米国生活10年、ニューヨークを拠点に他3州で歯科衛生士として働いていました。そこで得たスキルや知識を母国日本で伝えていく中で、多くの日本の歯科衛生士さんとお会いしました。
そして、講演会や院内でのプライベート研修などでお話を伺うと、スキル以外でも悩みを抱えている歯科衛生士さんが多いことが明確になりました。
そんな悩みを少しでも解消できる場をつくりたい!“歯科衛生士”という職業を共に楽しみ、学び続けたい!と思い、2015年にTeam Grin’n国際歯科衛生士勉強会を発足しました。
この勉強会では、2年に1度、世界のどこかで現地の歯科衛生士と交流する海外研修を行っています。
発足して以来、3回目となる今回は、オーストラリアメルボルン郊外にあるLa Trobe 大学にて、3日間の研修を受けてきました。
今回は、Team Grin’n正規メンバーで、歯科衛生士として大阪で活躍されている、石垣恵以子さんのレポートを紹介させていただきたいと思います。
Team Grin’n オーストラリア研修レポート
これからはじまる研修に心躍らせながら、真冬の日本を飛び立ち、南半球のオーストラリアへ!
ちょうど全豪オープンテニスが真っ最中の中、Team Grin’n 3度目の旅がはじまりました。
今回は、メルボルンの都心部から2時間ほど電車に揺られて、郊外にあるLa Trobe 大学へ。大学の周りは自然が溢れ、カンガルーが目の前に現れてくれるようなステキな場所でした。
1年間、この日のために学んできた仲間と、憧れの大学にやってこれたことが嬉しく、ワクワク、キラキラした目で校舎を眺めました。
これからはじまる3日間のスタートが切られました!
大学内に入ると、「オーストラリアへようこそ!」と日本語で書かれたウエルカムボードでのお出迎えに、チーム全員が感激。この心温まる演出をしてくれたのが、Ron Knevel 教授です。
彼は、歯科衛生士としてオーストラリア、オランダの大学で講師を務めるほか、国内だけでなく、国際レベルで口腔衛生増進へ貢献。2010年には、ネパールにある口腔健康増進トレーニングセンターの設立に携わった方です。
1日目*講義
さあ、授業のはじまりです!!
まずはAnnamaria 先生によるGuided biofilm therapy 。歯石除去器具の歴史について学びました。
歯石を除去するための器具が最初に作られたのは13世紀頃。日本では鎌倉時代にあたりますね。この年代から歯石除去を行っていたことは驚きでした。
当時の器具は、現代のスケーラーやキュレットと形もずいぶん違っていて、中にはどこに使ったんだろう?と思えるような形のものもあり、とても貴重な資料を見ることができました。
さらに、私たちが臨床で使用している歯科材料がどのように歯面にダメージを与えているのかを、顕微鏡写真を使って分かりやすく学びました。
驚いたことに、RDA27と低い数値の研磨ペーストとラバーカップを使用したとしても、歯面には無数の傷がついていました。
現在行っている歯面研磨の器具や材料が歯面に及ぼす影響を目の当たりにし、今までの概念を見直す必要があると感じました。
次は、歯科衛生士のJade Wright 先生によるWhat is Special Needs Dentistry in Australia?です。
彼女は、身体的または知的障害、複雑な病歴などといった特別な条件のある患者さんに口腔ケアを行うには、どのような心構えやテクニックが必要かということを教えてくれました。
また、訪問診療に持っていくケアグッズの紹介や、感染予防についても、写真などで分かりやすく学びました。
「いちばん大切なことはテクニックばかりではなく、どんな方にも心を込めて接することです。」
と、彼女は最後にこのように話されました。素晴らしいプレゼンと彼女の優しさに、心が温かくなりました。
プレゼン後のディスカッションでは、訪問診療や介護に関する話題が多く出ました。
オーストラリアでは、まだ訪問診療がほとんど普及しておらず、日本のように一般的な歯科医院のスタッフが往診に行くことはないそうです。
そんな状況に対して、早くから解決に向かうように取り組んでいかなければと話されていました。
日本では1958年に国民健康保険法が制定され、61年より「誰でも」「どこでも」「いつでも」保険診療を受けられる体制が確立しましました。
今ではすべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支え合う「国民皆保険制度」に加えて「介護保険」も制定されています。
オーストラリアにも国民健康保険はあるのですが、歯科は適応外で、個人保険加入が必要になります。
そのため、自宅で口腔ケアを受けられる方が、とても少ないとのことです。保険制度は国によって大きく違うことを学びました。
2日目*プレゼン発表
2日目は、参加者によるプレゼン発表会です。今回のテーマは“介護”。私は、Team Grin’nを代表して、訪問歯科の現状について話しました。
超高齢社会の現実や日本が直面している問題。また、介護保険の仕組みや介護度によって受けられるサービスの違いなどを伝えました。
発表では、医療サービスの整っていない離島での訪問診療や、在宅で胃瘻や在宅中心静脈栄養法を行っている患者さんへの口腔ケアなどについて、映像をまじえて紹介。日本では歯科衛生士がとても深く訪問診療に関わることができることをお伝えしました。
また、他職種と連携し、歯科衛生士が活躍していることについても紹介。自宅で介護を続ける家族のために医師、歯科医師、歯科衛生士が最大限のサポートをして、その家族の願いを実現した時の映像なども見ていただきました。
今回もプレゼンはすべて英語で行いました。病気の説明などに使う難しい単語を克服しながら、1年かけてしっかりと準備をしました。
発表後、しっかり内容が伝わったことが感じられ、とても充実した気持ちになりました。頑張って良かった!
3日目*ワークショップ
あっという間の最終日。3日目は、Hanny Calache 先生によるワークショップ!今回は、新しいう蝕の処置法を学びました。
う蝕をエキスカベータなどを使って手作業で除去し、そこに酸処理後フッ素徐放性のあるセメントを詰めてしまうというART technique 。歯質を削る量が最小限に押さえられるため、訪問診療でも使えるテクニックでした。
また乳歯のう蝕処置法として、削らずフッ素徐放性のセメントで既成冠を被せてしまうというHall crown techniqueについても紹介。
どちらの処置も研究が進められていて予後が良いことから、オーストラリアでは臨床現場で取り入れられています。
ワークショップでは、レントゲンや口腔内写真を見ながら、この症例はどのテクニックを使う?なぜそう考えるの?と質問形式で進みとても楽しく学ぶことができました。
授業の進め方も、とても勉強になりました。
研修を終えて
今回改めて超高齢社会に対して、日本それからオーストラリアについて勉強することができました。
オーストラリアでは、2056年に超高齢社会が訪れるといわれています。まだ30年程ありますが、早くから問題に取り組んで他国から学ぼうとしている姿勢が素晴らしいと感じました。
その解決のヒントに、今回TeamGrin’n が行った発表が役に立てば、とても嬉しく思います!
また、オーストラリアでは2020年7月に法律が改正され、歯科衛生士が麻酔を打てるようになるとのことです。この大きな改正で、歯科衛生士の責任や地位がより高まると考えられます。
その変化に、オーストラリアの歯科衛生士がどのように対応していくのかも、今後追って学んでいければと思います。
このLa Trobe 大学で得たことは、私の歯科衛生士人生をまた素晴らしいものにしてくれました。
Team Grin’n が次にどんな世界に飛び込んでいくのか、楽しみでなりません!
歯科衛生士国際交流会 Team Grin’n
海外の情報を得るだけではなく、日本の歯科事情も海外に向けて発信している「歯科衛生士国際交流会 Team Grin’n」。
ここには、日本全国の学びたい歯科衛生士が集まり、定期的に勉強会を開催しています。
また、希望者には、研修前にプロの英会話講師から指導を受け、現地でしっかり英語を使って歯学を学べるようにトレーニングも行っています。
興味のある方は、ぜひ参加してみてください。Come and join us!
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