全身疾患とDHワーク 第1回 歯周病の病因論と全身疾患のかかわり

全身疾患とDHワーク 第1回 歯周病の病因論と全身疾患のかかわり

みなさまこんにちは、柏井伸子です。

本シリーズでは、全身疾患と口腔領域との関連性について考えていきます。

口腔も全身の中の一器官であると考えると、一生懸命にプラークコントロールを続けているにもかかわらず、状態が改善されない患者さんには、多角的アプローチが必要です。

今回から4回にわたり、歯周病の病因論と全身疾患のかかわりや、糖尿病・高血圧症・骨粗鬆症を有する患者さんへのアプローチについて注意点や対処方法をお伝えいたします。

第1回 歯周病の病因論と全身疾患のかかわり

医科歯科連携が深まる中で、「サイトカイン」という言葉を耳にする機会が増えているのではないかと思います。

サイトカインとは、感染症などが契機となり、マクロファージ・リンパ球などの免疫細胞や上皮細胞、血管内皮細胞などから分泌されるタンパク質の総称。さまざまな種類があり、成長因子や造血因子となる炎症性を有しないグループもあります*1

中でもTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)やIL-6(interleukin:インターロイキン)などは強い炎症応答を引き起こすため、炎症性サイトカイン(以下、サイトカイン)と呼ばれています。

主な炎症性サイトカイン

炎症性サイトカイン 産生組織 標的細胞と作用
IL-1 マクロファージ リンパ球の活性化と分化増殖、発熱
IL-6 T細胞
マクロファージ
神経細胞 など
B細胞分化、キラーT細胞誘導、急性期タンパク質誘導
多能性幹細胞の分化
増殖、神経細胞の分化
INF-γ T・NK細胞 マクロファージの活性化
TNF-α マクロファージ 標的細胞の破壊

新型コロナウイルス感染症に関する論文の中でも、感染後の体内で多くの炎症性サイトカインが放出され、サイトカインの嵐ともいうべき「サイトカインストーム」が生じて全身に支障が生じるというものがあります*2

感染症などによって大量に産生されたサイトカインが血液中に放出されると、過剰な炎症反応が引き起こされ、さまざまな臓器に致命的な傷害を生じることがあります。

新型コロナウイルス感染症の重症例では、IL-6・IL-10・TNF-αなどのサイトカインの血中濃度が上昇したり、Tリンパ球の細胞数低下や機能異常がみられたとの報告があります*3,4

サイトカインによる骨組織への影響

刺激として喫煙・糖尿病・ストレスなどの環境・後天的リスクファクター(危険因子)が加わると、IL-1が産生され、引き続きTNF-αやIL-6が誘導されてきます*4

人体の骨は、血液中の破骨細胞が骨面に付着し、酸や酵素を出して骨を溶解すると、この破骨細胞が消失して、代わりに骨形成を担う骨芽細胞が付着する「骨代謝」が起こります。

骨代謝のイメージ(引用:骨代謝ってなに?-イベニティ.jp)
骨代謝のイメージ(引用:骨代謝ってなに?-イベニティ.jp*5

さらに、その溶解面では「コラーゲン」が工事現場の足場のような基礎を作り、そこにカルシウムが沈着して骨の新陳代謝が成立します。

ところが、炎症性サイトカインが放出されると、骨芽細胞と破骨細胞の活動のバランスが崩れて骨吸収が進行してしまいます。

歯周病における骨破壊のメカニズム

私たちの身体には、T細胞・B細胞・NK細胞などによるさまざまな免疫機能があり、体内に侵入してくる細菌やウイルスをはじめ、老廃組織やがん化した細胞を排除しています。

その代表的なものにマクロファージによる「貪食(どんしょく)作用」があり、体内に侵入した細菌などの異物を食べる働きがあります。

しかしマクロファージが活性化されると、同時にIL-6やTNF-αなどのサイトカインを産生し、骨芽細胞や歯根膜細胞に影響が生じてしまいます。

これによって破骨細胞が活性化されて骨の新陳代謝のバランスが崩れ*6、骨吸収が生じます。

このように、歯周病原菌への感染とともに産生されるサイトカインにより、軟組織および硬組織に影響が生じてしまうのです。

炎症性サイトカインの歯周組織への影響
炎症性サイトカインの歯周組織への影響

さらに、P.g.菌などの歯周病原細菌といわれているグラム陰性菌の細胞壁を構成する「エンドトキシン(細胞内毒素)」には、免疫細胞の働きを活性化し、TNF-αの産生を促す働きがあります*7

また、グラム陰性菌だけでなく、プラークやバイオフィルムなどに含まれるグラム陽性細菌の細胞壁を構成している成分の一つ「ペプチドグリカン」には、未成熟な「破骨細胞前駆細胞」を成熟した破骨細胞へと変性させる働きがあります。

この二つの成分が協調することにより、破骨細胞が活性化され、歯槽骨吸収が進行してしまうのです。

紫色に染まるグラム陽性菌と赤色に染まるグラム陰性菌(引用:健康用語の基礎知識-ヤクルト中央研究所)
紫色に染まるグラム陽性菌と赤色に染まるグラム陰性菌(引用:健康用語の基礎知識-ヤクルト中央研究所*8

まとめ

新型コロナウイルス感染症の治療として、サイトカインIL-6の働きを抑制する抗リウマチ薬「トシリズマブ(製薬名アクテムラ)」が有効であるという論文も出されました*9

筆者の担当患者さんの中にも、関節リウマチを患いながらもメインテナンスを継続している方がいらっしゃいます。

リウマチの特徴的な症状である「ばね指」が起きていると、セルフケアに影響が生じるため、歯ブラシの把持方法を工夫するようお伝えしています。

関節リウマチの患者さんでも操作しやすい把持方法をお伝えする
関節リウマチの患者さんでも操作しやすい把持方法をお伝えする

このように、効果的なDHワークを行う上では、セルフケアツールの選択や使用方法などのほかにも、服薬による副作用や全身状態などの傾聴や共感を重ねることが重要ではないでしょうか 。

参考文献:
*1 大塚吉兵衛、安孫子宣光共著(2014年)『改訂第3版医歯薬系学生のためのビジュアル生化学・分子生物学』日本医事新報社.
*2 COVID-19: consider cytokine storm syndromes and immunosuppression Lancet. 2020; 395:1033-1034
*3 Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet, 2020. 395(10223): p. 497-506.
*4 Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet, 2020. 395(10223): p. 507-513.
*5 イベニティ.jp「骨代謝ってなに?」参照2021-01-26
*6 臼井通彦、花谷智哉、森谷友貴、佐野孝太朗、有吉渉、西原達次、中島啓介(2015)「歯周病における骨破壊メカニズム ~破骨細胞を形成・活性化する因子~」,『日本歯周病学会誌』57(3):120-125
*7 早川太郎、須田立雄、木崎治俊監修(2017)『口腔生化学第5版』医歯薬出版株式会社.
*8 ヤクルト中央研究所「健康用語の基礎知識 今、気になる健康用語-グラム陽性(陰性)菌-」参照2021-01-26
*9 Tocilizumab in Patients Hospitalized with Covid-19 Pneumonia.N Engl J MED 384;1 January 7, 2021