。

歯科に来院される患者さんには、肥満を改善したくて来院される方はいらっしゃいません。

歯科に来院される患者さんは、むし歯による痛み、歯肉の腫れ、補綴物の脱離など、口腔内に関わる症状が主訴で来院される方々がほとんどです。これも現在の歯科の問題点のひとつではありますが、ここでは割愛します。

あくまでも主訴の話ですが、ダイエットをしたくて、高血圧を改善したくて・・・という患者さんは歯科にいらっしゃいませんよね。

では、むし歯で来院された患者さんに、管理栄養士はどうアプローチすれば良いのでしょうか?

歯が痛いと来院された患者さんに、いきなり食事のバランスが・・・なんて話をしたとしたらどうでしょう。

歯が痛いから早く歯を治して!食事なんて今はどうでもいいから!・・・となりませんか?

私は当時、なかなか患者さんの主訴と自分の役割や持っている知識を繋げることができませんでした。

どうしても全身状態から評価したくなったり、食事だけを見て判断したくなっていたのです。

そしてカンファレンスなどで意見を出すと、「それって患者さんは求めているの?」「それ口腔内と関係ある?」という意見が他職種から出る。また違う患者さんでのカンファレンスをすると同じようなことが起きる。この繰り返しでした。

患者さんの健康のサポートをしようと、頑張れば頑張るほど空回りする。

カウンセリングをしても、今は大丈夫です、また考えますと言われる日々が続きました。

やってもやっても、何がダメでどうすればいいか全然分からず露頭に迷っていました。

口腔内と全身・食との関係性がリンクしない

2.歯科と管理栄養士の知識がリンクした瞬間

そんな時、院長からもらったアドバイスで、少し光が見えはじめます。

全身状態や食事の話をするなら、患者さんの主訴と結び付けることができないと歯科分野では難しい。
もっと歯科のことをしっかり勉強して、口腔内のことが分かるようになる必要がある。むし歯や歯周病についてもしっかり勉強してや。

そう、この当時私はうまく話ができるようになりたい!と、歯科の勉強と並行してカウンセリングスキルを磨こうと必死になっていました。

でも、優先順位が違ったんです。

歯科で働いているにも関わらず、口腔内のことを深く勉強する前に、食やコミュニケーションスキルを学ぶことに力を注いでしまっていたんです。

治療の流れやむし歯、歯周病のことなど、勉強しないといけないことは山積みだったにも関わらず・・・。

私はハッとして、そこから歯科のことを猛勉強しました。

いや、今も継続して勉強しています。

自宅のカウンターには常に勉強用の書籍が山盛りです(笑)
自宅のカウンターには常に勉強用の書籍が山盛りです(笑)

すると何が起きたかというと・・・口腔内と全身がつながっていること、むし歯の原因のひとつに食事が大きく関わっていること、糖化と歯周病の関係性など、点と点だったさまざまなことが、だんだん線として繋がりはじめたのです。

そして、そんな私を見ていた院長は、法人に在籍する管理栄養士のために勉強会を開いてくださることになりました。

院長が考える歯科管理栄養士の役割、目標、今後の歩むべき道、むし歯や歯周病についてなど、私たち歯科で働く管理栄養士が歩むべき道を示してくださったんです。

そこから私の進むべき道も、より明確になりました。

管理栄養士は、歯科の知識がまったくない状態で歯科に入ることがほとんどです。

歯科医師や歯科衛生士と違い、しっかりとした知識がベースにあるところからのスタートではないため、決して道のりは緩やかではありません。

しかし、点と点が線になった時!管理栄養士は絶対必要で、より多くの管理栄養士の方に歯科で働いてほしい!と強く思うほど、この仕事についてよかったと感じています。

実際に私が健康サポートをさせていただいている患者さんは、「このまま色々と知らないままだったら私の歯どうなってたんでしょうか・・・こちらの歯医者さんへきて本当によかった!」と言ってくださっています。

知らないことが歯の寿命を短くする

これは私が、かならず患者さんへ熱を込めて伝える言葉です。

知っていればいつでも行動できます。

しかし知らなければ、そのまま歯がなくなるのをただ待つだけになってしまいます。

だからこそ、きちんとした治療方法、予防方法を知ってください!と熱が入ってしまうんです。

今回は、そんな現状と予防方法をきちんと知ったことで、どんどん口腔内がきれいになった子供さんの症例をご紹介します。

3.case③ 親子3世代で口腔内へアプローチ

当院は他職種連携とチームワークが大きな強みですが、今回ご紹介する内容はそのきっかけとなった症例です。

患者さんは10代の男の子。長く通ってはくれていますが、メインテナンスの度にむし歯が見つかるような子供さんでした。

1回目来院時の聞き取り

実際の食生活アンケート
実際の食生活アンケート

もともとその患者さんを担当していた歯科衛生士と歯科医師が、

“きっちりメインテナンスにきてもらっていてもむし歯ができるので、他にも大きな要因があるはず!食事の面から管理栄養士に介入してもらったらいいんじゃない?”

といって、バトンを渡してくれた症例です。

この流れが、医院の中における管理栄養士の役割が見えたきっかけとなりました。

食生活アンケートだけ見ると、あれ?リスクはあるけど想像していたよりも・・・と思いながら聞き取りを進めました。

すると、子供さん本人に直接聞けば聞くほど、溢れるように甘い飲み物やおやつの話が出てきます。このままでは絶対またむし歯になる・・・そう感じたため、急いでサポートを開始しました。

この患者さんの場合、食事を祖母が作られることが多いため、母親だけでなく祖母まで絡めてお話ししないと改善が難しいと判断。健康サポートには、本人だけでなく、母親と祖母にも同席してもらいました。

私は健康サポート初回では、サポートを受ける目的と目標をかならずご本人に考えてもらうようにしています。

自分で考える!これがとても重要だからです。

この時は、同席のご家族にもそれぞれ考えてノートに書いてもらい、それぞれの目標に沿って、リスクを下げるための提案を伝えて実践してもらいました。

中でもいちばん患者さん本人にスイッチが入ったことは、自分自身が食べているもの、飲んでいるものが嫌いなむし歯治療へ直結すると理解できたことでした。

聞き取りをした内容を元に、今摂取している砂糖の量を伝え、それがどうむし歯になるのかまでお話することで、本人としては相当危機感を感じてくれたようです。

生活改善では、ご本人が集中できる環境をいかに作れるかが大事です。

母親には歯磨きをしない、食事をちゃんとしないなどと怒るのではなく、あたたかく応援する側に回ることが重要であること、

祖母には今まで孫がかわいいからと与えていたジュースやお菓子が、本人のためにならないと理解していただいたことも、リスクを下げることができた大きな要因です。

そして、4回目の来院で行った聞き取りの結果がこちらです。

  • だらだら食べていない
  • 砂糖入りのものは摂ってない
  • 炭水化物のジャガイモまで食べるのをやめてお母さんが心配する始末(むし歯菌のえさになるものはすべて止めようと思うストイックさ・・・逆にすごい!)
  • 当院に通うお兄ちゃんも、弟はビックリするくらい間食やジュースをぴったりやめた!と言っていた
  • 歯磨き15分

この患者さん、今では担当衛生士がびっくりするくらい、ホームケアが上手になりプラークコントロールもとても良くなりました。

今現在、新たなむし歯もなく継続してメインテナンスへ通ってくださっています。

ご家族皆さんを巻き込んで提案を進めて行くことは決して簡単なことではありませんでしたが、ご家族の協力があったからこそご本人の頑張りがより結果へ結びついたのだと思います。

それと同時に、他職種のスタッフが、管理栄養士が成果を出すにはどうしたらいいかを考えてパスを出してくれたことによって実践できた、とても勉強になる症例でした。

歯科管理栄養士のいろは 第3回

患者さんの健康を守るには、全身の健康の入口である口腔で、いかに負のスパイラルに入らないようにするかが重要です。

その口腔を診ることができる歯科において、食と歯科の知識を併せ持つ管理栄養士との連携は、患者さんの健康観を高める上で必要不可欠ではないでしょうか。

より多くの管理栄養士の方に、歯科で働いてほしい!と強く思います。

歯科管理栄養士のいろは

第1回 予防歯科の必需品!?歯科管理栄養士の仕事とは?
第2回 立ちはだかる仕事の壁
第3回 職種の壁を乗り越える方法