みなさまこんにちは、柏井伸子です。
本シリーズでは、全身疾患と口腔領域との関連性について考えていきます。
口腔も全身の中の一器官であると考えると、一生懸命にプラークコントロールを続けているにもかかわらず、状態が改善されない患者さんには、多角的アプローチが必要です。
今回は歯周病と糖尿病の関連性についてお伝えいたします。
第2回 歯周病と糖尿病の関連性
前回は、歯周病の病因論からなぜ骨吸収が進行してしまうのか、新型コロナウイルス感染症での炎症性サイトカインによる「サイトカインストーム」の例を挙げてお伝えしました*1。
(前回はこちら:第1回 歯周病の病因論と全身疾患のかかわり)
サイトカインとは、感染症などによりマクロファージ・リンパ球などの炎症細胞などから分泌されるタンパク質です。
サイトカインには多数の種類がありますが、今回取り上げる糖尿病においては、特に強い炎症応答を引き起こすTNF-α(tumor necrosis factor-α)が大きく影響します。
* サイトカインの中には人体に悪影響をおよぼさないグループもありますが、本稿では、以降、炎症性サイトカインを「サイトカイン」と表記します。
糖尿病とは?
糖尿病とは、インスリン作用不足によって糖が正常に取り込めなくなり、慢性的な高血糖状態が継続する疾患です*2。
インスリンが分泌されなくなる「インスリン分泌障害」や、分泌されるものの効きにくくなる「インスリン抵抗性亢進(=インスリンの効果抑制)」などの症状が起こります。
ヒトは生命兆候を維持したり、思考・運動などの活動をしたりするために、糖を必要とします。
インスリンは、摂取した糖を解糖して、エネルギーの源となるグルコースを産生します。
しかし、インスリンの分泌量に問題が生じると、摂取された糖が消費されにくくなってしまい、糖が過剰に血液中に存在する状態になります。これが「高血糖状態」です。
さらにこの高血糖状態が長期にわたると、血管には過剰な負担がかかることとなり、目の網膜や足の指先などを走行している微細な毛細血管からダメージを受けてしまい、合併症として現れます。
ご存じのように糖尿病には、次のような代表的な合併症があり、これらは生活の質Quality of Lifeの低下を招きかねません*2。
- 神経障害
- 足病変(壊疽)
- 網膜症
- 腎症
- 虚血性心疾患
- 脳梗塞
糖尿病専門医における歯周病のとらえ方
私たちが初診時やメインテナンス時に行う医療面接では、かならず全身疾患の有無・治療方法(特に薬物療法)に関して、これまでの経緯や現状を確認しますよね。
今回のテーマである糖尿病専門医の施設においては、特に注意されているのが合併症の確認です。
一般社団法人日本糖尿病学会編の『2020-2021糖尿病治療ガイド*3』には、
血糖コントロールの不良は歯周病を重症化させる。
とくに高齢者、喫煙者、肥満者、免疫不全者での罹患率が高い。
という記述があります。さらに、
歯周病が重症であるほど血糖コントロールは不良となる。
また歯周病治療によって歯周組織の慢性炎症が改善すると、インスリン抵抗性が軽減し、血糖コントロール状態も改善することが報告されている。
歯周病はさらに、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患や感染性心内膜炎、呼吸器疾患、低体重児出産などの誘因となる可能性が指摘されている。
とされています。
糖尿病患者さんに対して歯科衛生士ができること
昨今の研究成果により、糖尿病をはじめとする全身疾患に対して、歯周病の影響が認められるようになりました。
歯周病の炎症によってサイトカインが産生され、糖尿病の増悪と心筋梗塞が起こるというものです*4。
また、糖尿病に大きく関与するサイトカインには、歯周病も進行させてしまうTNF-α(Tumor Necrosis Factor:腫瘍壊死因子)が含まれています。
糖尿病患者さんに対しては、肥満解消のためのダイエットが推奨されていますが、これは脂肪細胞がインスリンの効果を抑制してしまうことへの対抗処置となります。
脂肪細胞では、エネルギー源として中性脂肪を貯蔵しつつ、生理活性物質である「アディポサイトカイン」を合成・分泌します。
コレステロールと同様、アディポサイトカインには「善玉」と「悪玉」が存在し、悪玉には糖尿病や脂質異常症、高血圧などの生活習慣病や動脈硬化を促進する働きがあります。逆に、善玉はこのような作用を抑制する働きがあります*2。
また、TNF-αは悪玉の仲間であり、インスリン抵抗性や血管壁の炎症を引き起こします。
糖尿病内科に通院する患者さんたちは糖尿病手帳が渡され、治療経過を記録しています。
その中に歯周病に関して記録する箇所がありますので、糖尿病を有する患者さんには手帳の持参をお願いし、歯科に関する部分を記載するようにしましょう。
また、摂食を担う口腔領域に携わる医療関係者として、ダイエットを心がけるような食事指導にも介入します。
糖尿病はコントロールされていれば、極端な症状を呈することはありません。
ただし、易感染性疾患であるため、口腔内外の感染症に対しては注意が必要です。
う蝕と歯周病は、口腔内における感染症です。日頃から口腔衛生を心がけてセルフケアを行うことの大切さを伝えていきましょう。
参考文献:
*1 COVID-19: consider cytokine storm syndromes and immunosuppression Lancet. 2020; 395:1033-1034
*2 医療情報科学研究所編(2019)『病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌』メディックメディア社.
*3 一般社団法人日本糖尿病学会編著(2020)『2020-2021糖尿病治療ガイド』文光堂.
*4 大塚吉兵衛、安孫子宣光共著(2008)『医歯薬系学生のためのビジュアル生化学・分子生物学』日本医事新報社.
全身疾患とDHワーク
第1回 歯周病の病因論と全身疾患のかかわり
第2回 歯周病と糖尿病の関連性