口腔機能低下の予兆を見つけられる歯科衛生士になろう 第4回 唾液腺開口部に見える口腔機能低下 前編

口腔機能低下の予兆を見つけられる歯科衛生士になろう 第4回 唾液腺開咬部に見える口腔機能低下 前編

口腔と体の繋がりと機能低下に強い関心があり、超合理主義の臨床衛生士、植田です。

マスク生活も長くなり、口呼吸と寒さのせいで体が冷えやすい状態になっています。

冷えは抵抗力を低下させることから、夏場とは違う理由で、感染しやすい環境になっているのです。

定期的なメインテナンスにいらっしゃる患者さんの口腔内の、ちょっとした変化もその予兆となってあらわれます。

ところでみなさんは、メインテナンスの間隔を何で決定していますか?

プロービング値、BOP、排膿、PCR、動揺、ステイン、顎偏位、体調、持病、年齢、性別、妊娠期、成長期、職種、嗜好品、生活環境…

その指標のひとつに「歯石」があります。

大体いつも同じところに付着するその歯石を、指摘・指導し、除去し、研磨する。

そのときいつも患者さんは、「気をつけて磨いているんですけどね…」って、おっしゃいませんか?

医歯薬出版が発刊する『保健生態学』に、以下の記載があります。

歯石
唾液腺開口部に近接する下顎前歯舌側面や上顎大臼歯部に沈殿する頻度は少なくない

(一般社団法人全国歯科衛生士教育協議会監修(2019)『保健生態学』より引用)

今回は、歯石の好発部位としてあげられる、唾液腺開口部に見られる機能低下についてお話ししたいと思います。

唾液腺開口部に見える口腔機能低下 前編

さまざまな歯科のHPを見ると、こんなことが書いてあります。

  • 歯石は歯磨きをあまりせずにいると、歯の表面に汚れ(歯垢またはプラーク)がついてきて、その歯垢がついたままになると唾液中のカルシウムによって石灰化し、約2日間で石灰化がはじまるといわれている
  • 一般的にプラークが形成されるまで24時間かかるといわれている。その後石灰化がはじまるのが4~8時間後
  • また2日後には50%、12日後には歯石になってしまう
  • その後、約2週間くらいで石灰化が完了し歯石となる
  • 自宅で十分磨けていないとわずか2週間で歯石が沈着してしまう

これはよく耳にすることですよね。

でも、臨床で感じたことはありませんか?

歯石がべったりついているけど、顕著な腫れや発赤、磨き残しが原因と思われるプラークもないな、と。

Wikipedia「歯石」より引用
炎症所見が少ない歯石付着部位(Wikipedia「歯石」より引用)

プラークから歯石になるなら、目に見える炎症所見がほとんどないのに歯石がついているのはなぜなのでしょうか?

2週間前の汚れが歯石となって残っているならば、その上に1週間前や4日前、2日前の汚れがついていないのはなぜなのでしょうか?

もし、歯科医院に行くからと来院前によく磨いたのであれば、その直前まで付着していたプラークによって炎症の所見が残るはずではないのでしょうか?

そもそも、毎日の磨き残しからどんどん歯石になるなら、3ヶ月でチェックしても6ヶ月でチェックしても歯石の量に大差がないのはなぜでしょうか?

除石から3ヶ月後(8/19)と、さらに3ヶ月経過後(11/8)を比較した写真
除石から3ヶ月後(8/19)と、さらに3ヶ月経過後(11/8)を比較した写真

そして、いつも気になっていたのが、「2日後〜2週間かけて歯石となっていく間、患者さんはずっとそこを磨かないのか?」ということです。

そこの部分だけを残してブラッシングすることは、はたして可能なのか?

そしてもしそれが可能なら、なぜ往々にして歯石の上にプラークがないという状態が存在するのだろうか…?

そして、こうも思ったことはありませんか?

いつもいつも同じところに歯石がつくのは、ほんとうに患者さんの認識の甘さやブラッシング不足なのだろうか?、と。

気をつけて磨いているにもかかわらず、なぜ歯石がつくのかは、患者さんも悩んでいると思います。

どこが汚れているのかではなく、なぜ汚れているかを考えてみましょう。

バイオフィルム形成のメカニズム

バイオフィルムは、以下の手順で形成されます。

  1. 歯牙の表面に唾液中の糖タンパク質が静電気などによって吸着し、0.1 〜1.0μmのペリクルを形成
    歯牙の表面に唾液中の糖タンパク質が静電気などによって吸着し、0.1 ~1.0μmのペリクルを形成
  2. ペリクルの表面に初期定着菌が付着
    ペリクルの表面に初期定着菌が付着
  3. 初期定着菌に連鎖球菌が付着し、それらが生成する多糖体に他の菌が吸着し、初期プラークを形成
    初期定着菌に連鎖球菌が付着し、それらが生成する多糖体に他の菌が吸着し、初期プラークを形成
  4. 初期プラークにさらに菌が付着し、マイクロコロニーと呼ばれる集団を形成。マイクロコロニーが熟成化し、ねばねばとしたバイオフィルムを形成
    初期定着菌にさまざまな菌が付着し、マイクロコロニーと呼ばれる集団を形成

ここで登場するキーワードとして、

  • プラーク:湿重量1gあたり1.0〜2.5×1011個の細菌を含んでおり、プラーク容量の約70%は細菌細胞(菌体)である。
  • 糖分:砂糖などの糖分を与えることにより、ねばねばとした「不溶性グルカン」を形成する
  • 時間:時間の経過とともに唾液中のリンやカルシウムが添加され、歯石になっていく

細菌 × 糖分 × 時間

と考えると、

口腔内の常在菌が多いせいや、糖分をとりすぎるためプラークや歯石になるなら、他の部分にもプラークが残っていたり歯石ができていてもおかしくはないのではないでしょうか?

先ほどの『保健生態学』を見ると、唾液の役割について、以下のように述べられています。

唾液にはさまざまな働きがあるが、特に浄化作用、抗菌作用、歯質保護作用、緩衝作用、再石灰化作用は口腔衛生学的に重要な意義を持っている。

(一般社団法人全国歯科衛生士教育協議会監修(2019)『保健生態学』より引用)

そんなふうに、本来は常に洗い流す効果があるのに、なぜ歯石が付着するのでしょうか?

24時間唾液が出ないってことはありえない

2週間1回も歯ブラシが当たらないってことが続くなんてことがあるのか?

いつもそこが汚れると指摘されているのだから気をつけて磨いているだろうし、他の部分も汚れているならまだしも、唾液腺の開咬部だけ磨き残すってことがあるだろうか?

生えたばかりの永臼歯を、毎日磨いているお母さんが磨き残すなんてあるのだろうか?

ではなぜそこにつくのか?

それは、そこの部位だけ早く歯石になる要素があるのではないだろうか?

これはあくまで仮説ですが、部位特異的に歯石ができるのは、時間的な要素を促進させる「何か」があると考えると、見えてくるものがあります。

後編では、唾液腺の開咬部に歯石が付着するメカニズムをお伝えします。

口腔機能低下の予兆を見つけられる歯科衛生士になろう

口腔機能低下の予兆を見つけられる歯科衛生士になろう

第1回 コロナ騒動で増えている「口輪筋の機能低下」
第2回 マスク着用で増えている「緩んだ口」を見つける
第3回 可撤式補綴装置から見える口腔機能低下
第4回 唾液腺開口部に見える口腔機能低下 前編