みなさまこんにちは、柏井伸子です。
本シリーズでは、全身疾患と口腔領域との関連性について考えています。
口腔も全身の中の一器官であると考えると、一生懸命にプラークコントロールを続けているにもかかわらず、状態が改善されない患者さんには、多角的アプローチが必要です。
今回は口腔領域への高血圧症の影響と予防業務についてお伝えいたします。
第3回 口腔領域への高血圧症の影響と予防業務
みなさまの施設を訪れる患者さんは、何歳くらいの方が多いのでしょうか?
日本社会の高齢化が問題となっており、65歳以上の人口の割合が全人口の21%を占める状況を「超高齢社会」と呼びます。
高齢化の傾向は進み、2010年には23.0%、2020年には29.1%となっており、2025年には65歳以上の人口の割合が30.3%になると予測されています*1。
つまり、私たちが医療サービスを提供する国民の3人に1人が65歳以上になるという計算で、加齢とともに基礎疾患を抱え、何らかの治療を受けている方が歯科を受診する可能性も高くなります。
筆者がメインテナンスを担当している患者さんも、60~70歳代の方が多く、その有病率は約39%。そしてその半数以上を、今回取り上げる高血圧症が占めています。
このように数値化してみると、自分の臨床における状況がよく分かりますので、ぜひデータ管理することをおすすめします。
国民の3人に1人が罹患する高血圧症
2017年における日本の高血圧有病者数は4,300万人といわれており*2、2021年2月1日現在の人口1億2,562万人に対比させると、人口の約34%に相当します*3。
この比較から、私が担当している患者さんたちも、罹患しているリスクが高いのではないかと考えることができ、さまざまな注意点に留意しながら対応すべきであろうと考えられます。
しかし、日本における高血圧有病者の認知は7割に満たず、患者さん本人が高血圧であると認識していなければ、私たち歯科衛生士にその情報が届かないという問題もあります。
また、高血圧の基準については、2017年には米国心臓病学会(ACC:American College of Cardiology)および米国心臓協会(AHA:American Heart Association)が、
2018年には欧州のEuropean Society of Cardiology(ESC)およびEuropean Society of Hypertension(ESH)が、
そして2019年には、日本高血圧学会(JSH:Japanese Society of Hypertension)が『高血圧治療ガイドライン2019』を作成し、その基準値を140/90から130/80へと変更しました。
この変更には、治療中の患者さんであっても降圧目標に到達していない方が多く、さらなる改善が必要という背景があったとされています*2。
このガイドラインでは、成人における血圧値を次の7種類に分類しています。
診察室血圧
分類 | 診察室血圧(mmHg) | ||
---|---|---|---|
正常血圧 | <120 | かつ | <80 |
正常高値血圧 | 120-129 | かつ | <80 |
高値血圧 | 130-139 | かつ/または | 80-89 |
Ⅰ度高血圧 | 140-159 | かつ/または | 90-99 |
Ⅱ度高血圧 | 160-179 | かつ/または | 100-109 |
Ⅲ度高血圧 | ≧180 | かつ/または | ≧110 |
(孤立性)収縮期高血圧 | ≧140 | かつ | <90 |
成人における血圧値の分類(診察室血圧)
家庭血圧
分類 | 家庭血圧(mmHg) | ||
---|---|---|---|
正常血圧 | <115 | かつ | <75 |
正常高値血圧 | 115-124 | かつ | <75 |
高値血圧 | 125-134 | かつ/または | 75-84 |
Ⅰ度高血圧 | 135-144 | かつ/または | 85-89 |
Ⅱ度高血圧 | 145-159 | かつ/または | 90-99 |
Ⅲ度高血圧 | ≧160 | かつ/または | ≧100 |
(孤立性)収縮期高血圧 | ≧135 | かつ | <85 |
成人における血圧値の分類(家庭血圧)
また、本ガイドラインにおいては、歯科治療における高血圧症患者さんへの対応のうち、Ca拮抗薬(カルシウムきっこうやく)について次の記載があります。
かつてはニフェジピンカプセル内容物の口腔内投与が行われた時期があったが、過度の降圧による反射性頻脈、脳梗塞や心筋虚血を誘発するため、現在では推奨されない
(『高血圧症治療ガイドライン2019』より抜粋)
そのため、商品名「アダラート」の舌下投与を行わないようにと注意喚起されています。
歯科における高血圧症患者さんへの対応
前述のガイドラインにおいては、血圧測定の方法について、医療施設での診察室血圧測定法ではなく、家庭における診察室外家庭血圧(家庭血圧測定)を推奨しています。
また、DHP系Ca拮抗薬「dihydropyridine(ジヒドロピリジン)」の副作用として「歯肉増殖」が挙げられており、その対策として口腔衛生指導が推奨されています。
さらに、中枢性交感神経抑制薬のカタプレスやワイテンスの副作用には「口渇」が挙げられていますので、みなさまが患者さんを担当なさる際は、かならずお薬手帳をチェックするようにしましょう。
そして、該当の処方薬がある際には、メインテナンスの度に口渇について確認し、必要に応じて保湿剤の指導を追加するようにしましょう。
高血圧症の患者さんに対するDHワーク
筆者が担当している高血圧症の患者さんについてご紹介します。
この患者さんはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB:Angiotensin II Receptor Blocker)という、体内の血圧を上げる物質であるアンジオテンシンⅡの働きを抑えることで血圧を下げる薬を服用中です。
また、ご本人の口腔衛生に関する関心は非常に高く、安定した状態が維持されています。
ARBを処方されている患者さんは、副作用として軽い動悸やめまいなどがあるため、院内に段差がある場合、誘導時には足元に注意していただきます。
前述のように、高血圧症は国民の3人に1人が罹患している疾患です。
患者さんからの申し出がなくても、「血圧はいかがですか?」と確認するように心がけましょう。
参考文献:
*1 平成28年版厚生労働白書-厚生労働省
*2 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編著(2019)『高血圧治療ガイドライン2019』ライフサイエンス出版株式会社.
*3 人口推計(令和2年(2020年)9月確定値,令和3年(2021年)2月概算値) (2021年2月22日公表)-総務省統計局
全身疾患とDHワーク
第1回 歯周病の病因論と全身疾患のかかわり
第2回 歯周病と糖尿病の関連性
第3回 口腔領域への高血圧症の影響と予防業務