口腔と体の繋がりと機能低下に強い関心があり、超合理主義の臨床衛生士、植田です。
新型コロナの感染拡大に収束がなかなかつかないまま、外出する人の多くがマスクをしている状態が続いています。
マスクをしていない人は白い目で見られたり、電車に乗ると近くの人は席を移られたり、少しでも咳をするとジロリと見られたり、マスクなしでは百貨店に入ることもできません。
人は、よくわからないものを怖がるものですから、聞き慣れた「新型インフルエンザ」はあまり怖くなくても、「新型コロナ」という聴き慣れない、得体の知れないものはやはり怖いのかもしれません。
そのためには、今まで普通にやっていた滅菌についての張り紙をあえてしたり、寒い中または暑い中でも、窓を開けて換気をしたりという「一般の方から見てわかりやすい対策を見せる」ということも、大切なところですね。
さらには、歯科業界でも感染対策についてのwebセミナーが多く開催されており、感染に対する見直しが多く叫ばれています。
しかし、医科とは違い、歯科医院では普段から常時ゴーグルやグローブをして診療にあたっていると思いますので、あまり怖がることはなかったかもしれません。
それを裏づけるように、歯科医療関係者はそうでない人と比べて感染率がとても低いというデータもありますので、いままでの対応に自信を持ってもいいのではないでしょうか?
(参照:新型コロナウイルス抗体検査 歯科医師の陽性率は0.7% ソフトバンクグループ-WHITE CROSS)
マスク着用で増えている「緩んだ口」を見つける
前回は、ポカン口というよりも「口がきちんとしまっていない」人のことを書きました。
前回はこちら
口がポカンと開いている人は自覚症状として口渇があったり、周りからの指摘があったりするので、こちらが指摘しても受け入れられやすい傾向にあります。
しかし、「口が緩んでいる」人の場合、ほんの少ししか開いていないから、または鼻呼吸できているからなどといった理由で、患者さん自身が気づいていないこともあります。
ご存じのように口唇閉鎖不全の特徴として、
- 口腔乾燥
- 口唇乾燥
- 下顎前歯の着色
- プラークコントロールの不良
- 口臭がある
- 風邪をひきやすい
などが挙げられます。
そのため、自覚のない方に「口、乾きませんか?」と聞くと、「水分補給してるんで」という返事になってしまいます。
そのため、こちらが診てその所見があったとしても、ダイレクトには聞かずに、
「よく飲み物を飲みますか」
「よくリップクリームを塗りますか」
「風邪ひく時は喉からひきますか」
と尋ねるようにしてみましょう。
そうすると、
「よく飲みます」とか、
「グロス塗ります」とか、
「コーヒー飲むから歯が茶色くなるんですかねー」とか、
「寝る時は口開いてるんですよね」
といったように、
そこまでの所見がない患者さんであっても、自分自身の症状に気づいて話してくれることがあります。
歯の着色からわかる機能低下
特に、「下の歯が汚れる」という話は、気づいてもらいやすい傾向にあります。
このような着色がみられた場合、
- 口がきちんと閉まっていれば唇は乾かない
- 着色が起こるのは飲み物のせいではない
- 寝ている時に口が開いている人は起きている時も開いている
などということを説明します。
夏場は湿度が高いため、乾燥しにくかったり、よく飲み物を飲んだりするのでわかりにくいですが、乾燥している冬場は患者さんも気づきやすいです。
着色がついていたり唇がわかりやすく乾いていたりするようなら、冬になる前に「乾燥による弊害」を伝えてあげると、その方の風邪や喘息などの呼吸器疾患を予防することにも繋がります。
先ほど書いたように、一番わかりやすいはずの「前歯部唇側の着色」について。
自粛期間中も外出しなければならない環境の方は、マスクの時間は長くても呼気による湿度で乾燥が少ないため、一見わかりにくいです。
しかし、マスクを常時着用するようになって5ヶ月が経過した今、口腔周囲筋の衰えは顕著になってきました。
また、この写真のように、問診や口腔内所見で口呼吸が疑われる人なのに、あまり着色がない人の多くは、お水などの色のついていないものを飲んでいることが多いです。
しかし、染色してみると、見えなかった汚れが見えます。
(ちなみに医院では一眼レフで口腔内写真を撮るので、染色前でも拡大するとうっすら汚れが見えます。)
これは、前歯だけ染色したのではなく、全体を染め出しています。
奥歯より磨きやすいはずの前歯だけが汚れているのがよく分かります。
唇から見える機能低下
このように、きちんと唇が閉まっている方は、下の歯の汚れはありません。
さらに、口を軽く開けてもらうと、唇と歯の境目のラインがはっきりしているのが分かりますか?
口がきちんとしまっていなければ、下の歯が汚れやすくなります。
そして、口がきちんとしまっておらず、その結果緩んできた唇は、力がなく歯の方に倒れてきます。
力のない上唇はシャワーカーテンのように歯にくっつくため、上の歯は汚れず、浮いてしまった下唇側に汚れが停滞します。
そのため、下の歯の表面は汚れているのに上の歯が汚れていない、ということが起きます。
最初に出てきた下顎にステインがついた方の唇はこんな感じです。
ちなみにこの方は、コロナが流行り出しマスクを常時するようになってからステインがつきやすくなったという方です。
口の開き方や歯並び、口が開いている期間によっても差があるので、たくさん見ていることでわかりやすくなると思います。
毎日出勤しておりマスク期間が長いのか、
マスクをしているのは出退勤の時だけなのか、
デスクワークなのか接客業なのかでも変わってきます。
はじめの状態と比較できればなおいいですが、今からでも現状を記録しておくことをおすすめします。その時点からの悪化があるかはわかるので、まだ症状が見られない場合でも現状の記録は大切です。
口輪筋の機能低下が顔貌の変化に
そして、口輪筋には、お顔のさまざまな筋肉が放射線状についています。
こちらの図のように、頬筋や眼輪筋にまで繋がっており、支配神経も同じです。
「コロナ疲れ」といわれる顔貌・・・緩んだ口がもたらす目の下のくまなど、それらは表情筋の緩みの結果だと考えています。
マスクの下で開いている口。
それにより、機能低下のみならず、顔貌の変化にも影響しています。
口は天然のマスクです。
きちんと閉めなければ、一生マスクをして過ごすことになります。
自分の持っている能力を大切にしてくださいね!
出典:
顔面表情筋(眼輪筋および口輪筋)の支配神経に関する研究
昭和大学医学部形成外科学講座 塩澤 佳、吉本 信也
千葉大学大学院医学研究院形成外科学講座 三川 信行
昭和大学医学部解剖学講座(肉眼解剖学部門) 森山 浩志、大塚 成人
口腔機能低下の予兆を見つけられる歯科衛生士になろう
第1回 コロナ騒動で増えている「口輪筋の機能低下」
第2回 マスク着用で増えている「緩んだ口」を見つける