人は物心ついたときからずっとルールに縛られている...いえ、守られているのではないでしょうか。
家族のルール、学校のルール、社会のルール。特に集団で社会生活を送る場合には「規律・秩序」を保つことが大切であり、そのために必須なのがルールです。
私がこれまで勤務してきたクリニックでも、さまざまなルールがありました。
診療、またはそれ以外の業務を円滑に行うためには役割分担が必要で、そしてその内容を詳細に決めておく必要があります。
これまでの経験上、クリニックの安定運営のためにはなくてはならないルールがいくつか存在すると考えています。
今回は以下の3つに焦点を当て、そのルールづくりや内容についてお伝えできればと思います。
② 円滑な診療を行う
③ スタッフの職場環境を維持する
① クリニックの理念を守るためのルール
ここでいう「理念」とは企業理念に当たるもので、それには院長先生の信念や考え方が充分に反映されています。
この理念は、クリニックの存在意義をあらわし、全スタッフが共有して、行動や意思決定の基準とすべきものです。
そもそも、勤務先のクリニックに「理念」がある方、またはそれを理解している方は、どれくらいいらっしゃるのでしょうか。
理念は、クリニックのキャッチフレーズです。これまでの経験上、理念がスタッフ間で共有され、浸透しているクリニックには、長く勤めているスタッフや長期間継続して通院してくださっている患者さんが存在することを実感しています。
つまり、理念の共有は、クリニック運営の安定には欠くことができないものの裏付けとなります。
その理念や心構えを示したものが「社訓」であり、これが「① クリニックの理念を守る」ためのルールです。このルールには、次のような意味合いがあると考えています。
- 診療や患者さん、スタッフ(同僚)に対する価値観の統一を図る
- 自立と自律を促す
- スタッフの存在意義と環境の良質化
そのため、このルールはスタッフ全員で相談し、考えてみるのも良いかもしれませんね。
その工程を経ることで理念への理解や浸透が深くなるでしょうし、率先して行動する意欲がわくきっかけになるかもしれません。
また、時代背景やスタッフの変動に合わせて定期的なブラッシュアップも必要かと思います。
② 円滑な診療を行うためのルール
円滑な診療を行うための役割分担は、多岐にわたります。処置に関することだけでなく、その処置を円滑に行うための準備や患者さん対応なども含めると、きりがありません。
しかし、それこそルールを決めないと、新人や気の利くスタッフなどが負担過多になりがちですし、気が付くと滞っている事柄が増え、診療や患者さんにまで影響がおよぶ事態に陥ってしまう恐れがあります。
スタッフが少人数であれば「全員でやる」というやり方も良いかと思います。しかし、ある程度のスタッフ数が確保されている場合は、上記の理由から、役割分担を明確にしておく必要があります。
ここで在籍スタッフ数15名の当医院の担務をご紹介させていただきます。
大岡歯科医院の担務一覧
歯科医師2名、歯科衛生士7名(うち非常勤1名)、歯科助手3名(うち非常勤1名)、受付3名(うち非常勤1名)
係 | 業務内容 | 担当人数 |
---|---|---|
運営 | 医院のシステムづくり(診療を行っていく上での、すべてを司る司令塔の役割) | 院長先生+3名 |
庶務 | 院内すべての事務業務を担当(印刷物管理、令状、年賀状、ユニフォームなど) | 3名 |
整理整頓 | 消毒室の見直し 院内を常にキレイに、清潔にしておくためのシステムづくり |
4名 |
インフォメーション | 広報業務。ブラックボード、掲示物、ホームページ、メールの管理と運営(インフォメーションは全員参加できるものにする) | 3名 |
イベント・年間スケジュール | 歓迎会や忘年会など催事の企画運営 冬季・夏季休暇を含む休診日の管理(年間スケジュール) |
3名 |
学術 | 定期的な勉強会の運営(内容・日程)毎月1回1時間 | 3名 |
新人教育 | 新入社員の対応・育成(新卒・既卒) 教育プログラムの作製 見学者の対応 |
3名 |
予防 | PMTC・CRT導入(増患のためのインフォメーションを考える) 説明資料の作製 |
3名 |
材料・器械 | 材料の管理 器械の不具合や故障時の対応 |
3名 |
技工物 | 院内すべての技工物の管理 技工所とのやり取り、対応 |
3名 |
朝・昼・終礼 | 各礼の内容と進行係を担当 スタッフ全員が参加できるものにする |
4名 |
各係には1名のリーダーが存在します。また、年に1回、業務の見直しを行い、その際に現状報告や成果、新たな取り組みについての発表を行います。
業務内容によっては係の担当者だけが行うのではなく、スタッフ全員で業務内容を遂行するためのシステムづくりを担っています。
表記した担務の中で、今回は「新人教育」の業務内容についてご紹介させていただきます。
新人教育においてはクリニックの理念を踏まえた上で、プログラムを作成する必要があるかと思います。
入社したての新人にいきなり患者さんを担当してもらうことはできませんよね。しかし、歯科衛生士であれば、「患者さんを担当すること」が、必ずや目標のひとつに挙げられるのではないでしょうか。
そのための心構えや対応、スキルなどについて、何を・どのように・いつまでにできるようになれば良いのかを含めて、詳細に明記しておく必要があります。
これは、指導するスタッフ、されるスタッフのお互いの感覚のズレや誤認を防ぐためにも、情報共有として重要です。
また、入社したてのスタッフにとっては、自分自身のことをそばで見守ってくれる存在がいるということは、どんなに心強いものかと思います。
私自身もはるか昔の新人の頃は、同期入社の仲間や教育担当者が、何度も心の支えになりました。
プログラムの作製には時間も労力もかかりますが、教育担当者はこの作業ををすること自体で成長できますし、これはクリニックの宝になると思います。
また、このプログラムの対象となる新人も大切な人財です。手間暇を惜しんではいけない業務だと考えています。
③ スタッフの職場環境を維持するためのルール
突然ですが、みなさんが勤務されているクリニックはキレイですか?
当たり前のことと思われるかもしれませんが、患者さんはキレイで清潔なクリニックを選び、来院されます。また、働くスタッフも同様に、キレイなクリニックで働きたいと思っているはずです。
これまでの私の経験では、キレイで清潔な環境は心の安定に繋がります。
また、整理整頓することでムダがなくなり、仕事の効率が格段に良くなるばかりではなく器具、器材を含む物品を大切に扱うようになります。
つまり、職場環境を整えるための日々の清掃や整理整頓、定期的な環境整備は、前述の①・② のために欠くことのできないものであり、とても価値のある時間の活用方法と考えています。
当医院では、その業務内容は表などに示し、誰が行ったか分かるようにチェックリストにしています。
これはいわゆる習わしのようなあやふやなものではなく、誰が行っても同じ成果を得られますし、業務としての確立や、新しいスタッフが入社した際にも役立ちます。
さて、これまでご紹介させていただきましたルールについて、どのようにお考えでしょうか?
ときに、ルールを拘束するものと捉え、守らないばかりかその存在さえも否定する方もいらっしゃるかと思います。
① でお話しさせていただきました「クリニックの理念」が確立されており、全スタッフの個々の意識が高く、常に自発的に自律した行動をとることができるのであれば、ルールは邪魔なものかもしれません。
しかし、それは現状とは、かなりの格差があるのではないでしょうか。
性格、考え方の違う者同士が働く職場環境には、規律や秩序が必要ですし、許容範囲内における個人(自由)が尊重されるべきですよね。
だからこそ、いわゆる習わしのような個人の感情や利益などを含み、かたよりがちなものには左右されてはいけません。
スタッフ全員にとって公平な基本原則が「ルール」であり、クリニックの安定運用を実施するために重要なものだと考えています。
チーフ歯科衛生士の流儀
series1.医院のルールづくり
part1.働きやすい職場環境について考える
part2.あったら良いな、こんなルール