総合病院で働く歯科医師・歯科衛生士の仕事って?

一般的に「歯科」と聞くと、街の歯医者さんを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

日本における歯科医療のほとんどは一般の歯科医院で提供され、そこで行われる歯科治療は、実にさまざまです。

具体的には、むし歯の治療をはじめ、歯周病の治療、入れ歯やかぶせ、詰め物の製作と装着、歯並びの矯正や抜歯、インプラント治療など多岐にわたります。

では、一般の歯科医院の次に、歯科医療を行っている場所はどこかご存じでしょうか。

それは総合病院の歯科です。

すなわち、総合病院というさまざまな医科の診療科が標榜された病院において、歯科医療を通じて、院内そして地域の医療に貢献している歯科医師や歯科衛生士が存在しています。

[目次]

1.総合病院とは?
2.総合病院における歯科の仕事
3.口腔外科の仕事内容
4.周術期等口腔機能管理とその手順
5.なぜ周術期等口腔機能管理が必要なの?
6.総合病院で働く歯科医師と歯科衛生士のお給料は?
7.総合病院で働く歯科衛生士の仕事内容
8.さいごに

1.総合病院とは?

では、「総合病院」とは、具体的にどんな病院を指すのでしょうか。

1997年の医療法改正までは、地域の中核的医療拠点となる大病院が「総合病院」として定義されていました。

具体的には100以上の病床と、最低でも内科・外科・産婦人科・眼科・耳鼻咽喉科の5つの診療科を標榜しており、さらに省令で決められたさまざまな施設を備え、最終的に都道府県知事の認可を受けた医療機関が「総合病院」として認められていました。

しかし、現在における「総合病院」とは、先述の医療法改正により法律上での分類が廃止され、より多くの病床と診療科を抱えている病院を表す場合がほとんどです。

総合病院は、外来診療だけでなく、入院や手術にも対応できる医療機関です。またCTやMRIなど、一般のクリニックにはあまり設置されていない、大きな検査機器や比較的新しい検査機器が導入されています。

そのため、単科病院単独では対応できないような複数の疾患を抱えた患者さんに対しても、複数の診療科を持つ総合病院では、各科が連携して対応できることがほとんどです。

また、総合病院のうち、現在の医療法において病床数や設備、人員配置など、さまざまな厳しい要件を満たした機関については、「地域医療支援病院」または「特定機能病院」として承認されています。
(参照:特定機能病院及び地域医療支援病院の承認要件の見直しについて-厚生労働省

地域医療支援病院は病床200床以上を持つ医療機関で、患者に地域医療を提供することを目的とし、都道府県知事から承認されています。2018年時点では、全国に607機関存在しています。

また特定機能病院は400以上の病床を持つ医療機関で、高度な医療の提供や開発、研修などを目的とし、厚生労働大臣から承認されています。

承認要件は地域医療支援病院より一層厳しいものとなっており、2020年現在、全国に86機関存在します。特定機能病院の特性上、そのほとんどが大学病院となっています。

歯科が設置してある総合病院は全国に約850機関。とくに地域医療支援病院や特定機能病院には、歯科がある場合がほとんどです。

2.総合病院における歯科の仕事

それでは、総合病院における歯科では、実際にどのような仕事を行っているのでしょうか。

主に総合病院の歯科では、一般の歯科治療、口腔外科治療、そして周術期やがん治療中の患者さんに対する口腔管理の3つが行われています。

総合病院における一般の歯科治療

まず総合病院における歯科治療の内容自体は、むし歯や歯周病の治療、かぶせや入れ歯の作製など、街の歯科医院で行うものと大きく変わりません。

しかし、対象とする患者さんが一般の歯科医院と異なります。

総合病院の歯科では、狭心症や糖尿病、感染症などのさまざまな全身疾患を持つ患者さんや、街の歯科医院において対応が難しい患者さんを受け入れています。

また、院内の他の診療科より、患者さんの口腔内診察や歯科治療を依頼されることも頻繁にあります。

これらのことから、総合病院で働く歯科医師や歯科衛生士は、全身管理の知識と、それらをふまえた安全な歯科治療の提供が求められます。

口腔外科治療

次に、口腔外科の概要について説明します。

口腔外科とは、口腔や顎、顔面に現れる疾患を扱う診療科のことです。具体的には、歯の欠損、歯や顎骨の外傷、炎症、良性腫瘍、悪性腫瘍(がん)、口蓋裂などの先天異常、顎変形症、口腔粘膜疾患、唾液腺疾患、顎関節疾患といった、さまざまな疾患を扱い、診断と治療を行います。
(参照:口腔外科相談室 口腔外科(こうくうげか)とは?-公益社団法人 口腔外科学会

口腔外科は総合病院に設けられている場合がほとんどで、一般の歯科医院で口腔外科を専門として行っているところはあまり多くありません。

そのため、口腔外科における専門的な診断と治療が必要な患者さんは、総合病院の口腔外科を受診することになる場合がほとんどです。

なお、総合病院の歯科を、院外から初めて受診する場合、患者さんは原則として、かかりつけ歯科医院の歯科医師によって書かれた「紹介状」が必要です。

紹介状とは、かかりつけ歯科医が患者さんの情報を紹介先の病院に伝えるものです。紹介状には患者さんの氏名などの基本情報のほかに、紹介の目的や現在の症状、これまでの治療内容と経過、既往歴などが記されています。

周術期やがん治療中の患者さんに対する口腔管理

最後に、総合病院の歯科における重要な仕事である、周術期やがん治療中の患者さんに対する口腔管理について簡単に説明します。

これは、医科診療科において手術を受ける患者さんや、放射線治療などのがん治療を行う患者さんに対し、手術やがん治療の前後に継続的な口腔ケアと、必要であれば応急的な歯科治療や抜歯を行うことを指します。

手術や治療前に口腔内の感染巣を除去またはコントロールすることで、手術や治療前後のさまざまな感染リスクや口腔内トラブルを減らすことができます。

これにより、本来の治療が効果的かつスムーズに進み、在院日数の短縮や医療費の削減などにつながるため、患者さんはもちろん医師や病院、国にとっても大きなメリットをもたらすといえます。
(参照:中央社会保険医療協議会 総会(第259回) 議事次第-厚生労働省

そのため、周術期やがん治療中の患者さんに対する口腔管理は、歯科の中でも現在もっとも社会からニーズが高まっている分野といっても過言ではないのです。

総合病院で働く歯科医師・歯科衛生士の仕事って?

3.口腔外科の仕事内容

それでは実際に、総合病院の口腔外科では、具体的にどのような仕事を行っているのでしょうか?

総合病院の口腔外科を受診する患者さんのほとんどは、かかりつけ歯科医院からの紹介で来院します。

通常の歯科治療と同じく、初診の患者さんに対してはまず問診と診察、必要に応じてX線検査などを行ったうえで診断を行い、治療に進みます。

口腔外科で行う治療は外科的処置がメインになり、抜歯、外傷の処置、炎症を取り除く手術、良性腫瘍や悪性腫瘍の手術、インプラントの治療など多岐にわたります。

外科的処置や手術というと大がかりなものをイメージしますが、手術の内容や規模はケースバイケースです。

たとえば、抜歯や歯肉の切開などの比較的侵襲度の小さい外科的処置は、局所麻酔の注射を行ったうえで外来処置室のユニットにて行うことができます。

しかし、口腔がんの手術や下顎骨骨折など、侵襲度が大きく外来ではできない手術については、患者さんを入院させたうえで、全身麻酔下で手術を行います。

全身麻酔下で行う口腔外科の手術の中でも、顎変形症に対する上下の顎骨の骨切り術や、口腔がんの切除術、リンパ節を含む組織を除去する頚部郭清術などは、とくに大規模な手術といえます。

長時間の手術の場合、口腔外科医が朝から晩まで立ちっぱなしで手術をこなさなくてはなりません。なお、このような大がかりな手術は、執刀医は口腔外科医としての経験年数の長い先生が務める場合がほとんどです。

執刀医のほかには二人ほど介助の口腔外科医がつき、器具を使って術野を見やすくしたり、術野の血液を吸引したりします。

経験年数の浅い先生は、すぐに手術に携わることはなく、まずは親知らずの抜歯などから、口腔外科医としての経験を積みはじめます。

口腔外科医としての経験年数と技術が増えるにつれ、手術において術野での介助を任され、やがて少しずつ執刀医として患者さんに執刀する機会も増えてきます。

ここまで外科的処置や手術について説明してきましたが、口腔外科医の仕事はそれだけではありません。

口腔外科医は手術を控えた、もしくは手術後の、病棟の入院患者の管理についても行う必要があります。一口に入院患者の管理といっても、業務内容は広範囲におよびます。

患者さんの入院と手術が決定したら、はじめに病棟や手術室、麻酔科などの関係各所に申し込みを行います。

そして、患者さんが入院したら、手術や治療計画などについてインフォームド・コンセント(説明同意)を行います。この際、入院中に患者に行う処置や検査、点滴や薬の投与だけでなく、提供する病院食の内容にいたるまで、すべての指示を前もってカルテ上に記載しなければなりません。

なぜなら、病棟の看護師は、カルテ上での口腔外科医からの指示があってはじめて、患者さんの血圧測定や体温測定を行ったり、口腔外科医の代わりに点滴や投薬を行ったりすることができるからです。

口腔外科医による適切なカルテ記載と病棟への指示は、手術を行うことと同じくらい重要な仕事といっても過言ではないでしょう。

また口腔外科医から看護師への指示が不十分である時や、患者の状態が安定しない時に、病棟の看護師から口腔外科医に連絡があるのは日常茶飯事です。

さらに、救急科がある総合病院などでは、夜間や休日に、顎顔面の外傷患者にも対応することもあります。もちろん、これらすべての業務を一人の口腔外科医が担うわけではなく、不在の日や夜間、休日の業務については、他の歯科医師と交代で従事します。

とはいえ、平日の診療時間以外にも勤務しなければならないという点では、一般歯科と比較すると、総合病院の口腔外科はなかなかハードな仕事かもしれません。

このように口腔外科は、歯科の中でもとくに気力と体力を求められる仕事といえます。

その一方で、口腔外科医は、多様な口腔顎顔面疾患に対応できる知識と技術をもち、なおかつ全身管理も心得ている歯科医師として、歯科医師の中だけでなく、社会においても大変頼りにされる存在です。

外科処置や手術、全身管理に興味があり、体力にも自信のある方は、ぜひ口腔外科の扉をたたいてみてはいかがでしょうか。

口腔外科の仕事内容

4.周術期等口腔機能管理とその手順

総合病院の歯科において、現在もっとも重要視されている仕事として、周術期やがん治療中の患者に対する口腔管理がある、と先に述べました。

周術期やがん治療中の患者さんに対する口腔管理は、診療報酬算定上は「周術期等口腔機能管理」といわれています。手術を受ける患者さん以外も対象にしているので「周術期等」と表現されます。

周術期等口腔機能管理は、2012年に新設されて以来、医科歯科連携の要として、診療報酬改定のたびに関連項目の新設や対象疾患の拡大、算定回数の増加や点数の引き上げが行われています。
(参照:2020年歯科診療報酬改定のまとめ-WHITE CROSS

このことは、国をあげて、周術期等口腔機能管理を通して医科歯科連携を今後より一層促そうとしていることを意味します。

この周術期等口腔機能管理は、医科と歯科が併設された総合病院に限らず、歯科のない病院や一般の歯科医院においても両者が連携していれば行うことができます。

しかし、医科と歯科が併設された総合病院では、医科から歯科への依頼にはじまり、歯科医師と歯科衛生士による実施にいたるまで、周術期等口腔機能管理を院内でシームレスかつスムーズに行うことが可能であり、これは患者さんのみならず医療従事者にとっても大きなメリットといえます。

さて、周術期等口腔機能管理とは、具体的にどのような患者さんを対象にしているのでしょうか。

対象となる患者さんは、頭頚部、呼吸器、消化器などのがんの手術、臓器移植手術、心臓血管外科手術、脳卒中に対する手術、人工股関節置換術などの整形外科手術、造血幹細胞移植を受ける方、さらにがんなどに関わる放射線治療や化学療法を実施する方、緩和ケアを実施する方とされています。

では、周術期等口腔機能管理は、実際にどのような流れで行われるのでしょうか。

実施体制は、次の3パターンに大きく分けられます。

  1. 医科歯科併設の病院内で完結する場合
  2. 医科歯科併設の病院が歯科医院と連携する場合
  3. 歯科のない病院が歯科医院と連携する場合

今回は、①医科歯科併設の総合病院における、院内完結型の周術期等口腔機能管理の流れについて説明していきます。

はじめに、周術期等口腔機能管理は、すべて医科診療科から歯科への依頼からはじまります。

依頼を受けた歯科医師は最初に、これから手術または放射線治療や化学療法などを受ける患者さんの全身状態や治療予定を把握します。

そのうえで、歯科の初回受診時に歯周基本検査、さらに必要であればデンタルエックス線またはパノラマエックス線撮影などを行い、口腔内の状態を評価します。そして口腔内の問題点を抽出し、医科における治療予定にあわせて、歯科における今後の口腔機能管理の計画を立てます。

歯科医師は患者さんに対し、現在の口腔内の状態と口腔機能管理計画の内容、最適なセルフケアの方法などについて文書提供を行い説明し、口腔機能管理に対する同意を得ます。このとき、周術期等口腔機能管理計画策定料300点を算定することができます。

総合病院で働く歯科衛生士は、歯科医師からの周術期等口腔機能管理の指示をふまえて、患者さんに対してブラッシング指導やスケーリング、歯面清掃などの口腔衛生管理を行っていきます。

このように、周術期等口腔機能管理計画の策定の後、歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士による口腔管理を行うと、周術期等口腔機能管理料を算定することができます。

なお、この周術期等口腔機能管理料は、患者の医科で受ける治療内容や、歯科で口腔管理を行うタイミングによって、算定できる点数や一定期間に算定できる回数が異なります。
(参照:日本歯科衛生士会監修『歯科衛生士のための歯科診療報酬入門 2020-2021』医歯薬出版株式会社.

5.なぜ周術期等口腔機能管理が必要なの?

先ほど、周術期等口腔機能管理は全て医科診療科から歯科への依頼からはじまる、と述べました。

では、なぜ医科における手術を控えた患者さんや、化学療法や放射線治療などを受ける患者さんに対して、歯科が介入する必要があるのでしょうか。

歯科医師と歯科衛生士が医科患者の口腔を管理することでもたらす具体的なメリットについて、患者さんが受ける治療別に説明していきます。

手術を受ける患者さん

周術期の口腔ケアは、口腔内細菌が口から体内に入ることで引き起こされる、術後の創部感染や敗血症、また整形外科による人工骨頭置換術や心臓血管外科による弁置換術などで留置された人工物への感染を防ぐことを目的として行われます。

また、全身麻酔下で口から気管にチューブを挿入する際に、口から肺に口腔内細菌が入ることで誤嚥性肺炎を引き起こすといわれていますが、術前の口腔ケアにより、術後の誤嚥性肺炎のリスクを大いに下げることができます。

誤嚥性肺炎は時に死をもたらすこともあるため、口腔ケアによる誤嚥性肺炎の予防は、周術期に限らず、医療や介護の現場において非常に重要視されています。

もちろん、周術期における口腔管理は口腔ケアだけではありません。

術前に著しく動揺している歯がある場合は、歯科医師があらかじめ抜歯、もしくは動揺歯を保護するためのマウスピースの作製を行います。

全身麻酔で挿管する時に喉頭鏡という器具を口から喉に入れますが、どんなに麻酔科医が注意していても、喉頭鏡が歯に当たる可能性は少なからずあります。

その際、もしも動揺している歯があれば、抜け落ちて食道や気管内に入る危険があります。そのため、術前に動揺歯を抜歯もしくはマウスピースを作製して挿管時に保護することは、麻酔科医が安全な挿管を行ううえで必要不可欠なのです。

化学療法を受ける患者さん

化学療法とは、抗がん剤を用いてがんを治療することを指します。

抗がん剤の投与方法は内服、注射、点滴があり、がん細胞の増殖を抑えたり、再発や転移を防いだりする効果があります。

化学療法のみで治療を行うこともあれば、化学療法と手術や放射線治療などの他の治療を組み合わせて行うこともあります。

また、抗がん剤には脱毛や吐き気、倦怠感やしびれなどさまざまな副作用があり、口腔内に現れる主な副作用に口腔粘膜炎があります。

口腔粘膜炎は通常、抗がん剤投与から1週間ほどでみられ、その後は自然と治ることがほとんどです。

しかし、十分な口腔ケアが行われず口腔内細菌が多い場合、口腔粘膜炎による傷から感染が起こり、重症化することがあります。その場合、抗がん剤投与量の減量や治療スケジュールを変更せざるを得ず、結果的に口腔粘膜炎が、がん治療そのものに影響を及ぼすことになります。

さらに抗がん剤の副作用である骨髄抑制により白血球が減ると、口腔内で感染を起こしやすくなります。

この状況下でさらに、抗がん剤による吐き気や倦怠感で口腔内の清掃が十分にできず、口腔内細菌が増えると、もともとあったむし歯や歯周病の急激な悪化が引き起こされます。さらに、カンジダ性口内炎やヘルペス性口内炎も起こりやすくなります。

つまり、歯科が介入し、化学療法を受ける患者の口腔内を清潔に保つことは、副作用に伴うさまざまなトラブルを乗り切るためにも大変重要なのです。

放射線治療の患者さん

頭頚部のがんで、放射線を口の周辺に照射する治療を受ける場合、口腔内に何らかの副作用が現れることがほとんどです。
(参照:テーマパーク8020 がん治療と口のケア-日本歯科医師会

とくに放射線治療による口腔粘膜炎は、抗がん剤による口腔粘膜炎と比べて、より重症化しやすく、治癒までに時間がかかる傾向があります。

通常、放射線治療がはじまると1、2週間で口腔粘膜炎が現れ、ひりひりとした痛みを感じるようになります。治療が進むにつれて口腔粘膜炎はひどくなり、重症化した場合は水を飲むことすら辛くなります。

放射線治療が終わると3、4週間ほどで少しずつ元の状態に戻りますが、その途中で口腔粘膜炎による傷から感染が起こると治癒は遅れます。

また、放射線の照射領域に唾液腺を含む場合、唾液腺が萎縮するため、放射線治療後は唾液の分泌量が減ってしまいます。この影響は長く続き、完全に回復することはありません。

唾液量の減少は口腔乾燥をもたらし、結果的に歯に汚れが付きやすく、細菌も増えやすくなるので、放射線治療後に急にむし歯が増えることは少なくありません。

さらに、口腔内におけるもっとも重大な副作用に、顎骨壊死があります。放射線を照射された顎骨は、放射線治療後の経過年数にかかわらず、抜歯などをきっかけに容易に感染を起こし、顎骨壊死をもたらします。

以上のことより、放射線治療中はもちろん、治療後も長期にわたり歯科による口腔衛生管理を続けることが、放射線治療の完遂だけでなく、放射線治療に関わる口腔内トラブルを未然に防ぐために大変重要だといえます。

そして最後に、がんの治療で使われることのある、ビスホスホネート系製剤(BP製剤)使用患者への歯科介入の必要性についても説明します。

BP製剤は経口製剤が骨粗鬆症に、注射用製剤ががんの骨転移に対して使われます。
(参照:ビスホスホネート系製剤と顎骨壊死-社団法人 日本口腔外科学会

そして注射用BP製剤を使用中もしくは過去に使用していた患者さんに対して抜歯やインプラント埋入などの外科的処置を行った場合、BP系薬剤関連顎骨壊死(BRONJ)が発生するリスクが非常に高いとされています。

そのため、注射用BP製剤による治療開始前に、歯科において抜歯適応の歯をあらかじめ抜いておく必要があります。

また口腔内を清潔に保つことはBRONJ予防にとても有効なため、BP製剤使用患者は定期的に歯科検診や口腔ケアを受けることが推奨されています。

以上のように、医科の患者さんに歯科医師と歯科衛生士が携わり、口腔ケアを主とした口腔管理を行うことは、口腔のみならず全身の感染トラブルを未然に防ぎ、医科の治療をより効果的なものにします。

歯科医師は口腔衛生管理だけでなく、入院中の限られた時間の中で、抜歯や入れ歯の修理、応急的なむし歯の治療なども行います。

そうして患者さんの口腔内を可能な範囲で良い状態にすることで、経口での栄養摂取やそれに伴う早期回復を促します。

早期離床、早期回復は患者の在院日数の短縮をもたらし、結果的に医療費の削減につながります。

つまり、歯科医師や歯科衛生士の働きが、病院内に大きな価値を生みだすといっても過言ではないでしょう。

6.総合病院で働く歯科医師と歯科衛生士のお給料は?

ここまで、総合病院における歯科医師と歯科衛生士の仕事内容について説明してきました。

では、気になるお給料は一体いくらでしょうか。

第22回医療経済実態調査によると、医科と歯科が併設された一般病院すなわち総合病院の歯科医師の平均給料年額は約1,036万円です。賞与すなわちボーナスは約174万円であるため、合計で約1,210万円です。
(参照:第22回医療経済実態調査の報告-厚生労働省

一方、歯科医院に勤務する歯科医師の平均給料年額は約561万円、賞与は約29万円であり、合計約590万円です。つまり、歯科医師が総合病院に勤務する場合、歯科医院に勤務する場合の約2倍近い年収が得られることを意味しています。

収入面のみで比較すると総合病院勤務の方が魅力的ですが、総合病院の歯科医師の求人は大変少ないため、新卒で総合病院に就職したり、一般の歯科医院から総合病院に転職したりするケースはあまり見られません。

さらに総合病院の歯科では、一般的な歯科治療のスキル以上に、口腔外科や周術期等口腔機能管理に対応できる能力が求められます。

そのため、総合病院の歯科では、大学病院の口腔外科出身の、比較的経験を積んだ歯科医師が働いている場合がほとんどです。

また総合病院では研究業績を求められることも多く、忙しい仕事の合間をぬって、学会発表や論文執筆を行うアカデミックな姿勢も重要視されます。

総合病院の歯科医師は期待される仕事が多い分、歯科医療を通して、患者さんや医師に大きなメリットをもたらす、非常にやりがいのある仕事といえます。

総合病院で歯科医師として働くことに興味がある方は、その病院の歯科がどの大学の医局とコネクションがあるか調べると良いでしょう。

病院によって事情はさまざまですが、総合病院の歯科が大学の医局とつながりがある場合、まずはその医局に入局することが、総合病院で働くための第一ステップになるかもしれません。

では続いて、総合病院で働く歯科衛生士のお給料はいくらでしょうか?

総合病院の歯科衛生士は平均給料年額が約308万円、賞与が約80万円であり、合計約388万円です。一方、歯科医院に勤務する歯科衛生士の平均給料年額は約259万円、賞与は約36万円であり、合計約295万円です。

つまり、歯科衛生士が総合病院に勤務する場合は、歯科医院勤務に比べて約1.3倍の年収が得られるといえます。

7.総合病院で働く歯科衛生士の仕事内容

歯科衛生士の仕事内容も、一般的な歯科医院と総合病院では異なります。

歯科医院では重い全身疾患のある患者さんの対応をすることはまれですが、総合病院の場合、患者さんは何らかの全身疾患を抱え、治療中である場合がほとんどです。
(参照:歯科衛生室 チーム医療-岡山大学病院

とくに周術期等口腔機能管理に携わる場合、患者さんそれぞれの疾患や行っている治療、それらに起因する口腔内状況の変化に配慮する必要があります。

また、総合病院の歯科衛生士は、周術期等口腔管理において口腔ケアを積極的に行うため、歯科医師の診療補助以上に歯科予防処置と歯科保健指導が主な業務となります。

チーム医療を実践する一員として、歯科医師のみならず、医師、看護師、薬剤師、栄養士、臨床心理士などと多職種連携を行うのは、総合病院ならではの働き方であるといえるでしょう。

歯科衛生士にとって、総合病院は、多様な知識とスキルを求められる分、歯科衛生士としての能力を十二分に発揮できる、未知の可能性を秘めた職場であるといえます。

また総合病院は、歯科医院で出会わないような症例を経験する機会も多いため、勤務する病院によっては、日本歯周病学会や日本口腔インプラント学会、日本障害者歯科学会などの認定資格を取得し、キャリアアップするチャンスになるかもしれません。

総合病院の歯科衛生士の求人は、歯科医師と比べると多いため、就職もしくは転職を考えている歯科衛生士は、求人サイトを調べるか、もしくは総合病院に直接問い合わせてみると良いでしょう。

なお、その際は、給与だけでなく、健康保険や厚生年金、休暇など福利厚生についても調べてみましょう。現在総合病院で働いている人に聞いたり、実際に病院見学に行ったりして、職場の雰囲気を知ることも大切です。

8.さいごに

今回は、総合病院で働く歯科医師と歯科衛生士の仕事について解説しました。これからの時代、病院内外を問わず、医科歯科連携をより緊密に行い、周術期等口腔管理などによる積極的な歯科介入が求められています。

医師、歯科医師、歯科衛生士は、周術期等口腔管理をルーチンや分業としてこなすのではなく、いま一度全体の流れとその意義を認識することが大切です。

また、歯科が携わり、患者の口腔内がより良い状態になることで、自分の口で食べる喜びが増え、身体の回復を促し、早く病院から家に戻れるようになることを、歯科が介入する前から患者さんに理解してもらうことが理想的です。

それを実現するためには、歯科だけでなく医科においても周術期等口腔管理のめざすゴールを再度共有し、なぜ医科の治療で歯科を受診する必要があるのかを、医師サイドからも患者さんに納得させることは非常に大きな意味をもつでしょう。

さらに、周術期等口腔管理をより長期的かつ継続的な視点でとらえると、病気になる前、すなわち健康なときから、街の歯科医院に定期的に通い、口腔内を清潔かつ機能する状態に保っておくことが重要だとわかります。

総合病院と歯科医院で働く歯科医療従事者が一丸となり、医師や国民全体の認識と行動を少しずつ変えていけば、歯科医療は、社会において本当の意味で幸福をもたらす存在となっていくでしょう。