洗浄・消毒・滅菌の基準『スポルディングの分類』って何?

歯科医院に勤務しているみなさんは、いつもどのように使用済み器具の仕分けを行っていますか?

歯科医院の既存のシステムにしたがって行っている方や、先輩スタッフから言われる通りに行っている方、自分で調べて作ったシステムに沿って行っている方など、さまざまだと思います。

しかし、医療器具の洗浄・消毒・滅菌については、どのような処理を行うべきかを種類ごとに明確に示した「スポルディングの分類」という基準があります。

今回は、このスポルディングの分類について詳しくお伝えします♪

スポルディングの分類

スポルディングの分類とは?

1939年に、アメリカの学者「アール.H.スポルディング」が提唱した、医療器具の処理方法における分類方法です。

スポルディングは、感染リスクの程度に応じて医療器具を3つのカテゴリーに分類し、消毒についても3つの水準に分類しました。

カテゴリーについては、以下の3つに分類されます。

  1. クリティカル
  2. セミクリティカル
  3. ノンクリティカル

消毒レベルについては、以下の3つに分類されます。

  1. 高水準消毒
  2. 中水準消毒
  3. 低水準消毒

医療器具のカテゴリー分類

① クリティカル

人体における無菌の組織や血管に接触するような、感染リスクが高い器具のことを指します。いわゆる、「観血処置時に使用する器具」です。

インプラントや歯周外科、抜歯といった外科手術時に用いる器材に加えて、キュレットやプローブ、リーマー、ファイル類も含まれます。

これらの器具を再使用するには基本的に滅菌処理が必要ですが、滅菌前の十分な洗浄も、あわせて行う必要があります。
(参照:導入している歯科医院が急増中?!vol.1 ウォッシャーディスインフェクターについて学ぼう!

また、縫合針や縫合糸など、ディスポーザブルで使用するものも、「クリティカル」に含まれます。

縫合針や縫合糸

② セミクリティカル

粘膜面または健常ではない皮膚に接触するが、体内の無菌的部分には侵入しない器具のことを指します。例としては、ミラーや印象用トレー、咬合紙ホルダーなどが挙げられます。

歯科用のセミクリティカル器具は耐熱性であれば、加熱滅菌することが求められます。滅菌できない器具に関しては、適切な消毒処理が必要です。

消毒薬によって消毒されたセミクリティカル器具は、残留薬剤を除去するため、滅菌精製水ですすいでおくことが望ましいといわれています。また、すすぎに水道水を用いる場合には、すすいだ後アルコールで清拭し、乾燥させる必要があります。

このように、消毒薬の毒性や残留薬剤の危険性などを考慮すると、レベルの高い熱水消毒が可能な、ウォッシャーディスインフェクター(Ao値3000以上)の使用が推奨されます。

また、タービンなどのハンドピース類は、セミクリティカル器具に分類されますが、口腔内の唾液や血液、切削片などの汚染物資がハンドピース内部に吸い込まれる「サックバック現象」の危険性が懸念されています。そのため、使用したハンドピース類は患者ごとに交換し、滅菌することが強くすすめられています。
(参照:導入している歯科医院が急増中?!vol.2 クラスB滅菌器について学ぼう!)

ハンドピース類

③ ノンクリティカル

健常な皮膚と接触するが、粘膜や健常でない皮膚には接触しない器具のことを指します。感染リスクが低いため、高度な汚染を受けない限り、日常的な洗浄や清拭のみで十分であるとされています。例としては、レントゲンコーンやチェアー、血圧計のカフなどが挙げられます。

しかし、複数の患者さんで共用する場合には、使用前に消毒処理が必要です。その際は、エタノールや次亜塩素酸ナトリウムなどを使用します。

消毒レベルの分類

消毒薬を用いる化学的消毒は、薬液の作用時間や濃度、温度、pHなど、効力に影響を与える因子が十分に整った場合のみ、消毒水準が確保されます。

そのため、どんな消毒薬においても、適切な使用方法を確認してから使用するようにしましょう。

① 高水準消毒

  • グルタラール
  • フタラール
  • 過酢酸

肝炎などの感染症患者さんに使用した器具は、その他の患者さんに使用した器具と一緒に洗浄・消毒・滅菌ができません。そのため、まずはじめにグルタラールなどを用いて器具の消毒を行い、ウイルスの不活性化を図ります。

これらの消毒薬は、人体に対する毒性や刺激性が強いとされています。医療従事者の健康被害を防止するために、適切な部屋の換気を行うとともに、マスクやゴーグル、エプロン、手袋などの保護具を着用した上で使用することが強く求められます。

マスクやゴーグル、エプロン、手袋などの保護具を着用

② 中水準消毒

  • 次亜塩素酸系(次亜塩素酸ナトリウムなど)
  • ヨードホール・ヨード系(ポビドンヨード、ヨウ素など)
  • アルコール系(エタノール、イソプロパノールなど)
  • フェノール系(フェノール、クレゾールなど)

次亜塩素酸ナトリウムには強い金属腐食性があるため、金属製の器具への使用は避けるべきです。しかし、プラスチック製の器具には使用できるため、スパチュラなどの消毒に使用している歯科医院もあります。また、ノンクリティカル器具であっても、複数の患者さんが使用する部分には、これらの消毒薬を用います。

ポビドンヨードは主に生体消毒薬として使用されることが多く、着色や金属の腐食を起こすため、器具消毒には用いません。

③ 低水準消毒

  • 第四級アンモニウム塩(ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物など)
  • クロルヘキシジン(クロルヘキシジングルコン酸塩)
  • 両性界面活性剤(アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩など)

チェアーの清拭によく使用される除菌クロスは、こちらに分類されます。

低水準消毒薬には、その薬液中でも長期間生存、または増殖が可能なグラム陰性菌が存在する場合もあるようです。そのため、血液や体液で汚染されたノンクリティカル器具に対しては、中水準消毒薬を使用するようにしましょう。

チェアーの清拭

いかがでしたか?

普段使用している器具の適切な処理方法について、正しい知識を身につけることは、歯科医院で働くスタッフにとって大変重要なことです。

より安心して働くことができる安全な環境づくりを目指しましょう!

参考文献:歯科臨床における院内感染予防ガイドライン2003(CDC)
Y‘s Square
株式会社ジーシー『標準予防策に基づいた感染対策の重要性』