患者さんを納得させるメインテナンスのコツ 第1回 ツールの選び方

みなさまこんにちは、柏井伸子です。

「〇〇様、こんにちは。本日、お口のお手入れを担当させていただきます歯科衛生士の柏井伸子と申します。」というところから、患者さん対応がはじまります。

筆者は日頃から、決して「衛生士」と言わず「歯科衛生士」と表現することを心がけています。

患者さんから信頼していただく歯科の専門家であれと考えているからです。

今回から4回にわたり、患者さんに信頼していただくための対応について考えていきます。

初回は、「患者さんファースト」のツールの選び方についてです。

「弘法、筆を選ばず」と言われるように、「その道のプロであれば道具を選ばない」とされていますが、私たちが患者さんに使用する器材の選択においてはいかがでしょうか?

みなさまは、どのような選択基準をもっていますか?

1.ツール選択時の基本事項

歯科衛生士養成機関の3年間で、私たちはさまざまな知識や技術を学び習得します。

当時実習用に購入したスケーラーやキュレットを、今でも保管されていらっしゃる方もいるかもしれません。

筆者も卒後40年が経過しましたが、今でも当時購入したツールカセットを自宅の書棚の中に入れてあります。

学生時代のツールカセット
筆者学生時代のツールカセット

当時は、まだキュレットや超音波スケーラーを歯科衛生士が使う機器ということが周知されておらず、国家試験問題の中に鎌型スケーラーの実技試験がありました。

その対策として、鎌型スケーラーの習得が重要で、臨床実習では下顎前歯部の舌側を板のように覆っている歯肉縁上歯石をひたすら除石する毎日でした。

幸か不幸か現在では、歯科衛生士さんが使用するツールも、ブレードの形状のみならず、把持部の形態・サイズ・材質など、さまざまな組み合わせのツールを選択することが可能となっています。

さまざまな形態や材質のインスツルメント類
さまざまな形態や材質のインスツルメント類

選択基準の基本事項ですが、処置内容として「診査」か「SRP(Scaling & Root Plaining)」かによって、適したツールは異なります。

診査であれば、プローブもエキスプローラーも、「基本診査」か「精密診査」かによって使用する器具が異なります。

基本診査用(左)と精密診査用(右)のプローブ
基本診査用(左)と精密診査用(右)のプローブ
汎用(左)と精密診査用(右)エキスプローラー
汎用(左)と精密診査用(右)エキスプローラー

また、SRPであれば、施術部位や沈着物の量・硬さの状態を考慮して、ツールを選択する必要があります。

ミニブレード(左)とレギュラー(右)のブレード長さの違い
ミニブレード(左)とレギュラー(右)のブレード長さの違い

2.できるだけ患者さんのストレスを取り除くポイント

では、前述の基本事項を踏まえた上で、臨床において必要なことは何でしょうか?

学生実習とは異なり、私たちが対応するのは痛みやつらさを感じる患者さんたちであり、可能なかぎり過剰な侵襲を避けなければなりません。

特に、大きな圧力でプローブを挿入したり、過分にセメント質を削除してしまったりというような「オーバートリートメント」は回避しなければいけません。

筆者はそのための選択基準として、患者さんの痛みに対する閾値を考えるようにしています。つまり、「痛がり屋さん」か否かということです。

おそらく、みなさまの患者さんにも、触れただけで痛そうな「しかめっ面」をなさったり、ビクッと身体を動かしたりという方がいらっしゃるのではないでしょうか?

もちろん、痛みの感じ方には過去の経験に基づく不安や恐怖心が大きく影響しますし、施術者との信頼関係とも関連してきます。

痛みの種類には、熱いものに触った時に反射的に手を引っ込めるという「感覚的な側面」と、不安・恐怖・過去の記憶等の影響を受ける「情動・感情的な側面」があるといわれています。
(参照:伊藤誠二(2017年)『痛覚のふしぎ 脳で感知する痛みのメカニズム』講談社.

さらに触刺激・圧刺激・温刺激・冷刺激という「体性感覚」によっても痛みを感じます。

そこで注意したいのは、患者さんに必要以上のストレスを与えないこと。

頬粘膜を排除する際にミラーを過剰に圧しつけたり、診査・SRP時の固定を取る際、滅菌直後でまだ熱さが残っているインスツルメントを使用したりということのないようにしましょう。

3.患者さんの立場でツール選択を行う

漠然とした質問かもしれませんが、みなさまが担当なさる患者さんたちの歯肉やインプラント周囲粘膜には、どのような特徴がありますか?

筆者がスウェーデンやイタリアで接していた患者さんたちの軟組織は、日本人と比較すると非常に弾力があり、角化状態も顕著だったように感じます。

特に歯周治療がひと段落して、炎症状態が改善されて腫脹がひいてくると、付着がタイトな状態になります。

そのような際に、ブレードのついているスケーラーやキュレットを使用する場合には、できる限り過剰なダメージを生じさせないために、ブレードの短いツールを選択するようにしています。

ブレード部分がレギュラーサイズ(左)とミニサイズ(右)のキュレット
ブレード部分がレギュラーサイズ(左)とミニサイズ(右)のキュレット

ツール選択においては、自分で使いやすいだけでなく、患者さんの立場での考慮も忘れないようにしたいものです。