みなさまこんにちは、柏井伸子です。
本シリーズ最終回では、患者さん目線でメインテナンスを考えてみましょう。
前回はこちら
第1回 ツールの選び方
第2回 ツールのお手入れの重要性
第3回 実践!ツールのお手入れ
第4回 データの活用法
そのためには、まず患者さんたちを客観的に分類し、それに応じた対処法を組み立てるようにしています。その際におススメするのが「マトリックス・データ解析法」です。
これは、事実を知るための手がかりとなるデータの活用法で、患者さんとの会話や文章などから得られる「言語データ」を活用することで、歯周検査で得られる「数値データ」を具体化することができます*1。
PPDやBOPによるGI(Gingival Index)、プラーク染め出しによるPCR(Plaque Control Record)などは測定された結果のデータであり、現状を客観的に評価することができます。
これらとアセスメントによる聞き取り情報を併用することで、患者さんそれぞれの個性を認め、その時々で少しでも健康維持につなげる指導を組み立てることができるのです。
1.年齢と時間制約を基準に考える
では、まず患者さんの対処方法について、年齢と治療にかかる時間を基準に考えてみましょう。
みなさまの勤務先は、住宅地にありますか?それともビジネス街ですか?
ビジネス街であれば、年齢層はある程度限定されますが、住宅地であれば乳幼児から高齢者まで幅広くなりますね。
同じビジネスマンでも、営業職で外勤が多いのか事務系で内勤なのかによってもアポイントの取り方が変わります。反対に高齢者であっても、デイサービス終了後の夕方を希望されることもありますよね。
また、1回の来院時の滞在時間を長くしても回数を減らしたいのか、短時間で少しずつ治療してほしいのかについても、希望を確認しましょう。
誰しも治療回数は少ないに越したことはありませんが、仕事や家事の合間に治療にきているなど、長時間の滞在がむずかしい場合があるかもしれません。
2.処置内容と本人希望を基準に考える
では次に、処置内容と費用などの本人希望について考えてみましょう。
幸か不幸か、日本には国民皆保険制度があり、健康保険制度により一定の医療水準が保証されています。
しかしながら歯科治療においては、時間・内容・材料などに制約があるため、患者さんがどの程度の処置を希望され、どの程度の費用負担が可能かを考慮した上で治療計画を立案する必要があります。
患者さんによっては、「今は時間がないけれど、あと半年後には大きなプロジェクトが終了するので通院しやすくなる」とか、「今は金銭的に余裕がないけれど、1年後には定期預金が満期になる」というような事情をお持ちの方もいらっしゃいます。
各種の制約の中で、目の前の患者さんにとって何が最適なのかを考え、医療従事者として提案していく必要があります。
歯周病インプラント周囲疾患を有する患者さんに対してメインテナンスを担当する歯科衛生士としては、1回1時間のメインテナンスを1年間に4回実施したいと考えます。
しかし、患者さんによっては難しい場合もあり、「来院回数を増やして1回の処置時間を短くし保険適用で対応」しなければならないこともあるかもしれません。
主訴以外の処置時間が確保できる場合には予防処置に入ります。
費用負担の許容範囲により、歯面研磨だけなのか(写真左)、微粒子のパウダーを用いて歯肉縁上・下のバイオフィルムを破壊するエアーアブレージョンまで行うかという選択も出てきます。
しかしながら口腔衛生に対する意識付けを忘れず、セルフケアの重要性について啓発していくことには変わりありません。
3.まとめ
みなさまの施設でご使用の問診表には、次のような問いかけを設けていらっしゃるかもしれません。
- 「希望部位だけを治療する」/「必要な部位は全て治療する」/「治療後に予防処置まで希望する」
- 治療費は「保険の範囲内」/「保険以外でも支払い可」
問診票は、全身疾患の既往歴や現病歴などを確認できるとともに、なかなか口頭で尋ねにくい事柄も書面で確認できるという利点があります。
歯科衛生士もさまざまな問題・疑問・ジレンマを抱えていますが、材料や器材を使わなくてもできるのが口腔衛生指導です。
写真やデータのチャートなどを活用し、適切なセルフケアのもたらす改善や維持について説明しましょう。
次の画像はインプラント周囲粘膜炎の発症時(左)と2年経過時(右)の写真です。発症時に出血していた箇所が、2年後に改善されていることがわかります。データを活用することで、患者さんのモチベーションを高めることができます。
指導ひとつとっても、数値に関心があればGIやPCRの説明をする、視覚的にインパクトを感じるのであれば口腔内写真を見せるなど、患者さんを納得させる方法はさまざまです。
会話の中から個々の特性に合わせたポイントを見つけて対応することで、長期的な信頼関係を構築し維持することにつなげていきましょう。
これまでご覧いただき、ありがとうございました。
ぜひ前向きに進んでいきましょう!
参考文献:
*1 今里健一郎(2008年)『新QC七つの道具の使い方がよ~くわかる本』秀和システム.
患者さんを納得させるメインテナンスのコツ
第1回 ツールの選び方
第2回 ツールのお手入れの重要性
第3回 実践!ツールのお手入れ
第4回 データの活用法
第5回 関心度別の患者指導