論文を活用できる歯科衛生士になろう! No.1 英語論文に対するハードルを低くする方法

みなさん、こんにちは。歯科衛生士の柏井伸子です。

新型コロナウイルス感染症が問題になりはじめて、早くも2年が経ちます。

この期間、各学会の学術大会やデンタルショーの開催は見送られ、私たちが新たな情報を得る手段は非常に制限されてしまいました。

ワクチン接種が進み、セミナーや講演会がやっとリアルで開催できるようになったかと思えば、新たな変異株の出現で、現在も先が見通せない状態になっています。

しかしながら、この2年の間にオンラインというツールが急速に普及しました。

今まで子育てや介護で積極的に学習する機会をもてなかった方や、開催地から離れた地域で生活している方にも「学び」の機会が豊富に用意されるようになりましたよね。

今回は、その学びの中でも拒否反応の強い「論文抄読」について、5回の連載を通して考えていこうと思います。

英語論文を読んでみよう!

専門誌を読んでいると、さまざまな論文が文中に登場したり、記事の最後に「参考文献」として紹介されている場合も多くありますよね。

日本歯周病学会が作成している『歯周病学用語集 第2版』では、「エビデンスベースドメディシン/エビデンスベースドデンティストリ―」について、以下のような説明があります*1

根拠に基づいた医療/歯科医療のこと。(中略)術者の経験や勘に頼らずに、過去に発表された論文など科学的な根拠に基づいて治療効果・副作用・予後などを評価し、治療方針の決定に役立てる。

私たち歯科衛生士が、少しでも患者さんたちの役に立てるような処置を心がけるためにも、世界中で行われている研究を自分の臨床に活かしていくことに、ぜひ積極的に取り組みたいものです。

歯周病学用語集 第2版
『歯周病学用語集 第2版』はこちら

一方で、日本語の論文であれば、かろうじて文字を追いかけることができても、英語論文となると途端にハードルが高くなり、腰が引けてしまう方もいるかもしれません。

私自身も自分なりの取り組み方やペースをつかむまでは、机の横にたくさんの本を「積読(つんどく)」していた時期もあります。

しかし、少しずつ工夫をすることで英語論文に対するハードルを低くすることができるようになりました。

論文抄読の準備に必要なことは?

私が英語論文に取り組みはじめたのは、1990年代前半でした。

1988年からオッセオインテグレーションタイプのインプラント治療に関わるようになったものの、アシスタント向けにはまだ日本語のテキストが1冊だけしかないという状況でした。

インプラント治療を希望する患者さんへの対応が増えてくると、おのずとわからないことや知りたいこともどんどん多くなり、テキストに引用されている論文を読んでみたい!と感じるようになりました。

そこで用意したのが、英語の医療用語を理解するための辞書。

筆者が実際に使用していた辞書
筆者が実際に使用していた辞書

しかし、「辞書をひく」という作業は、非常に時間がかかります。

当時は、忍耐力が試される作業のように感じていましたが、最近ではインターネット上の単語検索サイトを活用することで、非常に効率よく論文を読み進められるようになりました。

そこでおすすめしたいのが、自分用の作業机がある場合は、モニターを2台並べ、PDF形式でダウンロードした論文とインターネット上の英単語検索サイトを開いておくことです。

モニターが1台のみ、もしくはスマホを使用する際は、電子辞書があると便利です。

自分の興味がある論文を探してみよう!

では、いよいよ文献選びです。

今ではインターネットを活用することで、有料または無料で論文を入手することができます。

有料となると年間契約でかなり高額になるため、大学の図書館で閲覧すると良いでしょう。

また、最近では、学術団体が発行している学会誌は無料でダウンロードできるようになってきています。

まずは、自分の興味があるキーワードが英語でどのように表記するか調べ、それを3つくらい入力して検索するといろいろな論文のタイトルが表示されてきます。

キーワードが多いほど絞り込みができ、自分の希望に沿った論文を見つけることができます。その候補の中から無料でダウンロードできるものを選んでみましょう。

検索エンジンには、『Google Scholar( グーグル・スカラー )』という学術論文・学術誌・出版物を探すためにGoogleが無料で提供しているサービスや、『PubMed(パブメド)』、日本語で検索できる『CiNii(シニー)』などがあります。

これらのサイト上の検索バーに「PDF download」と入力すると、全文をダウンロードできる論文を見つけることができます。

まずは論文の成り立ちを見てみる

今回は、筆者が関心をもつ「歯周病原菌と全身の関連」について検索した論文をご紹介します。

まずは、日本の歯科医師 菊谷武先生による『Effect of oral care on cognitive function in patients with dementia(認知症患者の認知機能に対する口腔ケアの効果)』です。

一般的な論文は、おもに以下の5つの項目によって構成されています。

  1. Background(研究の背景)
  2. Objective(研究目的)
  3. Material & Method(研究方法と使用する材料)
  4. Result(結果)
  5. Conclusions(考察)

しかし、今回紹介する論文は、専門誌の編集者に向けて読者が投稿する「LETTER」という形式で投稿されたものです。

2ページというボリュームなので、初心者でも取りかかりやすいのではないかと思います。

また、菊谷先生は、他にも『口腔機能 舌の評価とサルコペニア』や『口腔機能の維持向上と食事のケアのポイント』といった、日本語の論文も多数発表しています。

まずは日本語の論文を読んで理解を深めてから、英語論文に取り組むと理解しやすいかもしれません。

***

論文を自分のものにする」ということについて、Judith Garrrardは以下のように唱えています*2

一連の知識がどのように発展したのか、それが現在どういったことを包含しているのか、そして何がまだ調査されていないかについて熟知しているということである

ぜひ、自分の中の固く閉ざされた扉を開き、新たな知識を身につけていきましょう。

次回からは菊谷先生の論文を日本語に置き換えながら、日常の臨床業務に活かす方法について考えていきます。お楽しみに!

参考文献:
*1 特定非営利活動法人日本歯周病学会(2016)『歯周病学用語集 第2版』医歯薬出版株式会社
*2
Judith Garrrard著、安部陽子訳(2020)『看護研究のための文献レビュー マトリックス方式』医学書院