昨今、口腔からの予防の大切さが唱えられ、歯科衛生士の役割も世の中に浸透してきたと感じるこの頃です。
しかし、“予防”と一言で表しても、私たち歯科衛生士がただひたすらにプラークを除去し、歯磨き指導を行い、マニュアル通りのPMTCをすることが、プロフェッショナルな予防ではありません。
今日はさまざまな角度からの“予防”について歯科衛生士に知っておくべき知識と知恵とhow toが詰め込まれた一冊『ライフステージに沿ったこれからの予防 実践book』をおすすめしたいと思います。
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この本の良さは、そのタイトルに集約されています。
早速、タイトルを噛み砕いて、内容とポイントを説明していきましょう。
Point1.「ライフステージに沿った」これからの予防 実践book
まずは“ライフステージに沿った” から。
ご存じのように、歯科医院には小児から高齢者まで、幅広い層の患者さんが来院されます。
本の冒頭では、「予防医学の3段階」という概念を歯科医学に当てはめて、イメージしやすく解説するところからはじまります。
第一次予防 | 健康増進 (公衆衛生的な指導) |
保健所などの各自治体で受動的にかかわるもの。公衆衛生活動、衛生指導、生活指導、食事指導、歯科健康診査など |
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特異的予防 (自発的行為) |
歯科医院などで自発的に受けるもの。定期健診、各種リスク検査、フッ化物塗布、プロフェッショナルケア、食事指導など | |
第二次予防 | 早期診断 (各種診査・検査) |
歯科検診(学校検診などのスクリーニング)、主訴や症状に合わせた各種精密検査 |
早期対処 (初期病巣の治療) |
歯質、および歯周組織に対して、最小限の侵襲に配慮した処置を行う(歯質の再石灰化処置や経過観察、デブライドメント、SPTなど) | |
障害の進行阻止 (病巣の進行阻止) |
歯質および歯周組織に対して、最小限の侵襲に配慮した処置を行う(充填、非抜歯、外科的侵襲最小処置、再生治療など) | |
第三次予防 | 機能回復 | 最小限の侵襲に配慮した欠損処置(1本義歯、接着ブリッジなど)。メインテナンスしやすい義歯、適合調整、定期管理のほかに、破損した修復物の修理など |
この本では、小児ステージを幼児期・学童期とし、成人期、高齢期の3つのパートに分類し、段階別の予防方法を解説してあります。
たとえば、小児にいたっては乳児、幼児、学童期、思春期と年代によって予防のアプローチ方法が違います。
歯の生えていない時期からの保護者への指導法や、年代別のフッ素の使用量などが写真やイラストで分かりやすく説明されており、小児患者が少ないクリニックで働いている筆者自身、とても役に立ったコーナーでした。
成人、高齢者のパートにおいても、臨床で使用している製品や、全身疾患との関連性などが書かれています。
個人的には「数値を読める歯科衛生士に」のコーナーが見どころです。
肥満度の分類や血糖コントロールの目標値などが分かりやすくまとめられているので、持病のある患者さんがこられる時には見直すようにしています。
さまざまな患者層に対しての指導法にもなりますが、一人の患者さんを長く担当する場合にも、ステージに沿った予防を伝えていかなければなりません。
Point2.ライフステージに沿った「これからの予防」実践book
次に“これからの予防”から読み取れること。歯科衛生士が行うことのできる“予防”とは、を考えさせられるワードです。
患者さんの中には、PMTCを予防の代名詞と捉えている方も少なくありません。
本書ではしっかりとセルフケアとプロケアの重要性と、それを患者さん自身に理解してもらうことの必要性が書かれてあります。
そして歯科衛生士が伝えられる予防には、こんなにも多くの知識があるのだということを学びます。
私自身が勉強になった、“これからの予防”についてのトピックをあげます。
小児
- 口腔育成
- 0歳からの予防として妊娠時期からの食事指導
- 離乳食を与える時のポイント
- 感染の窓(1歳6ヶ月〜3歳)までの注意点
- 乳歯と永久歯の交換期から完成期
- 歯齢で見る乳児の食事指導
成人期
- プロフェッショナルケアの秘訣
- 唾液検査・位相差顕微鏡の活用
- 適切なセルフケア習得のために
- 全身疾患と口腔衛生の関連
- 歯科予防と禁煙の重要性
- 数値を読める歯科衛生士に
- ライフスタイルに起因する酸蝕
高齢期
- 加齢に伴う心身機能の変化
- 加齢に伴う口腔の変化
- 口腔機能評価
- 口腔機能トレーニング
- 高齢期におけるセルフケアの重要性
- ドライマウスへの対応
- 歯根面のセルフケア
- 義歯のケア
- 自立高齢者のプロフェッショナルケア
- 要介護者の口腔ケア
- 多職種連携の重要性
ネタバレのようにトピックをあげてしまいましたが、書かれているすべてのトピックが重要で、凝縮されているのです。
Point3.ライフステージに沿ったこれからの予防「実践book」
最後に、“実践book”から学ぶこと。
この本でいちばん学べるポイントは、著者が各地で活躍されている現役のベテラン歯科衛生士さんたちであること。
そのため、実際に臨床や教育の現場で行っていることが詳細に書かれています。
たとえば実際に小児の患者さんに指導する時に使用されている器具や様子の写真、口腔育成のトレーニング方法のイラストが細かく掲載されています。
筆者自身も著書から学び、高齢者の口腔機能評価方法のオーラルディアドコキネシス(舌口唇運動機能評価)やRSST(反復唾液嚥下テスト)を取り入れ、口腔機能訓練を実践した結果、80歳の患者さんの口腔機能が回復した症例がありました。
今では中年期の患者さんにも、予防のためにトレーニングをお伝えしています。
臨床の現場だけでなく、医院が取り組まれている小学校への保健指導であったり、クリニックに通いやすくなるための工夫として紹介されているメディカルアロマの活用や、栄養指導、プラスの知識でサプリメントのトピックもあり、新しい発見となりました。
本の最後には、ベテランの歯科衛生士さんから全国の歯科衛生士の皆さんへのエールも書かれてあります。
私がいちばん感銘を受けた部分は、監著の深川さんが最後に“どう生き、どう逝きたいか”について書かれているところです。
私らしく生き、私らしく最後を迎えるということは、口腔の健康ありきのことではないでしょうか。
私たちはそのことを日々念頭に入れ、そして一人ひとりに伝えていかなければならないと感じ、メッセージ性の高いこの著書に出会えたことに感謝しました。
もしあなたが、勉強したいのに何からはじめていいか悩んでいるのなら、
後輩の歯科衛生士におすすめする本を探しているのであれば、
または、復帰したけれど自身の知識が時代に追いついていないと感じるのであれば、
実践書として、ぜひこちらの著書から手にとっていただきたいと思います。