進路選びに迷っている学生必見!さまざまな分野で活躍する歯科衛生士が集うセミナーが開催

7月28日、東京医科歯科大学にてDental Career Seminar for DHが開催されました。

Dental Career Seminarは、次世代の歯科医療を担う歯科学生に歩むべき道を見つけてほしいと願う開業医、勤務医、大学院、国内外の専門医など、さまざまなキャリアを歩む歯科医師が集まり、歯科学生に語りかけるセミナー。
(参照:DENTAL CAREER SEMINAR ー午前の部ー-WHITE CROSS

これまで歯科医師課程の学生向けに行われていたセミナーですが、今回、はじめて歯科衛生士課程の学生を対象として開催されました。

当日は東京医科歯科大学や千葉県立大学、新潟大学などといった各地の大学から、60名ほどの学生さんが参加。また、過去セミナーに参加された歯科医師の先生や歯科衛生士の方が、オブザーバーとして10名ほど参加されていました。

それでは、当日の様子をお伝えします♪

午後に行われたワークショップの様子
午後に行われたワークショップの様子

開業医が伝える、歯科医療の価値とは?

「はやくなんとかして!」「いつ噛めるの?」という患者さんに対して、武器が顎模型と歯ブラシだけでは戦えない。
さまざまな仕事を身につけてその道の専門家として患者さんに接することで、信頼関係が生まれます。

午前の部トップバッターは、今回主催を担当された医療法人ADC アップルデンタルセンターの理事長 畑慎太郎先生。

まずはじめに畑先生は、臨床現場でよく見られる症例について解説。穴が空いているむし歯は氷山の一角。見た目にはわからなくても、すでに「むし歯」ははじまっているといいます。

しかし、むし歯はステージや年齢によって進行具合が異なります。すべてのむし歯に対して治療をするのではなく、アクティブな病変なのか、そうでないものなのかを判断し、適切な治療介入の時期を知っておくことが大切だと強調しました。

削ること(=修復処置)以外のリスク検査や口腔衛生管理(=非修復処置)は、歯科衛生士にもできる「治療」。

歯科にかかりながら口腔の健康を失っていく患者さんを減らすために、むし歯のまだない小児から、口腔ケアが必要な高齢者まで、継続的なアプローチを行なっていくことの大切さを語りました。

さまざまなむし歯の状態を説明する畑先生
さまざまなむし歯の状態を説明する畑先生

歯科衛生士のキャリア形成に必要なこととは?

私たちはお掃除やさんではなく、教育者でありたい。学生のうちから学ぶ機会を増やし、働く先を自ら選んでキャリアを形成していってほしい。

畑先生からバトンタッチされたのは、同歯科医院で働く歯科衛生士の花岡祐み子さん。

まずは現在担当している患者さんの数や性別・年代分布だけでなく、診療の流れや実際に使用している口腔ケアグッズについて説明しました。

現在の歯科医療は、どの歯を削るかという考え方ではなく、削る回数を減らすために、どのようなマネジメントが必要かを考える方向に向かっているといいます。そのために必要な「武器」である、口腔内写真の撮影方法や歯周組織・リスク検査の種類について解説しました。

歯科衛生士は治療以外のすべてに携わることができると語る花岡さん。治療に先立って口腔内状況の情報を提供し、患者さんに興味を持ってもらうことで口腔の健康に対するモチベーションアップを図っているとのこと。

これまでの症例を元に、実際の現場で行なっている手順や、患者さんへの声かけについて紹介しました。

普段使用しているツールを紹介する花岡さん
普段使用しているツールを紹介する花岡さん

大学病院教授が語る、病院歯科の価値とは?

歯みがきをしないのは、その理由がわかっていないから。口腔ケアに無関心な人は全身の健康もよくないということを教育するのが歯科衛生士の仕事。

午前の後半は、藤田医科大学 医学部 歯科・口腔外科学講座 教授の松尾浩一郎先生。“口腔のためにではなく、全身の感染症を避けるために口腔ケアをやりましょう”と目標をかかげ、赴任当初1名だった歯科衛生士を、現在は10名にまで拡大しました。

周術期の患者さんに対する口腔衛生管理は、BOPやPCR値の減少だけでなく、発熱日数も減少する結果が出ているという松尾先生。

がんというインパクトのあるできごとを通して、「なぜ手術のために歯みがきをしないといけないのか」を理解してもらうことが重要だといいます。

また、藤田医科大学病院では歯科衛生士と歯科医師、医師、言語療法士、管理栄養士、認定看護師がチームとなって院内の口腔指導をしています。効率よく患者さんを診るために、言語聴覚士の仕事を歯科衛生士が、歯科衛生士の仕事を認定看護師が担うことがあります。

そのため、病院歯科で勤務する歯科衛生士は、患者教育だけでなく他職種に対する理解と教育が大切であると結論づけ、歯科衛生士の藤田未来さんにバトンタッチしました。

藤田医科大学病院 歯科口腔外科教授 松尾浩一郎先生
藤田医科大学病院 歯科口腔外科教授 松尾浩一郎先生

病院歯科に勤務する歯科衛生士の役割とは?

他職種連携では、他の業種について同じくらいの知識が必要になる場面や、歯科衛生士としての主体性を求められる場面も数多くあります。

つづいては、藤田医科大学病院に入職して5年目の歯科衛生士 藤田未来さん。具体的な業務内容について紹介しました。

普段の業務では、周術期の患者さんへの口腔ケアやリハビリなどの口腔衛生管理を行うだけでなく、外来患者さんのスケーリングやSRPも行なっている藤田さん。

その他にも、実際に口腔ケアに携わる看護師さんに対して勉強会を行ったり、学会へ参加したりしています。40もある診療科目にあわせて講演の内容をアレンジしたり、国内だけでなく海外で症例発表を行ったりと、教育の機会に恵まれていると環境だといいます。

さらに、病院歯科に勤務する歯科衛生士の役割について説明。さまざまな研究結果から、治療過程で口腔ケアが必要となる部門のチームに加わって、業務に携わるため、病院歯科で働く歯科衛生士は、他職種間での情報交換が非常に重要であると述べました。

他職種のスタッフを相手に講演をする藤田さん
他職種のスタッフを相手に講演をする藤田さん

歯科衛生士のキャリア形成に必要なこと

自分の求めている分野で働くためには、熱意をもってアピールできること、きちんと情報収取をすることが重要です。

午後のトップバッターは東京医科歯科大学口腔保健学科に勤める鈴木瞳先生。現職の前は藤田医科大学病院や、都立の障害者歯科診療施設に勤めていた歯科衛生士です。

まずはじめに、歯科衛生士としてどんな風に働いていきたいか、そして10年後にどういう風になっていたいのかを想像できているか?と投げかけました。

近年、歯科衛生士の働くフィールドは多岐にわたり、診療科目や患者さんの年齢層などによって、役割や仕事内容が変わってきます。それぞれの場所で活躍するためには、自分がどうなりたいかを想像して、それに向けてスキルアップできるようなキャリアを形成していくことが重要であるといいます。

つづいて歯科衛生士の70%以上は転職経験が1〜3回であることや、半数以上の歯科衛生士は辞めてしまっていることなど、歯科衛生士会のデータを元に、歯科衛生士の現状について説明。長く勤めていく上でもっとも大切なことは「楽しさや、やりがい」であるという鈴木先生。若いうちに自分のスキルや自信をつけておくことが、非常に大切であるといいます。

講演の最後に、人との出会いを大切にすることが重要であるという鈴木先生。学校の仲間や実習先、研修会でいろんな人と繋がっていくことが重要で、そういった場で良い印象をもっていただくことは、学生のうちからできる非常に大切なスキルアップであると語りました。

東京医科歯科大学口腔保健学科 鈴木瞳先生
東京医科歯科大学口腔保健学科 鈴木瞳先生

歯科衛生士の卒後学習の一提案

卒業したらすべてが自由。勉強するのもしないのも自由。どんな歯科衛生士人生を歩むのかは自分次第。

最後のセクションは、鶴見歯科クリニックの院長 鶴見和久先生。鶴見歯科クリニックでは、自ら考える力を養うための勉強会を他の歯科医院と合同で行なっています。

臨床の現場に立つと、「こんなの教科書に載っていなかった」というようなことがたくさんあります。患者さんへ責任をもって情報を伝えるため、正しい情報収集を行うために、ワークショップで“考える”トレーニングをすることが重要であるといいます。

トレーニングでは、まず“疑問をもつこと”が大切であるという鶴見先生。きちんとした情報を伝えるためには、今まで正しいとされていたことや、分かったつもりになっていることを疑うことからスタートすべきであるといいます。

今回のセミナーでは、その研修会で行われているワークショップの一部を体験。実際の臨床現場でありがちなシナリオに対して、疑問に思ったことをあげていくグループワークを行いました。

ワークショップの最後に、宝塚音楽学校の合格発表を例にあげた鶴見先生。大学合格が人生のピークではない。勉強し続ける努力を惜しまずにいることが重要であると結論づけました。

疑問の分類について語る鶴見先生
疑問の分類について語る鶴見先生

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学生のうちからさまざまな分野で活躍する先輩方の意見を聞くことができるだけでなく、他大学の学生さんや、現場で活躍する歯科医師の先生や歯科衛生士の方々と交流することができるDental Career Seminar。

来年も開催予定ですので、進路の選び方や勉強の方法などを学ぶことができる学生さんは、ぜひ参加されてみてはいかがでしょうか♪