歯科のお仕事完全マニュアル 第11章 外科治療 STEP5 埋伏抜歯

顎の骨の中に歯が埋まっており、骨を削らないと抜けないような歯の抜歯を埋伏抜歯(まいふくばっし)といいます。埋伏歯は智歯(親知らず)に多くみられます。

外科治療 STEP5 埋伏抜歯

歯が半分骨に埋まっている半埋伏(はんまいふく)の状態になっている場合もあり、一般的に難易度が高いとされています。術後は、必要に応じて鎮痛剤や抗生物質を処方します。

STEP5では、埋伏抜歯を行う際に準備する器具や、治療の流れについて説明します。

第11章 外科治療

STEP1 注意点と切開・排膿
STEP2 抜歯の方法と器具
STEP3 P抜歯・普通抜歯
STEP4 残根抜歯
STEP5 埋伏抜歯
STEP6 歯根端切除術
STEP7 SP・抜糸

1.埋伏抜歯の準備

基本的に準備するもの

表面麻酔 + 浸潤麻酔
鉗子
鉗子
へーベル
へーベル
消毒用綿球(ヨードなど)
ガーゼ
メスホルダー(ブレード) + 替刃メス
メスホルダー(ブレード) + 替刃メス
剥離子(はくりし)
剥離子(はくりし)
外科用バキューム
外科用バキューム
縫合(ナート)セット
縫合(ナート)セット
生理食塩水 + シリンジセット
生理食塩水 + シリンジセット

④ 縫合(ナート)セットには、縫合針(ほうごうしん)・縫合糸(ほうごうし)持針器(じしんき)・抜糸鋏(ばっしせん)が含まれています。

必要に応じて準備するもの

ルートチップ
ルートチップ
5倍速 または タービン + ゼックリアバー
5倍速 または タービン + ゼックリアバー
ストレート + ストレート用バー(ラウンドバー・フィッシャーバーなど)
ストレート + ストレート用バー(ラウンドバー・フィッシャーバーなど)
破骨鉗子
破骨鉗子
外科用の口角鉤(こうかくこう)
外科用の口角鉤(こうかくこう)
止血剤

2.治療の流れとアシスタント

① 麻酔を行う

  • 小綿球に表面麻酔を適量塗布しておく
  • 注射を組み立てておく
  • 注射中にもれた麻酔薬をバキュームで吸う(術者による)

麻酔を行う

② フラップをあける

メスで歯肉を切開し、骨から剥離(はくり)させ、フラップをあけます。

  • メスホルダーに替刃をセットしておく
  • 剥離子を手渡す
  • フラップを外科用の口角鉤エキスカベーターでおさえる
  • 外科用バキュームで切開した部分の出血を吸い、術野が見えるように保つ

フラップをあける

③ 歯冠を露出させる

骨を削って穴をあけ、埋伏歯の歯冠を露出させます。

アシスタントスタッフは、ストレートラウンドバーなどをセットしておきます。ストレートを使用する時は、外科用から通常のバキュームに切り替えます。

歯冠を露出させる

④ 歯冠を切断し、取り出す

  • 5倍速にゼックリアバーをセットしておく
    ※ 5倍速使用時は、通常のバキュームに切り替える
  • 外科用の口角鉤やエキスカベーターでフラップをおさえる

歯冠を切断し、取り出す

⑤ 歯根を分割し、抜歯する

歯根を分割し、抜歯する

⑥ 鋭匙で肉芽を除去する

必要に応じて鋭匙で肉芽を除去します。アシスタントスタッフは、肉芽をガーゼで拭きとります。

鋭匙で肉芽を除去する

⑦ 生理食塩水で術野を洗う

抜歯窩を生理食塩水で洗浄します。アシスタントスタッフは、通常のバキュームで生理食塩水を吸います。

生理食塩水で術野を洗う

⑧ 歯肉を縫う

抜歯して露出した部分をおおうために、歯肉を縫います。

  • 術者が縫いやすいように、ミラーで術野が見えるようにする
  • 術者の指示に合わせ、縫合糸を結び目から3mm程度残して、抜糸鋏で糸を切断する
    ※ 歯肉を縫うことを、縫合(ほうごう)あるいはナートといいます

歯肉を縫う

⑤ ガーゼで止血する

圧迫止血(あっぱくしけつ)をするため、患者さんにガーゼをかんでもらいます。

ガーゼで止血する

⑩ 次回の予約をとる

止血できたことを確認し、終了します。SPまたは抜糸で次回の予約をとります。

3.抜歯治療中の注意

抜歯中は、患者さんの体調が急変して危険な状態になる可能性があります。その際は、一度治療を中断し、患者さんの状態が安定するのを待ちます。

意識が安定せず、重篤な状態と術者が判断した場合は、救急車を呼び、患者さんを病院に搬送する必要があります。

万が一、救急車での搬送などが必要になった際は、術者の指示に従い、落ち着いて救急車を手配するようにしましょう。

患者さんにも安心してもらえるように配慮することが求められます。

4.抜歯治療後の注意

下顎には、歯の根に近接して神経が走っています。下顎を走行する神経は下歯槽神経(かしそうしんけい) とよばれ、抜歯においてもっともトラブルが起こりやすい神経といわれています。

下歯槽神経
下歯槽神経の位置

とくに下顎の埋伏抜歯においては、下歯槽神経を傷つけてしまう可能性があります。その場合、患者さんは麻酔が切れた後もしびれた感覚が残るなどの症状が出ます。長期的な治療が必要になることもあるため、そのような症状が出た場合は、すぐに連絡をしてもらうように伝えておきましょう。

ほかにも、抜歯後の出血や抜歯後感染症(傷が化膿してしまうこと)、ドライソケット(うまく治らず骨が露出してしまうこと)などがあります。

患者さんにはこれらのリスクをすべて事前に説明しておくことが重要です。

***

抜歯をはじめとした小手術は、患者さんの肉体的負担だけでなく、精神的負担も大きな治療です。治療に際しては、その気持ちにぜひ寄り添ってあげましょう。

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患者さんとコミュニケーションをとる上で、ぜひ役立ててくださいね♪

第11章 外科治療

STEP1 注意点と切開・排膿
STEP2 抜歯の方法と器具
STEP3 P抜歯・普通抜歯
STEP4 残根抜歯
STEP5 埋伏抜歯
STEP6 歯根端切除術
STEP7 SP・抜糸