みなさまこんにちは、柏井伸子です。
「〇〇様、こんにちは。本日、お口のお手入れを担当させていただきます歯科衛生士の柏井伸子と申します。」というところから、患者さん対応がはじまります。
筆者は日頃から、決して「衛生士」と言わず「歯科衛生士」と表現することを心がけています。
患者さんから信頼していただく歯科の専門家であれと考えているからです。
この連載では、患者さんに信頼していただくための対応について考えていきます。
第2回・第3回は、ツールのお手入れについてです。
1.ツールのお手入れの重要性
もしも自分が患者さんになるなら、待合室からユニットに誘導され、さらに水平位になってライトがつくと、ドキドキもピークになりますね。
では、なぜドキドキするのでしょうか?
前回もご紹介した伊藤誠二著『痛覚のふしぎ』によると、過去の記憶や何が起きるか分からない不安などにより、日常と異なる状況下では痛みを感じやすくなるといいます。
(参照:伊藤誠二(2017年)『痛覚のふしぎ 脳で感知する痛みのメカニズム』講談社.)
そして、触られている感覚(触刺激)や圧されている感覚(圧刺激)によっても、痛みが引き起こされます。
ユニット上の患者さんに「大丈夫ですか?」と尋ねても、非日常のことが起きているわけですから大丈夫なはずがありません。
しかし、少しでも身体から力を抜いて、口の周りへの意識集中を軽くできれば、痛みの感じ方の「閾値」を低減することができます。
そのためにも、何の声がけもなくユニットを動かしたり、エアーを歯面に吹き付けたり、ミラーで強引に頬粘膜や舌を排除したりというような行為は避けましょう。
さらに圧される感覚を感じさせないために、スケーラーやキュレットで強い側方圧をかけないようにします。
それが痛みとして認識されてしまうかもしれず、ひいては「この歯科衛生士さん、下手だなぁ。」と思われる原因となり、信頼関係を構築しにくくなってしまいます。
過剰な力で歯面を擦り過ぎるオーバートリートメントも避けるため、スリップして患者さんの歯肉・口唇・頬粘膜や自分自身の手指に損傷を与えないためにも、ツールを適切にお手入れし、患者さんも施術者も安心して安全に処置ができるように心がけることが重要です。
2.シャープニング用のツール選択
皆様にとって、もっとも重要なシャープニングツールは何でしょうか?ストーンですか、オイルですか。
著者はテストスティック(以下、スティック)だと考えています。
もちろんストーンもお気に入りを探し、今は形態修正と仕上げの両方ができるセラミック製のものを使っています。
まず器材の準備ですが、ストーンとスティックを一緒の滅菌バッグに入れて滅菌しておきます。
滅菌されているキュレットやスケーラーを患者さんの口腔内に入れる前に、清潔なスティックでシャープさをチェックします。
そして、シャープさが足りない「ダル」な状態であれば、同封しているストーンでシャープニングしてから使用します。
そのまま終日、ストーンとスティックは滅菌バッグの中で保管し、患者さんが変わるたびに使用前にシャープさをチェックしてから施術に用いるようにします。
キュレットやスケーラーは消耗品であるため、過度に研ぎすぎても無駄になってしまいます。
そのため、常にシャープさをチェックし、切れ味がよく不快感を与えないようなインスツルメンテーションを心がけています。
3.シャープニングにとりかかる前に
では、多くの歯科衛生士さんの悩みの種となっている、キュレットのシャープニングについて考えてみましょう。
「キュレットを拝見できますか?」とお尋ねすると、ほとんどの方が「形が変わってしまって、恥ずかしいです…。」とおっしゃいます。
見せていただくと、確かに「これって、キュレット?」と思うくらい、先端が三角に尖っています。「おぉ~、キュレットからスケーラーを作っちゃいましたねぇ。」なんて笑い話では済まされない状況です。
シャープニングが苦手→シャープニングする間隔があいてしまう→かなり切れなくなってから力を入れてストーンでこする→手首を内側に回転しながら上下運動してしまう→先端ほど尖ってくる…
という、負のスパイラルに陥ってはいませんか?
上手にシャープニングするコツは、非常に単純です。以下の3つのポイントをおさえましょう。
- スティックを活用する
- こまめに実施する
- 自分を知る
① スティックを活用する
まず、スティックの活用です。
お伝えしたように筆者は施術前にはかならずシャープさをテストし、少しでもダルになっていると、ストーンにあてて2~3ストローク上下してシャープニングを終わらせます。
もちろん、ストローク後には再度スティックで確認してから、口腔内に使用します。
② こまめに実施する
次にシャープニングのタイミングは、間隔を開けずこまめに行います。
すると、一度に何回も何回もストロークする必要がなく、金属の削り過ぎを防止できます。
③ 自分を知る
さらに、シャープニングを上達させるには、自分を知り弱点を正視することが重要です。
「苦手なんです。」と言い切るのではなく、苦手であれば、「なぜ苦手で、どうすれば克服できるのか」という解決策を模索しましょう。
もちろん、器具の形態の理解も重要です。
歯科衛生士養成機関で全員が器具の特徴を理解しているはずですから、シャープニングのたびにそのイメージを思い出すようにしましょう。
次回は、実際にストーンとスティックを活用したシャープニングの方法をお伝えします。
ストーンやスティックを持つことが楽しみになるようなシャープニングのお話をさせていただきますね。
患者さんを納得させるメインテナンスのコツ
第1回 ツールの選び方
第2回 ツールのお手入れの重要性