歯科管理栄養士のいろは 第2回 立ちはだかる仕事の壁

こんにちは、萱島駅前歯科クリニックで働く前絵理です。

口腔が全身の健康に及ぼす影響について、近年さまざまな研究がなされています。

全身の健康を守るためには、その入口である口腔を診ることができる歯科で、患者さんの意識、認識を変える必要性があります。

そこで重要な役割を担うのが、歯科で働く管理栄養士だと考えています。

この連載では、歯科管理栄養士の役割や実際の業務について、臨床現場のエピソードをまじえながらお伝えしたいと思います。

前回はこちら

第1回 予防歯科の必需品!?歯科管理栄養士の仕事とは?

目次

1.立ちはだかる壁の数々
第一の壁:覚えることが多すぎてパンク寸前
第二の壁:治療内容が分からない
第三の壁:口腔内と全身・食との関係性がリンクしない

2.case② 朝食で糖を過剰摂取していた患者さん

1.立ちはだかる壁の数々

皆さんは、どのようにしたら管理栄養士の資格を取得できるかご存じでしょうか?

管理栄養士は国家資格です。まずは国が指定した管理栄養士養成施設または栄養士養成施設で学び、卒業することが前提条件となります。

4年制の大学や専門学校の管理栄養士養成課程に進む、または、栄養士養成施設を卒業した後に実務経験を経ることで、管理栄養士国家試験の受験資格を得ることができます。

歯科業界では、歯科医師も歯科衛生士も国家資格者です。国家資格を持っている、そういう意味ではある程度管理栄養士も同じ立ち位置のはずなんですが・・・当時は、まったくそうは感じませんでした。

歯科の知識0で入社した私にとって、歯科医院ではまったく役に立たない新人でしかなかったんです。

食品業界に長くいたこともあり、食に関しての勉強はしてきましたが、歯や口腔内のことはさっぱり。もちろん、学校で教えてもらったこともありませんでした。

資格も知識も役に立たない、こんなに私、何もできないのかぁ・・・というのが当時の私の正直な気持ちでした。

第一の壁:覚えることが多すぎてパンク寸前

入社した当初は、覚えることが多すぎて毎日頭がパンク寸前でした。

歯式からはじまり、器具の名称や保管場所、治療の種類、先生のアシスト方法、患者さんとのコミュニケーションなど覚えることが山盛りすぎて、毎日ノートが真っ黒になるほどメモを取っていました。

毎日ひたすらメモを取り続け増えていくノートたち(笑)
毎日ひたすらメモを取り続け増えていくノートたち(笑)

また、昼休みはスタッフ全員で一緒にご飯を食べていましたが、「あぁ〜さっき食べたのが6番の遠心に挟まったー!」

・・・ん?6番?遠心?何のこと?という具合に、繰り広げられる会話の中にも専門用語が多く、何を言ってるかわからない日も続きました。

今までの社会人経験の中で、ランチの会話が分からない経験ははじめてだったので、結構衝撃でした(笑)

第二の壁:治療内容が分からない

お恥ずかしながら、入社当時は何故むし歯になるのかも分からないほど無知でした。そのため、先生や衛生士、助手などが治療内容について会話をしていても、まったく分からない状態。

少しずつ器具の名称も覚え、動けるようにはなったものの、根本的に口腔内のことを理解するまでまだまだ時間がかかります。

何のためにこの治療をして、今からどういう流れになっていくのか、患者さんはどういう気持ちなのか、よく分からないままとにかく覚えたことをこなすのに必死の毎日でした。

第三の壁:口腔内と全身・食との関係性がリンクしない

入社して半年ほど経ち、業務にも少しずつ慣れて歯科の勉強も進めていた頃、院長から声がかかりました。

そろそろ管理栄養士としても仕事していこか。その声がかかった時、正直嬉しかったのを覚えています。

でもそんな喜びも束の間、次の壁がやってきます。今思えばここからの道のりがいちばん大変でした。

この第三の壁は、歯科で管理栄養士として働く方は、必ず通る道だと思います。それをどう乗り越えてきたかは次回のコラムでお伝えしていきますね。

そんな私も、今ではいろんな患者さんをサポートしています。むし歯や歯周病の治療で来院される患者さんをどうサポートしていくかが鍵になってきます。

特にむし歯の要因については、以前はプラークコントロールが大きく取り上げられていましたが、現在はプラークコントロールと共に、食生活も大きな要因とされはじめています。

当院の管理栄養士が熱心に食生活を問診するのは、むし歯の要因となる食生活に隠れたリスクがあると、むし歯の再発が懸念されるためです。

そのため、取りこぼしなく情報を拾えるよう、常に心がけています。

食生活アンケートの聞き取りをしている風景
食生活アンケートの聞き取りをしている風景

今回はそんな食生活の中にヒントが隠れていた症例をご紹介します。

2.Case② 朝食で糖を過剰摂取していた患者さん

2.Case② 朝食で糖を過剰摂取していた患者さん
実際の食生活アンケートの一部

この患者さんは、朝食を毎日きちんと召し上がる方です。

当時、来院された際に聞き取りした食事内容は、一週間の朝食は、ほとんどがパン。

それだけならまだよかったのですが、この方、パンを召し上がる時は砂糖とミルクたっぷりのカフェオレか、甘いジュースをかならず飲まれていました。しかも、パンの種類も甘い菓子パン。

これは朝からハードな朝食を摂られているなぁ、というのが私の心の中の声。

口腔内はかなりカリエスリスクが高い状態で、食事を改善しなければかなり厳しい状態でした。

私が注目したのは、アンケートの画像にもあるように、朝食におにぎりを食べる日があること!患者さんに確認すると、週1回程度おにぎりを食べているといいます。

そして、何より大事なのは、おにぎりの時の飲み物なんです!そう、この方、おにぎりの時はジュースではなくお茶を飲むんです!

そこで、患者さんへこう切り出しました。「Nさん、朝食のおにぎりの回数って増やせそうですか?パンと同じくらいおにぎりを仲間に入れてもらえたら嬉しいんですけど」

そうするとNさんは、「それくらいなら全然大丈夫です!おにぎり仲間に入れますね!」と可愛く返事してくださいました。

実は、これだけで1日の糖の摂取量が激減したんです。

結果、今この患者さんはパンとおにぎりの頻度が逆転し、朝食はおにぎりとお茶がほとんどです。

たまにはパンも召し上がられるそうですが、そのパンも甘い菓子パンではなく惣菜パンを選ぶようになり、パンを食べる時でもお茶を飲むようになりました。

歯科管理栄養士のいろは 第2回 立ちはだかる仕事の壁

人の体は、皆さんが普段口にする食べ物や飲み物でできています。普段の生活習慣や食生活を変えることは、とても大変そうに見えるかもしれません。

しかし、ちょっとしたヒントを見つけて伝えることで、患者さんが無理なく自主的に行動をしてくださるようになります。

そんなヒントの見つけ方を、今後も発信していければと思います。

歯科管理栄養士のいろは

第1回 予防歯科の必需品!?歯科管理栄養士の仕事とは?
第2回 立ちはだかる仕事の壁