近年、HPや求人広告で、感染管理システムについてふれる歯科医院が増えています。
これは5年前に新聞で、「約7割の歯科医院でタービンの使い回しが行われている」ということについて報道されたことが大きなきっかけではないでしょうか。その後の調査では、タービンを使い回している歯科医院は5割にまで減少したものの、対応しきれていない歯科医院もまだまだ多いのが現状です。
しかし、この報道をきっかけに、歯科医院の感染管理システムについて不安をもつ患者さんや、疑問をもつスタッフは急増。患者さんやスタッフが、正しい感染管理が行われている歯科医院で「治療を受けたい」「働きたい」と考えるのは、ごく自然なことだと思います。
今回は、そんな滅菌技術に大きく関わる「クラスB滅菌器」について、詳しくお伝えします♪
そもそも滅菌とは?
滅菌とは、以下のように定義されています。
物質からすべての微生物を殺滅または除去すること
引用:一般社団法人日本医療機器学会『医療現場における滅菌保証のガイドライン 2015』
しかし、滅菌器では、器具の付着物は除去できないため、滅菌前には、対象物から汚染を除去する「洗浄」を行うことが必須です。
*「洗浄」については、こちらの記事で解説しています。
(参照:導入している歯科医院が急増中?!vol.1 ウォッシャーディスインフェクターについて学ぼう!)
滅菌器の種類について
滅菌器は、滅菌できる製品の構造や種類に応じて、「クラスN」「クラスS」「クラスB」と3つに分けられます。
それぞれの滅菌器では、どのようなものが滅菌できるのでしょうか?
クラスN
未包装の、ミラー、印象用トレー、へーベルといった固形製品の滅菌が可能。滅菌後はただちに使用する必要がある。
クラスS
滅菌器の製造メーカーが指定した製品の滅菌が可能。この製品には、未包装の固形製品に加え、スポンジやガーゼなどの多孔質な「ポーラス製品」、ハンドピース類が含まれる「中空負荷製品A」、バキュームチップなどが含まれる「中空負荷製品B」、滅菌バッグに入っている「一重/二重/多重包装製品」のうち、少なくともひとつの製品が滅菌可能。
クラスB
すべての製品の滅菌が可能。
現在一般の歯科医院では、クラスN滅菌器が使用されていることが多いようです。しかし、クラスN滅菌器では、滅菌バッグに入れた製品や、タービンなどの複雑な構造をもつハンドピース類は、完全に滅菌できません。
また、クラスN滅菌器においては、「滅菌後ただちに使用する」とされているため、滅菌状態で保管することもできません。
歯科医院には保管する器具が豊富にあるため、クラスB滅菌器の需要は今後ますます高まると考えられます。
ハンドピース内部まで滅菌が必要な理由
タービンは、回転が停止するときに、ヘッド内に陰圧が生じ、口腔内の唾液や血液、切削片などの汚染物資が内部に吸い込まれます。これを「サックバック現象」といい、最近は、各メーカーのハンドピースにサックバック防止構造が備えられています。
しかし、サックバック防止構造をもつタービンでも、内部吸い込みが確認された事例があり、使用したタービンを内部まで滅菌せずに次の患者に使用すれば、交差感染を引き起こす可能性もゼロではありません。
これは、低速回転のコントラアングルハンドピースでも同様です。そのため、使用したハンドピース類は患者ごとに交換し、滅菌することが強くすすめられています。
クラスB滅菌器の特徴
それでは、クラスB滅菌器にはどのような特徴があるのでしょうか?
* 一部クラスS滅菌器にも同様の特徴がある製品があります。
複雑な構造をもつ機器の内部まで滅菌が可能
滅菌は、滅菌物のすべての面に蒸気があたることで確実に行われます。
しかし、滅菌バッグに入った器具や、内部に空洞があるハンドピース類については、中に空気が残留しているため、蒸気が浸透しづらくなってしまいます。
そのため、クラスB滅菌器は、まずチャンバー内を真空状態にし、滅菌バッグ内やタービン内部の空気をすべて除去します。そこに蒸気を送り込むことで、複雑な機器であっても確実な滅菌を可能にしているのです。
水道水を使用しない
カルシウムや塩素が含まれる水道水を用いると、滅菌器の故障や、滅菌の質に影響するおそれがあります。
そのため、クラスB滅菌器では、精製水や蒸留水または純水を使用する必要があります。
メーカーによっては、浄水カートリッジが付属していたり、給水装置を別売りしていたりと、精製水の購入が不要になる場合もあるようです。
滅菌時間が短縮される
滅菌器による滅菌は、乾燥の工程を含めると大体1時間前後かかることがほとんどです。しかし、クラスB滅菌器には、さまざまな種類やモードがあり、滅菌から乾燥までを15分〜20分程度で行えるものもあります。
使用頻度が高いハンドピース類などの滅菌にはありがたい機能ですね。
滅菌時の注意
滅菌工程が終了しても、器具を濡れている状態で取り出すと、すぐに汚染されてしまいます。しっかりと乾燥されていることを確認してから器具を取り出しましょう。
また、滅菌物を詰め込みすぎたり、滅菌バッグを重ねていたりすると、うまく蒸気が行き届きません。
各メーカーから提示されている、滅菌可能な最大総重量を守り、滅菌バッグと滅菌バッグの間には隙間ができるよう、立てて入れるなどの工夫を行って、正しく使用してくださいね♪
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いかがでしたか?
滅菌器にはさまざまな種類があり、滅菌可能な製品もそれぞれ異なります。
とくにクラスN滅菌器は、滅菌可能な器具が非常に少なく、タービンの「サックバック現象」による院内感染についても不安は拭えません。
患者さんやスタッフが安心して過ごせる環境づくりのために、今後もクラスB滅菌器の需要はますます増えていくのではないでしょうか。滅菌器の買い替えを検討している方は、ぜひ参考にしてください♪
参考文献:一般社団法人日本医療機器学会『医療現場における滅菌保証のガイドライン 2015』
歯科診療における院内感染対策に関する検証等事業実行委員会『一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版)』
株式会社ナカニシ『滅菌ハンドブック』
株式会社ジージー『医療器材の洗浄・消毒・滅菌』
メディア株式会社『クラスBオートクレーブLisa』
株式会社ヨシダ『デントクレーブSTERI-B』