歯科衛生士向けおすすめ論文 No.18「スケーリング後の補綴物にバイオフィルムはつきやすくなる?」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

歯科衛生士向けおすすめ論文

スケーリング後の補綴物の表面粗さについて調べた論文

今回解説するのはこちらの論文です。

スケーリング後の金属およびセラミック補綴物の表面粗さとS.mutans の付着
『Materials』

この研究は、スイスのチューリッヒ大学とフィンランドのオウル大学、ヘルシンキ大学病院が共同で行ったもの。

補綴物に使用されるさまざまな材料に対してスケーリング操作を行った後、材料の表面粗さとS.mutans の付着しやすさの変化があったかどうかについて、比較しています。

どんな方法で調べている?

この研究では、一般的に歯冠補綴物やインプラントのアバットメントとして使用されている、以下の5種類の材料を使用しました。

  1. ジルコニア
  2. プレス加工したセラミック
  3. 陶材を焼きつけたセラミック
  4. チタン
  5. コバルトクロム

まずは、5種類の材料を厚さ3mmで1cm四方の正方形に加工し、計30個の標本を用意。

すべての標本に徹底的な研磨を行った後、3つのグループに標本を10個ずつ分け、それぞれの操作を行いました。

  1. 研磨したまま
  2. ステンレス製のキュレット(LMキュレット®︎)で表面を粗面化
  3. 超音波スケーラー(EMS Piezon250®︎)で表面を粗面化

キュレットグループでは、5個の標本で操作が終わった後、新しいキュレットに交換。超音波スケーラーグループでは、標本1個ごとにチップを交換して操作を行いました。

超音波スケーラー

キュレットと超音波スケーラーの操作後は、すべての標本を蒸留水中で15分間超音波洗浄。

そして各標本の表面粗さを計測した後、各グループにつき9個の標本を、S.mutans が含まれた唾液に浸漬し、細菌の付着状況を確認。

残り1個の標本は唾液に浸漬した後、バイオフィルムの形成を促すために24時間培養しました。

スケーリングでもっとも傷つく材料はチタン!

今回の研究結果によると、キュレットおよび超音波スケーラーで操作した後の表面粗さは、陶材を焼きつけたセラミックとチタン、コバルトクロムで有意に高くなりました。

中でもチタンは、キュレット操作後に表面粗さが大きく増加することが判明。

また、S.mutans の付着は、陶材を焼きつけたセラミックがいちばん少なく、ジルコニアとの間に有意差がみられるという結果に。

しかし、バイオフィルムの形成については、材料間で有意差がみられませんでした。

* 有意という言葉については、前回の記事で説明しています。こちらをご覧ください!
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」

この研究に対する考察

今回の研究では、スケーリング操作によって3種類の材料表面が有意に粗くなることがわかりました。

一方で、表面粗さはバイオフィルムの形成には関連しておらず、S.mutans の付着についても限られた材料間での有意差しかみられませんでした。

これは、細菌の付着に対して、表面粗さがおよぼす影響は少なく、それよりも材料自体の特性の方が大きな影響を与えるのではないかといわれています。

だからといって、もちろん補綴物やアバットメント表面をいくら傷つけても良いわけではありません。

メインテナンスの度にスケーリングを行い、そういったメインテナンスを何十年も続けた場合、微小な傷で済まなくなることは誰もが想像できると思います。

今回の研究結果をふまえると、アバットメントやスクリューにチタンを使用しているインプラントの場合はとくに注意が必要です!

インプラントに対しては、必ずインプラント専用のキュレットやチップを使用してスケーリングするようにしましょう。

チタンインプラント

また、口腔内にはS.mutans 以外にもたくさんの細菌が潜んでいますが、その他の細菌の付着についてはこの研究で明らかになっていません

あくまでもインプラントはう蝕に罹患しないため、P.gingivalis などの歯周病菌だと付着しやすくなるのか、バイオフィルムが形成されやすくなるのかといったことも、今後解明されることを期待します!

***

毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。

参考文献:Jenni H, Sampo R, Johanna K, Paula P, Anna K, Mutlu Ö, Juho S, Justus R.(2021)「Surface Roughness and Streptococcus mutans Adhesion on Metallic and Ceramic Fixed Prosthodontic Materials after Scaling」『Materials』2021 Feb 22;14(4):1027.

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