患者さんを納得させるメインテナンスのコツ 第4回 データの活用法

みなさまこんにちは、柏井伸子です。

これまでの連載では、ツールの選択やシャープニングなどの予防処置のベースになる部分についてご紹介しました。

前回はこちら

第1回 ツールの選び方
第2回 ツールのお手入れの重要性
第3回 実践!ツールのお手入れ

これらを実践して歯周治療に取り組み、セルフケアとプロケアの両輪がかみ合うことで、病状安定にまでたどり着き、メインテナンスに移行することができます。

1.歯周病と歯科衛生士による介入

歯周病は病原細菌による感染症であり、細菌感染に対する反応として炎症性サイトカインが放出され、マクロファージが集まることで骨吸収が起こります。
(参照:全身疾患とDHワーク 第1回 歯周病の病因論と全身疾患のかかわり

また、歯周病原細菌の一種であるP.g菌の外膜には、リポ多糖という内毒素が存在しており、その毒素が炎症を増悪させ、ジンジバインという酵素を産生します。

それによって、白血球の一種である好中球が細胞膜を傷害し、血液凝固作用を阻害することで持続的な出血を引き起こします*1

適切なプロケアに加え、患者さん自身が納得してセルフケアに取り組むことにより、継続的に健康状態を維持していくことができれば、メインテナンス業務は歯科衛生士として達成感を得ることができる業務となるはずです。

そのためには、患者さんの状態を的確に診査・検査して治療計画を立案し、それぞれの状態に合わせてアレンジを加えながら介入していくことが重要となります。

2.歯周病の検査項目

みなさまは日常業務において、どのような歯周検査を実施されていますか?

日本歯周病学会作成の各種指針には、この点についても解説がなされています*2,*3

2008年に出された「検査・診断・治療計画」に特化した指針では、歯周病の病態診断において特に重要なものとして、次の3つが挙げられており、さらに細部にわたる検査が示されています。

  1. 細菌感染・炎症
  2. 組織破壊
  3. 咬合とリスクファクター
細菌感染・炎症 プラークの付着状況、歯周病原細菌検査、歯周病原細菌に対する抗体価検査、プロービング時の出血、口腔内写真撮影
組織破壊 プロービングポケットデプス、アタッチメントレベル、歯槽骨吸収度、根分岐部病変
咬合とリスクファクター 歯の動揺度、早期接触、ブラキシズム、喫煙・ストレス、歯周病に関連した全身疾患

歯周病の検査

また、2015年の歯周治療全般にわたる指針においては、歯周組織検査、細菌学的検査、その他の検査に加え、心理・社会・行動面のアセスメントについても、評価方法の一つとして解説されています。

歯周組織検査 歯肉の炎症、歯周ポケット深さ、アタッチメントレベル、口腔衛生状態、歯の動揺度、エックス線写真、咬合、根分岐部病変、プラークリテンションファクター、口腔内写真、スタディモデル
細菌学的検査 細菌検査、血清の細菌抗体価検査
その他の検査 歯肉溝滲出液の検査、唾液の検査、血液検査
心理・社会・行動面のアセスメント 口腔関連のQOLなど

治療計画立案・修正・メインテナンスのための検査

さらに最近では、ステージとグレードによる歯周炎の分類が用いられるようになっています*4

同学会が掲げた新分類によると、グレードにおける修飾因子のリスクファクター(危険因子)として、1日あたり10本を基準とする喫煙と、HbA1c 7.0%を基準とする糖尿病が盛り込まれており、患者さんの生活習慣の把握が重要となっています。

歯周炎の新分類/ステージ分類(出典:『歯周病の新分類への対応 』を元に編集)
歯周炎の新分類/ステージ分類(出典:『歯周病の新分類への対応 』を元に編集)
歯周炎の新分類/グレード分類(出典:『歯周病の新分類への対応 』を元に編集)
歯周炎の新分類/グレード分類(出典:『歯周病の新分類への対応 』を元に編集)

3.検査の実際

では、いくつかの項目について具体的に考えてみましょう。

プロービングによるBOP(Bleeding on Probing)PPD(Probing Pocket Depth)のデータ採取は、病態確認のために行います。

ポケット内部に感染への反応である炎症が生じていないか、粘膜面が潰瘍状態になっているか否かを6点法でチェックをします。

ウォーキングプロービングによる6点法計測
ウォーキングプロービングによる6点法計測

対象歯に、歯肉退縮による根面露出がある際には、根面に傷をつけないよう先端に直径0.5mmのボールが付いているWHO型プローブを使用します。

歯根露出した歯へのプロービング
歯根露出した歯へのプロービング

また、根分岐部病変が認められる際には、先端が曲がっているファーケーションプローブを使用して、病変の進行度を確認します。

根分岐部のチェック
根分岐部のチェック

骨吸収の状態を把握するには、口腔内写真やパノラマ・デンタル・CTなどのエックス線写真を活用します。

写真のように、口腔内写真やパノラマでは大きな異常が見られない場合であっても、デンタルを見ると骨吸収が進行していることが明らかになることがあります。

口腔内写真やエックス線写真の活用
口腔内写真やエックス線写真の活用

さらに細菌検査として、レッドコンプレックスのP.g菌に特化したPCR(Polymerase Chain Reactionポリメラーゼ連鎖反応)検査があります。

筆者が使用しているPCR検査ツールは45分間で結果が判明し、細菌数が数値で表示されます。

処置前に検体をサンプリングすれば、その後プロービングなどの診査やデブライドメントを行っている間に検査が完了するため、最後のカウンセリング時には、その結果をもとに指導につなげることができます。

P.g.菌検出装置オルコア
P.g菌検出装置オルコア

また、全身状態の把握には健康診断の結果を持参いただき、血液や尿による臨床検査のデータを活用します。

全身状態を把握することで、歯周病とのかかわりを指導するだけでなく、患者さんの生活習慣病を予防することにもつながります。

患者さんのモチベーションを維持する方法として、BOPの有無やPPD、さらに細菌検査などのデータを活用することで、より具体的な改善点を明確化し、努力目標を設定することが可能となるのです。

参考文献:
*1 梅本俊夫他編(2006年)『口腔微生物学-感染と免疫-』学建書院.
*2 日本歯周病学会編(2008年)『歯周病の検査・診断・治療計画の指針2008』医歯薬出版.
*3 日本歯周病学会編(2015年)『歯周治療の指針2015』医歯薬出版.
*4 日本歯周病学会(2019年)『歯周病の新分類への対応』

患者さんを納得させるメインテナンスのコツ

第1回 ツールの選び方
第2回 ツールのお手入れの重要性
第3回 実践!ツールのお手入れ
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