感染管理アドバイザーの視点から 第3回 今こそ見直そう!クリニックの感染管理

こんにちは。L.clare(ラ・クレア)の高野と申します。

現在は歯科衛生士として歯科医院に勤務しながら、感染管理アドバイザーとしてセミナー講師や院内研修のお仕事をしています。

院内研修では、新規開業時の器具機材の準備や、消毒滅菌の正しい方法をお伝えしたり、昔からのやり方を改善したいなどといった、クリニックにおける感染管理の問題点を解決するお手伝いをしています。

この度、感染管理のことをメインにゆるりと連載をさせていただくことになりましたので、どうぞよろしくお願いいたします。

第3回目は、クリニックの感染管理についてです。

前回まではこちら

第1回 『洗浄・消毒』の種類を知っていますか?
第2回 口腔衛生指導の歯ブラシはどうしていますか?

感染管理アドバイザーの視点から 第3回 今こそ見直そう!クリニックの感染管理

今こそ見直そう!クリニックの感染管理

現在、新型コロナウィルスの国内感染の拡大を受け、全国のクリニックにおいては、さまざまな環境下で過ごしていらっしゃると思います。

一方で、クリニックの感染管理は、今回のコロナウィルスに関係なく、平常時から患者さんにも私たち歯科医療従事者にも、安全な環境で行わなければいけません。

歯科治療においても、スタンダードプリコーションの考えに基づき、すべての患者さんは何らかのキャリア(保菌者)とみなす必要があります。

本来であれば、グローブやマスク、フェイスガードなどの個人防護具を着用し、診療にあたるということは、以前より行われていなければなりません。

しかし、今回の新型コロナウィルスの蔓延をきっかけに、ご自分のいるクリニックの感染管理がきちんとできているかを、お考えになった方も多いのではないでしょうか。

それぞれの環境で今できることを考え、今一度、クリニックの感染管理を見直していきましょう!

新型コロナウィルス感染対策で設置したビニル。受付もグローブをしています
感染予防のため受付にビニルのシールドを設置し、グローブの装着を義務づけました

ブース別にみる感染管理対策

待合室

クリニックの待合室には素敵なインテリアがあり、患者さんが診療やお会計までの間に本を読んだり雑誌を見たり、お子さんがキッズコーナーのおもちゃで遊んだりと、本来であれば待ち時間を気にせずに過ごしていただくための大切な空間です。

しかし、感染防止対策を考慮する上では、複数の方が同時に過ごすスペースとして、共有に触れるものを極力減らす工夫を考えてみましょう。

  • 本、雑誌、キッズコーナーのおもちゃを撤収し、歯ブラシや歯磨剤などのリーフッレットはご希望の方にお渡しできるようにご案内する。
  • ソファや肘かけ、受付周囲の患者さんが触れるところを中心に、時間を決めて定期的に消毒(清拭)する。
おもちゃを撤収したキッズコーナー
おもちゃを撤収したキッズコーナー

当クリニックでは、患者さんが来院し診察券を受け取る際に、まず受付でアルコール性速乾手指消毒剤を用いて消毒をしていただいております。

また、新型コロナウイルスに感染すると、発熱が持続するという厚生労働省の発表に基づき、検温をお願いしております。

そして、1〜14日間の潜伏期間があることから、1時間おきにソファなどを消毒液で拭いています。

お手洗い

  • うがいスペースがある場合は、リステリン®︎など殺菌成分含有の含嗽剤を設置する。

歯科医療機関で新型コロナウィルス感染リスクを下げる上で効果な対応として、処置前の抗菌性洗口液によるガラガラうがいについての報告があります。

日常的に使われる抗菌性洗口液のエッセンシャルオイルのリステリン液®︎はエンベローブを有するインフルエンザウィルスを不活化させ、COVID-19にも有効と考えられる。しかし、抗菌性洗口液に含まれるグルコン酸クロルヘキシジン(CHX)と塩化セチルピリジウム(CPC)の短時間でのウィルス不活効果は低い。
引用:東京歯科大学名誉教授 奥田 克爾先生 

しかし、皆さんがかならず診療前にお手洗いに立ち寄るわけではないので、診療ユニットに座っていただいた時に、洗口液での含嗽を徹底すると良いと思います。

診療室

  • 診療中はグローブだけでなく、アイガードを装着する。
  • 口腔外バキュームがあるクリニックはかならず使用する。
  • 患者さんお一人の診察が終わったらユニット周り、アシスタント用キャビネットを清拭する。
  • 可能な限り換気を心がけ、換気ができない診療室の場合は、患者さんお一人ごとに除菌スプレーを用いて空間除菌を行う。

口腔外バキュームは、6〜10cmの距離がエアロゾルの吸引に効果を発揮します。そのため、可能な限り術野に近づけて使用しましょう。

ユニット周りやキャビネットは、スポルディングの分類を参考に、ノンクリティカルな場所から順に拭き進めると良いと思います。
(参照:洗浄・消毒・滅菌の基準『スポルディングの分類』って何?

虫歯治療と観血処置でも違ってくるかと思いますが、血液の飛散などを考慮して決めています。

レントゲン室

診療室同様、レントゲン撮影後は、患者さんの手が触れた部分を清拭し、空間除菌を行います。

その他にも、新型コロナウィルス感染対策としてこのような方法もあります。

  • スタッフの体調管理。出勤時、お昼休み、診療後に検温を行う。
  • 患者様の来院時に検温をしていただく。
    →37.5℃以上は診察をご遠慮していただく。
    →37.0℃以上37.5℃未満は、体調をヒアリングし検討する。
  • 新型コロナウィルス感染防止専用の問診票の記入を徹底する。
    →一つでも項目に当てはまる場合はヒアリングを行い、診察を遠慮していただき予約の変更、もしくは患者さんからのご連絡待ちとする。
新型コロナウィルス感染防止専用の問診票
新型コロナウィルス感染防止専用の問診票

限られた在庫を安全に使用するための工夫

国内で新型コロナウィルスの感染が判明した頃から、マスク、消毒液が入手困難になりました。

そして現在では、グローブやディスポーザブルエプロン、滅菌バッグなどの購入も個数制限を設けられたり、購入できたとしても入手時期が1、2ヶ月先になるなど、全国のクリニックで抱えている問題がさまざまあると思います。

もちろん院内の感染対策は基本とされる決まりがありますが、物資の供給が滞ってきた今は、感染対策上の理想形ではなくても、工夫しながら取り組んでいかなければならない場合もあるかと思います。

クリニックによって抱えている在庫には違いがあると思いますが、しばらくの間は問題なくとも、今後は確実に今よりも物資の供給が少なくなっていくことが予想されます。

今できる工夫として、当クリニックが行っていることをご紹介させていただきます。

マスク不足について

医療用サージカルマスクは、今までは午前1枚、午後1枚としていましたが、原則1日1枚としています。外科処置や、明らかに汚染物の飛散が確認できた場合は、随時交換しています。

お昼の休憩時に、マスクにも使用できる除菌スプレーを用いてマスクを除菌し、スタッフ専用フックにかけ、乾燥後に使用しています。

ディスポーザブルエプロン

消毒や経過観察など比較的に短時間で診察、エアロゾルの飛散がない処置を行う患者さんにはタオルで代用し、ディスポーザブルエプロンの使用枚数の節約をしています。

もちろんタオルは患者さんごとに交換しています。タオルでなくとも布エプロンでも良いと思います。患者さんには事前に口頭でご説明し、貼り紙でもご協力を要請しています。

今後、ディスポーザブルエプロンの入手の見通しが立たない場合は、布エプロンの購入を検討しています。

協力要請の張り紙
協力要請の張り紙

消毒用アルコール

新型コロナウィルスは70%消毒用アルコールで不活化するため、ユニットをはじめとする周辺環境に噴霧し、清拭することが望ましいとされています。

清拭には、メディコムジャパンのWIPE ANIOS®️ EXCELがおすすめです。

以前は消毒用アルコールを使用していましたが、口腔外科クリニックである当院はオペが多いため、観血処置に適した除菌効果の高いワイプを探しておりました。

数種類のワイプを試し、除菌シートの大きさ、消毒液の浸漬程度、拭き取りやすさを使い比べて、こちらに決めました。

無香料、無着色、アレルギー促進剤も含まず、アルコールフリーなので、器具の材質も選びません。

また、クロスの素材に100%生分解性のビスコースを使用しているため、環境に優しく使用できるところもおすすめです。

WIPE ANIOS®️ EXCEL
WIPE ANIOS®️ EXCEL

一時期よりも、少しずつではありますが消毒用アルコールも流通してきています。

消毒用アルコール製剤の他にも、次亜塩素酸系の希釈タイプの除菌剤、除菌ワイプやスプレーなど、さまざまな消毒剤が販売されています。

特に希釈タイプは、使用場所によって濃度の調整を行うことができるため便利です。ただし、希釈後の使用期限に注意し、必ず希釈ボトルに希釈日と使用期限日を記入しましょう。

グローブ

これがなくなってしまっては、患者さんの口腔内に触れることはできません。

そのため、朝や診療後の清掃は診療用のグローブではなくゴム手袋を使用するなど、診療時以外のグローブの使用を他のもので代用し、使用枚数を節約しています。

当院で使用しているゴム手袋は、Hu-Friedyのニトリルユーティリティグローブです。こちらはオートクレーブ滅菌が可能で、ニトリル性で耐久性も高いため重宝しております。

週に1回を目安に交換し、滅菌を行なっていますが、内部が汚染されたりした場合は随時、洗浄して滅菌に回しています。

可能であればゴム手袋も個人専用にして、複数人で同じものを使用しないようにしましょう。

ヒューフレディ ニトリルユーティリティグローブ
ニトリルユーティリティグローブ

新型コロナウィルスをはじめとする感染症は、残念ながら感染リスクをゼロにすることはできませんが、リスクを減らすことはできます。

皆さんの置かれている環境はさまざまだと思いますが、歯科医院が自粛対象にならない限り、私たちは患者さんと歯科医療スタッフの安全を守りながら診療をしていかなければなりません。

診療室の頻繁な消毒と、診療室を出入りする際の手指消毒、空間消毒を徹底し、1日でも早い収束を願って一緒に頑張りましょう。

歯科衛生士
感染管理アドバイザー
日本医療機器学会 第2種滅菌技士
JOAS 第二種歯科感染管理者
日本歯周病学会 会員
L.clare 代表 高野伸枝

感染管理アドバイザーの視点から

第1回 『洗浄・消毒』の種類を知っていますか?
第2回 口腔衛生指導の歯ブラシはどうしていますか?
第3回 今こそ見直そう!クリニックの感染管理