歯科医院における感染管理 第2回 使用済み器材の適正管理〜滅菌〜

みなさまこんにちは、歯科衛生士の柏井伸子です。

前回は「洗浄」についてお伝えしましたが、今でも食器用洗剤をスポンジにつけて器材を洗っている施設があります。
(前回はこちら:第1回 使用済み器材の適正管理〜洗浄〜

洗浄不良があると「滅菌の質」を左右するため、滅菌前には汚染物を確実に除去することが必要です。

スキンケア時には、まずメイクを落として洗顔し、化粧水や乳液をつけたり美容液が染み込んだマスクを用いますね。

美容液に相当する「蒸気」という大切な要素を被滅菌物に浸透させるためには、できる限り汚れを除去しておくことが必要です。

1:どうして「菌が滅びる」の?
2:高圧蒸気滅菌法の特徴
3:滅菌器の種類
4:「魔法の箱」神話からの脱却

1:どうして「菌が滅びる」の?

医療現場で用いられている滅菌法には、オートクレーブを用いる「高圧蒸気滅菌法」以外にも、次のような方法があります。

  • ガス滅菌法:酸化エチレンオキサイドガスによる方法
  • 過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌法:過酸化水素水溶液を気化させプラズマを発生させる方法
  • 低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌法:ガス化したホルマリンと蒸気で滅菌する方法

これらの方法は、大規模病院の中央材料部で用いられていますが、一般歯科の臨床現場では、オートクレーブを使用します。

参考文献:一般社団法人日本医療機器学会監修(2014年)『改訂第4版 医療現場の滅菌』株式会社へるす出版.

ところで、細菌・真菌・原虫・ウイルスという微生物は、「生物」なのでしょうか?

生物の条件には、① 代謝すること、② 細胞膜で仕切られていること、③ 自己複製能があることが挙げられます。
(参照:仲野徹(2020年)『みんなに話したくなる感染症のはなし』株式会社河出書房新社.

「細菌」は環境さえ整えば、独自で分裂・増殖することができます。

しかし、「ウイルス」はなんらかの細胞に寄生すれば増殖することはできますが、その宿主の細胞に依存して分裂していくため、自ら代謝することはできません。

また、「細菌」は中心に遺伝情報がつまったDNA(deoxyribonucleic acid;デオキシリボ核酸)があり、その外側にある細胞膜と細胞壁により“個体”として存在しています。

一方で「ウイルス」は、中心にDNAまたはRNA(ribonucleic acid;リボ核酸)がありますが、細胞膜ではなく「カプシド」と呼ばれるタンパク質で囲まれています。

さらにその外側に「エンベロープ」という脂質の膜や、「スパイク」というタンパク質でできたトゲを有するウイルスもあります。

つまり、私たちと同様に、微生物も主としてタンパク質で構成されており、タンパク質に熱を加えて活性を失わせる「不活性化」すれば、病原性を発揮できなくなるのです。

たとえば、ゆで卵や目玉焼きを作る時に、さし水をすると蒸気のエネルギーで一気にタンパク質が固まりますよね。

このように、熱だけでなく蒸気を合わせることで、短時間で確実に不活性化させることができるのです。

目玉焼きにさし水をする様子
目玉焼きにさし水をする様子

2:高圧蒸気滅菌法の特徴

高圧蒸気滅菌法に使用する材料は、精製水などの水(H2O)ですよね。

滅菌法の中には酸化エチレンガスやホルマリンなどを用いる方法もありますが、被滅菌物にそれらが残留していると、細菌だけでなく人体に対しても有害なものとなってしまいます。

しかし高圧蒸気滅菌法では、私たちが日常生活で摂取している水を使用するため、安全な滅菌方法となります。
(参照:Working Group Instrument Reprocessing(2011年)『Instrument reprocessing in Dental Practices How To Do It Right』)

しかし、いくら安全といっても滅菌後の乾燥不良により水分が残留すると、細菌の再付着による「再汚染」が生じてしまいます。

そのため、保管時には床からの湿度の影響を避けるために、床上20cm以上で埃のかからない扉つきの保管庫や、引き出し内で管理します。

引き出し内の滅菌物
引き出し内の滅菌物

さらに高圧蒸気滅菌法には、「被滅菌物に直接蒸気が接触すること」という大原則があります。

滅菌器に入れる際に、被滅菌物が濡れていたり汚れていたりすると、水滴や汚染物が蒸気との接触を阻害して、滅菌不良となります。

3:滅菌器の種類

ハンドピースやバキュームチップのように空洞の器材(内腔のある器材)の場合、内部に空気が残留しており、気体である蒸気浸透を阻害することが考えられます。

完全に蒸気を浸透させるためには空気除去が必要となり、それを実現するのが「Type B」または「Type S」とよばれる滅菌器です。

日本では「クラスB滅菌器」と呼ばれ、医療現場で用いられている大型滅菌器(Big sterilizer)と同じ空気除去のプロセスが搭載された、卓上滅菌器を意味します。
(参照:導入している歯科医院が急増中?!vol.2 クラスB滅菌器について学ぼう!

クラスB滅菌器
クラスB滅菌器

昨今、製造者が指定する特別 (Special)な器材の滅菌を対象とする「クラスS滅菌器」や、「加圧脱気式滅菌器」も普及してきています。

筆者のクリニックでは、次の滅菌器を用途によって使い分けています。

  • クラスB: IC Clave(株式会社モリタ取り扱い)またはMAC-1000B(キヤノンライフケアソリューションズ株式会社)
  • クラスS: iClave mini2(株式会社ナカニシ)
  • 加圧脱気式:スマートクレーブHSS(株式会社モリタ)

IC Clave

IC Clave」は、大学病院などの中央材料部で使用される大型滅菌器と同じサイクルが搭載されている卓上滅菌器です。

滅菌工程の前に空気除去による真空状態を作るため、ハンドピースやバキュームチップなどの内腔のある器材の内部へも確実に蒸気を浸透させることができます。

そして、乾燥時に圧力・沸点を下げることで、被滅菌物にダメージを生じさせずに乾燥することが可能。また、デンタルモードを選択すると、さらに安全な温度管理の下で滅菌を行うことができます。

IC Clave(引用:モリタ公式HP)
IC Clave(引用:株式会社モリタ公式HP)

MAC-1000

MAC-1000」は、クラスBのサイクルだけでなく、クラスNのサイクルも搭載されており、滅菌バッグで包装せずに滅菌することも可能です。

さらに134℃でのスピード滅菌機能も搭載されており、未包装で内腔のない器材の緊急対応にも使用できます。

また、使用後の用水は排水用タンクで保管されるため、排水用配管の必要がないこともおすすめのポイントです。

IClave mini2

IClave mini2」は、ハンドピースや小器具に特化したコンパクトなサイズの滅菌器。ハンドピースは1回のサイクルで包装6本・非包装12本を処理できます。

また、ディスプレイ上で「加熱」・「滅菌」・「乾燥」・「終了」という工程の進捗状況を把握することができ、連続運転が可能です。

用水は排水タンクで保管するため、清潔な精製水で滅菌することができるのも特徴です。

iClave mini2
iClave mini2

スマートクレーブHSS

スマートクレーブHSS」は、ハンドピースおよび小器具(基本セット)に特化したコンパクトサイズで、1回のサイクルで包装したハンドピースを6本滅菌できます。

専用ラックを用いれば、滅菌バッグ同士が接触しにくく、確実に乾燥できるという特徴があります。

そして、ドアが手前に開くデザインのため、滅菌物の取り出し時にやけどする危険を回避しやすいこともおすすめのポイントです。

スマートクレーブHSS
スマートクレーブHSS

4:「魔法の箱」神話からの脱却

多数の常在菌が存在する口腔内で使用する器材を、なぜ滅菌するのか?

それはもちろん、安全性確保のためです。

確実な滅菌を行うためには、まずは耐熱性や形状など、被滅菌物の特性に合った滅菌方法を選択することが重要です。

そして、次のことに気をつけて滅菌を行いましょう。

  1. 過積載を避ける(目安は庫内の70%程度)
  2. 確実に洗浄して汚染物を除去しておく
  3. 濡れたものを搭載しない
  4. 滅菌バッグのフィルム面同士が接触しないように搭載する

また、滅菌を行う際には、温度・時間・圧力・飽和蒸気というパラメータをクリアしているか、その都度滅菌インジケータを活用して検証するようにします。

滅菌インジケータ
滅菌インジケータ

今回ご紹介したインジケータは、滅菌器の稼動判定用ですので、滅菌器を作動させるたびに使用します。

一般的な細長い紙のタイプであれば、滅菌バッグの中に入れて使用しますので、被滅菌物ごとに使用するということになります。

滅菌器は、「魔法の箱」ではありません。

かならず稼働状態を確認し、安心安全な医療サービスの提供を心がけましょう。

歯科医院における感染管理

第1回 使用済み器材の適正管理〜洗浄〜
第2回 使用済み器材の適正管理~滅菌~
第3回 使用済み器材の適正管理〜環境設定〜
第4回 手指衛生