唾液からがんの匂いが明らかに!?匂いによる口腔がん診断の技術が確立

北九州市立大学は12月10日、口腔がんに特異性を示す匂い成分を唾液から検出し、その成分の変動から簡便・迅速に口腔がんの有無が判断できる新しい診断技術を発明したと発表しました。

この研究は、同大国際環境工学部の李丞祐教授と九州歯科大学の安細敏弘教授、茂山博代医員との共同研究によるもの。
(参照:【記者発表】李 丞祐 教授(エネルギー循環化学科)が記者会見で、唾液から検出した匂い成分による口腔癌診断技術を発明したことを発表しました。

[この記事のポイント]
1.口腔がんは初期症状がなく早期発見が難しいがんで、国内における死亡者数は年間7,000人を超える
2.従来技術は操作の煩雑さや侵襲性の高さ、コストなどの問題から普及が妨げられていた
3.唾液の匂い物質から健常者と口腔がん患者を区別する診断技術を世界ではじめて明らかにした
記者に向けて説明をする北九州市立大学 李教授と九州歯科大学 安細教授
記者に向けて説明をする北九州市立大学 李教授と九州歯科大学 安細教授

増加するがん患者と死亡率の高い口腔がん

世界における新規のがん患者数は年間約1,750万人と言われており、死亡者数は約880万人に達すると言われています。

医療や保健衛生の進歩により日本は世界有数の長寿国になっているものの、がん(悪性新生物)は30年以上にわたり死因第1位。その数は年間37万人を超えており、年々増加しています。

とくに、口腔がんは早期発見が困難な疾患の一つであり、高い罹患率と5年以上の生存率50%以下が特徴です。

また、その90%以上が口腔扁平上皮がん(OSCC:Oral Squamous Cell Carcinoma)であり、厚生労働省の調査によると、日本では口腔がんによる死亡者数は2016年に7,300人以上と報告されているのです。

特に、OSCCに関連する死亡率は高く、それはリンパ節又は頸部に広がった後の病期の遅い段階になって発見されることに起因します。そのため、安価で感受性の高い診断技術の開発ががん早期発見の重要な課題となっています。

唾液に含まれる匂い物質から健常者と口腔がん患者を区別

がんの最も一般的な診断ツールとして、X線診断、CT、腫瘍マーカーを標的とした血液検査等が行われていますが、実際に陽性反応が出た時点では病態が進行していることも少なくなく、必ずしも早期発見につながっていないのが現状です。

一方で、 近年、人体から排出される揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds 以下、VOC)が体内の健康状態を反映し、がんをはじめとする様々な疾患との関係することが、多方面で研究されています。

しかしながら、VOCと様々な疾患との関係は明らかとなっていない点が多く、まだ実用化には至っていないのが現状でした。

今回の研究では、口腔がんを患っている被験者から採取した唾液中のVOCを、独自に開発した抽出デバイスとガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)を利用して高感度に検出。

がんの進行に伴ってそれらの成分が「消失」、「増減」、「新生」といった3つのグループに分かれることを発見したといいます。

健常者では検出されるががん患者では検出されないVOC群(消失群)、健常者では検出されないががん患者では検出されるVOC群(新生群)、および健常者とがん患者の両方で検出されるががん患者で検出量が顕著に増減するVOC群(増減群)を世界ではじめて明らかにしました。

健常者と口腔がん患者を区別する12成分の潜在的なVOCバイオマーカープロファイルを比較するグラフ(画像はプレスリリースより)
健常者と口腔がん患者を区別する12成分の潜在的なVOCバイオマーカープロファイルを比較するグラフ(画像はプレスリリースより)

各VOC群に属する匂い成分の変動を総合的に判断することで、非侵襲的にがんを診断することができるといいます。

研究者は、これを「口腔がんの非侵襲的診断及び早期発見に利用できる新しい診断技術」とした上で、今後揮発性バイオマーカーによる口腔がんスクリーニング、がん診断匂い検知技術および計測デバイスの開発、匂い情報に基づく総合ヘルスケア、 医療または食品分野における匂いの再現などの用途を想定しています。


近年、MI(ミニマル・インターベンション)の概念は治療だけでなく、検査にも拡がっています。

侵襲性の小さい検査や簡便な検査は、患者さんにとっても術者にとっても希望するところ。特に、唾液を用いた検査は血液検査よりも侵襲性が小さく簡便であるため、患者さんのメリットは大きいですね。

歯科医院という、人々が異常がなくとも通院する医療インフラで実施が見込めることも大きいのではないかと思います。この技術が製品化した場合、普及は加速し、早期発見・早期治療に繋がるのではないでしょうか。

* 本研究成果は、国際科学誌「Journal of Chromatography」に掲載されました。