口腔機能低下の予兆を見つけられる歯科衛生士になろう 第1回 コロナ騒動で増えている「口輪筋の機能低下」

初めまして、歯科衛生士の植田智美です。

私は口腔と体の繋がりと機能低下に強い関心がある、超合理主義の臨床衛生士です。

社会的なニーズが変化し、疾病の治療だけでなく、人が健康で幸せな一生を送るためにはどうすればいいのかという視点が求められるようになってきた現在、歯科衛生士に対する期待とその責務は激変しました。

また、近年の歯科医療におけるkeywordとして「アンチエイジング」があります。

その言葉の背景には“美魔女”に象徴されるように、年齢の割に綺麗であることのような審美を重視したものをイメージする人が多いように感じられます。

果たしてそれは、「アンチエイジング」の本来の意味なのでしょうか?

機能低下を防ぐには?

さて、皆さんはForm follows Functionという言葉をご存じですか?

これはアメリカ建築の三大巨匠であるルイス・サリヴァンの言葉です。

この言葉に、私が天才だと思っている師匠の杉元が“always”をつけたものをよく使うのですが、この度調べ直すとサリヴァンも「形態は常に機能に従う(form ever follows function. )」と言っていました。

やっぱり天才は考えることが同じなのでしょうか(笑)

ルイス・サリヴァン(引用:ja.wikipedia.org/wiki/)
ルイス・サリヴァン(引用:Wikipedia)

「形態は機能に従う」つまり、今の見えている形態は体の機能のあらわれで、形態を美しく改善するには健康的な機能の改善が必須なのです。

それはまさに、前述した医療に対するニーズそのものともいえます。

そのため、顔貌や口腔内から読み取る「機能低下」の予兆に気づくことができたら、その人の今後の健康に寄与でき、結果的にアンチエイジングへと繋がると考えています。

みんながある程度健康で、ベッドの上で過ごす時間が短い人生を送ってもらうことが私の望みです。

そして、「機能低下」は加齢で起こるものではなく、運動量の減少が招く筋力低下から起こると考えています。現状を維持するためには、ある程度の筋トレは必要です。

そのためには、こちらが働きかけ、患者さん自身に気付いてもらうことが重要です。

私が得意としている、「見落としがちだが臨床所見として確認できること」をお話ししていけたらと思います。

コロナ騒動で増えている「口輪筋の機能低下」について

ポカン口は、鼻炎など鼻の疾患で呼吸しづらく、そのため口が開いてしまう現象。子どもに増えてきており、MFTも注目されていますね。

しかし、COVID-19の影響で、今年3月ごろからマスクをする人が増え、もう4ヶ月になります。

コロナ騒動で増えている「口輪筋の機能低下」

その間、慣れないマスクが息苦しく、マスクの中で口が開いている人が増えています。いわゆる「ポカン」とは開いていなくても、きちんと封鎖できていない状況です。

きちんと封鎖できていない唇
きちんと封鎖できていない唇

マスクを着用していなければ、口が開いていると口腔内が乾燥してくるので、自覚できる人もいます。

しかし、マスク着用下では呼気が湿度を帯びているため乾かず、ほとんどの人が「口が開いている」と気付きません。

外の気温が上がってくると、体温を下げるために口呼吸を行います。マスクが暑いと感じる人のほとんどが、寒い日に掌に息を吹きかけて温めるように、温かい息を「口から」吐いているということです。

また統計局の4月の家計調査によると、自粛の影響で、家で簡単に料理ができると、パスタの売り上げが前年度の70%以上も増加したそうです。
(参照:家計調査報告 ―月・四半期・年―-総務省統計局

他にも、即席麺43.3%増加やカップ麺14.0%増加など、ほとんど噛む必要のない食材が売れています。

では、「意識して口を閉めてください」と患者さんにお願いしても、なかなかそうならないのはなぜでしょう?

それは、患者さんの努力不足でも、こちらの指導が足りないのでもなく、単に長期間のマスクの使用で口輪筋の筋力が低下しているのです。

筋肉はカロリーを消費するので、使わないのにずっと筋肉があると、痩せていくことになります。そのため、体は使わない筋肉をどんどん落としてエネルギーの維持に努めます。結果、筋肉は使わないと落ちていくのです。

千葉県野田市市報に、次のような記事がありました。

アメリカの運動生理学者カルポビッチは、デカルトの「我思うゆえに我あり」に対して、[我 動くゆえに我あり]という言葉を残しています。我々は動くことによってはじめて、自己の機能を維持増進していくことができると言えます。
骨折をした際などのギプス固定でも局所的に同じことが起こりえます。実際に、高齢者が転倒などで大腿骨などの大きな骨を骨折し、“動かない”期間が続くことで、“動くことが できない”程の筋力低下が起こり、そのまま寝たきり状態になるという症例もあるようです。(千葉県野田市市報より抜粋)

実際、私はバイク事故で大腿骨と膝を骨折し1〜2週間寝たきりの時期がありましたが、その期間だけで筋肉が落ち、17歳の若さで座ることができないという経験をしました。

少し話がそれましたが、COVID-19の影響でマスクを長期使用し、あまり噛む必要のない食材を口にする人が増えている現状では、今後口腔機能の低下が見られる人が増えるでしょうし、現在すでにその予兆が見えている人もいます。

その結果、秋冬にマスクを外すようになれば、口呼吸による風邪やインフルエンザなどの呼吸器疾患は例年よりも増えることが予想されます。

勝手に口が閉まるようにするには口輪筋を鍛えるしかありません。今後のためにも、今のうちに口唇閉鎖を促す指導をすることが大切です。

口輪筋を鍛えるトレーニング方法

鼻は呼吸器ですが、口は消化器であり呼吸器ではありません。

空気中の酸素を取り入れて、体内の二酸化炭素を外に出すことが『呼吸』です。Wikipediaによると、成人の人間の呼吸数は、1分間に約12~18回が平均といわれています。

仮に1分間の呼吸数を15回とすると、15回×60分=1時間に900回、1日にすると900回×24時間=1日に21,600回も呼吸をしていることになります。

その間ずっと口を閉じるということに意識を向けるのは難しく、トレーニングの時間を作って行うのもひとつの手ですが、「困っていない」がゆえにモチベーションの持続も難しい。

そこで最近、私が患者さんにお勧めしているのは「口にテープを貼る」ことです。

マスキングテープ

睡眠中に貼る物が販売されていますが、基本的に夜寝ている間に口が開く人は昼も開いていますので、日中マスクをつけている下で、マスキングテープを貼ってもらいます。

口輪筋を鍛えるマスキングテープの活用方法

その際、わずか5mm程度を唇のみに貼ります。そのまま喋ることもできますし、喋り終わったらまたマスクの上から押さえておきます。

貼ったまま喋ることも可能
貼ったまま喋ることも可能

知らない間にだんだん唇が開いてきたら、テープに引っ張られるため「開いてきたから閉めよう」と自覚できるという、リマインダーとして使うのです。

知らない間にだんだん唇が開いてきたら

トレーニングのコツ

コツは、べったり貼らないこと。

テープの力で閉めてもらうと、いつまでも口輪筋を鍛えることになりません。(・・・が、やはり筋トレなのでちゃんと閉まるまではしばらくかかります。その間就寝時にも使うというのもいいかもです)

コツはべったり貼らないこと

患者と関わる時間が長い衛生士だからこそ、わずかな形態的変化から、的確に口腔機能低下の予兆を見つけることができる。

患者自身が気付いていないうちにその人の機能低下の予兆を見つけ、指導し、その人が困らないように誘導するのが、究極の予防だと考えています。

Anti-AGING-時間をかけて美と機能ともに若くなろう-It takes a long time to grow young.

できれば色々な意見やご指導をいただければありがたいです。

次回は、口唇からわかる機能低下の予兆についてお話しします。