覚えておきたい!歯科にまつわる糖尿病の知識 第1回 糖尿病とは?

はじめまして、竹内里奈です。

昨今、日本では糖尿病罹患者が年々増加傾向にあり、糖尿病予防として口腔健康管理が重要視されています。

この連載では、糖尿病またはその予備軍の患者さんに対して、実際の歯科診療における管理と考え方を、糖尿病予防指導認定歯科衛生士・糖尿病療養指導士の観点からお話しさせていただきます。

歯周病と糖尿病の関係

2018年6月、オランダのアムステルダムで行われた学術大会「EuroPerio9」において、19年ぶりに歯周炎の新分類が発表されました。
(参照:歯周病の新分類に対応した治療ガイドラインを発表 ヨーロッパ歯周病連盟

この分類では、医科での癌分類にならったステージ分類、未来のリスクを判定するためのグレード分類が登場し、日本においても今後は新分類への移行が図られています。

歯周病の新分類_ステージ分類
歯周炎の新分類/ステージ分類(出典:特定非営利活動法人 日本歯周病学会を元に編集)
歯周病の新分類_グレード分類
歯周炎の新分類/グレード分類(出典:特定非営利活動法人 日本歯周病学会を元に編集)

そこで注目していただきたいのが、この新分類において、なんと糖尿病の数値である「HbA1c」が、喫煙と並び、歯周病患者の未来を予測するリスク因子のひとつとして表記されているところです。

そして、この分類の解説には、“歯周病は、口腔内だけでなく全身も視野に入れ、医科とともに患者の治療にあたる必要がある”と説かれています。

つまり、歯科治療を行う上で、患者さんの全身状態を把握し、志を同じくする医科や他職種の人々と共に、目の前の患者さんに向き合いましょう、という大切なメッセージだと私は思います。

また、これまでは、肥満の改善などによって慢性微小炎症が消退することが、血糖値の改善に働くといわれていました。

しかし、2013年に発表されたヒロシマスタディによると、歯周病治療により同様な効果が見られたとの報告があります。

このように、医科と歯科の双方から糖尿病と歯周病の関係性が裏付けられてきたということは、今後、日々の歯科診療において、ますます医科との連携が必要不可欠になることが予想されます。

引用文献:Munenaga Y et al.,Improvement of glycated hemoglobin in Japanese subjects with type 2 diabetes by resolution of periodontal inflammation using adjunct topical antibiotics:
Results from the Hiroshima Study,Diabetes Res Clin Pract 100(1):53,2013.

そもそも「糖尿病」って?

さて皆さんは、「糖尿病の患者さん」といわれて、どんな人を頭に思い描くでしょうか?

甘いものが好きな人?ぽっちゃりした人?ほっそりした人?男性?女性?若い人?年配の人?

いろんな人を想像するかもしれませんね。

一般社団法人 日本糖尿病学会によると、次のように定義されています。

糖尿病は、インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし、種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。

つまり、甘いものを食べ過ぎたから、肥満だから、といったように、かならずしも見た目で判断できる病気ではないということです。

「インスリン」とは?

では、定義の中に登場した「インスリン」とはなんでしょうか。

今から約100年前、1921年にカナダの外科医バンティングと、その助手ベストによって犬の膵臓から抽出された物質に、血糖値を下げる機能があることが明らかになりました。

これが血糖値を下げる唯一のホルモンといわれる「インスリン」だったのです。

インスリンは、膵臓内の器官「膵島(ランゲルハンス島)」にあるβ細胞で生成されています。

インスリンが生成されるβ細胞の位置
インスリンが生成されるβ細胞

膵島はその名のとおり、膵臓の中で島のように点在しており、すべて集めてもおよそ1g程度の組織といわれています。

血糖値を上げるホルモン(グルカゴン、アドレナリン、ステロイド、成長ホルモンなど)は種類も豊富で、生成場所もたくさんあります。

しかし、唯一の存在であるインスリンは、血糖値を下げるために日夜、孤軍奮闘で働いている状態です。

そのため、β細胞への過負荷が続き、実際に糖尿病を発症する頃には、インスリン分泌能力は健常者の2分の1にまで落ち込んでいるといわれています。

糖尿病になるとどうなるの?

糖尿病という名前から「尿に糖が出る病気」と思われる方も多いかもしれませんが、重要なのは尿糖ではありません。血中の糖「血糖」が高くなってしまうこと(=高血糖)の方が重要なのです。

では「高血糖」が続くと、なにが問題なのでしょうか。

高血糖状態は、さまざまな合併症を引き起こします。

糖尿病に特有の3大合併症
① 糖尿病神経障害(シ)
② 糖尿病網膜障害(メ)
③ 糖尿病腎症(ジ)

命に関わる大血管障害
④ 末梢動脈疾患:壊疽(エ)
⑤ 脳心血管障害:脳梗塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞(ノ・キ)

第6の合併症
⑥ 歯周病

高血糖となっても初期は無症状ですが、その状態で適切な管理をせずに放置してしまうと、QOLを著しく低下させる合併症が生じたり、虚血性心疾患などのリスクが高まったりします。

その他にも、認知症や悪性腫瘍、骨粗しょう症のリスクの上昇にもつながります。

歯科衛生士ができること

日本糖尿病学会では、増加の一途を辿る糖尿病患者に対して、その発症または合併症発症を予防するため、2004年より「対糖尿病戦略5ヵ年計画」を策定し、その対策を継続しています。

そして、ますます増加する糖尿病患者の歯止めと診療の進歩への寄与などを盛り込むため、2020年8月には、この計画の第4次版が発表されました。
(参照:第4次「対糖尿病戦略5ヵ年計画」-一般社団法人日本糖尿病学会

その計画では、以下を具体的目標として設定しています。

  1. 糖尿病患者と非糖尿病患者の寿命の差をさらに短縮させる
  2. 糖尿病患者の生活の質(Quality of Life:QOL)を改善させる

糖尿病という疾患は、医師が手術や薬の投与を行うことで治癒する病気ではありません。

まず医師と患者さんの間で正しい知識を共有し、それに対して患者さんが納得し、行動に移してやっと結果が出るものです。

そのため、糖尿病の治療には、療養指導がとても大事になってきます。

そのように考えると、糖尿病も歯周病も、患者さんへの向き合い方に共通点は多くあります。

どちらもセルフマネージメントが必須の疾患であって、いかに患者さんの行動変容を起こすことができるかが、どちらの疾患においても大切なポイントであると考えます。

今回はイントロダクションということで、詳細な分類や診断などは割愛していますが、次回からテーマごとに少しずつ書かせていただきたいと思います。

少しでも皆さんの診療のヒントになれたら幸いです。