口腔と体の繋がりと機能低下に強い関心があり、超合理主義の臨床衛生士、植田です。
「マスクでコロナを防ぐことはできない」とWHOが発表して随分経ちますが、 今後もマスクを着用することは手を洗うことと同じくらい当然なことになりつつあります。
ですが、マスクをしているにもかかわらず感染した人がいる以上、マスクは免罪符ではありません。
第1回で、マスクをして口で息をすると温かい息が出る、口は消化器であり呼吸器ではないよと書きました。
(参照:第1回 コロナ騒動で増えている「口輪筋の機能低下」)
息苦しいからと口で息をすると、吐いた温かい息によって暑くなり、体を冷やそうと口で息をし、結果また温かい息を吐くという悪循環になります。
口で息をする哺乳類は人間だけです。呼吸器である鼻を使って、息をしましょう。
他にも、機能低下はさまざまな原因で起こります。
リモートワークだからマスクをせずに済んでいるという方であっても、長期間活動量が減少しているため筋肉量が減り、機能低下を起こしている方も年齢にかかわらず多く見られます。
一番大切なのは、自分自身の免疫力を上げることだと思います。
できるだけきちんとした食事をして、十分な睡眠をとり、適度な運動をすることで、自分の体を守りましょう。
「緩んだ口」が可撤式装置にも影響を与える
前回までは、口の締まりが悪くなっていたり、それに気づかない人をどう見つけるかについて書きました。
それはもちろんコロナのせいだけでなく、日頃自覚しないまま徐々に起きている機能低下です。下顎前歯が汚れるというのは、それを見分ける手段のひとつに過ぎません。
そして天然歯と同じように、可撤式装置にも変化が出てきます。
このデンチャーは、汚れ方にかたよりが見えます。
指摘すると大抵の患者さんは「知らなかった」とおどろいたり、「いつも取れなくて困ってるんです」と教えてくれたりします。
口から取り出して目で見て洗えるのは、可撤式装置の利点でもあるはずです。
それなのに、この装置の持ち主は片方しか洗っていないのでしょうか?
もちろんそんなことはありませんね。
こういった左右差が出る人は、汚れていない側で噛んでいることが多いです。
しょっちゅう使う側は、頬がちゃんと動き、筋肉が落ちないため汚れが残留しにくいんですね。
対して汚れる側は、あまり頬の筋肉を使わないせいで、前回口唇の形のパートで書いたように、「シャワーカーテンがくっつくようにもたれる」ようになります。
(参照:第2回 マスク着用で増えている「緩んだ口」を見つける)
その結果、自浄作用が低下し、汚れやすくなるのです。
この方の場合は右側がきれいですから、いつも右で噛んでいると推測されます。
しかし、そんな右側も、口呼吸によって、奥歯よりも乾燥する前歯に汚れが残っていますね。
どちらで噛んでいるのか、口で息をしているのかなどが、可撤式の装置から見えるのはとても興味深く、考察する手段の一助となりおもしろいです。
そして同じく可撤式といえば、ナイトガードなどのマウスピース。
耳下腺がある6番あたりがいちばん汚れているのも、興味深いですね。
患者さんに唾液腺の話をするいいきっかけにもなりますね。
余談ですが、ナイトガードは奥が深く、わたしも9年ほど勉強をしていますが、いまだに新たな発見があります。
ナイトガードを使う意義や理由、その調整や患者実感、定期的に調整をしないといけないことなど、毎回患者さんに勉強させていただいている気持ちになります。
両側で噛むということはとても大切なことですが、何か原因があってそれができない人もいれば、単に治療が長引いたせいで反対側で噛む習慣がついた人や、怪我や口内炎などのせいでそうなる方もいらっしゃいます。
このように、一見わかりやすい汚れを、単に「手入れができていない」と取るのではなく、
なぜそこに汚れがつくのかを推察することが、口腔内を改善する上で重要です。
いろんな原因を探ることも大切ですが、まずは患者さんに気付いてもらい、両方で噛む意識を促すことからスタートすると、共感を得やすいかもしれません。
歯科衛生士という職業は、単にお掃除したり、患者さんと楽しくおしゃべりすることだけが仕事ではありません。
口腔だけに見られる現象のみに着目するのではなく、患者さんの背景を探り、健康に寄与できる存在になる必要があります。
「人生において自分の健康をゆだねることができる人」として、患者さんの信用を勝ち得ましょう!
DH植田のワンポイントアドバイス
コロナ対策でのマスクは、鼻の部分の針金をVではなくコの字型にしてみましょう。
鼻で息をするのが楽になりますよ!
口腔機能低下の予兆を見つけられる歯科衛生士になろう
第1回 コロナ騒動で増えている「口輪筋の機能低下」
第2回 マスク着用で増えている「緩んだ口」を見つける
第3回 可撤式補綴装置から見える口腔機能低下