10月6日の日曜日、東京都内にて、「2019年度 東京SJCDハイジニストミーティング」が開催されました。
主催のSJCD(日本臨床歯科医学会)とは、会員数2,000名を超える国内最大のスタディーグループが、2017年に組織移行した学会。
東京SJCDでは年に一度、歯科衛生士会員を中心とした定例会を開催し、外部講師を招いての講演会や、会員歯科衛生士によるケースプレゼンテーションを行っています。
今回は歯科衛生士会員だけでなく、歯科医師会員や非会員の歯科衛生士も多数参加。総勢200名が集結し、終始にぎやかな雰囲気に包まれていました。
当日の会場の様子をお伝えします♪
歯科衛生士は素晴らしい仕事!誇るべき役割とは?
今回の定例会の特別講師は、糖尿病専門医の西田亙先生。歯周病予防が糖尿病に与える影響について、全国で多数講演されている内科医の先生です。
歯周病と全身疾患の関係が明らかになった近年では、糖尿病患者に歯科受診を紹介する流れが、医科においても急激に広まりつつあるという西田先生。
歯科衛生士の日々の仕事は「血管」を通して全身を守る、かけがえのない仕事であるといいます。
今回の講演では、歯科が誇るべき「連続性」について説明。受診層が乳幼児から高齢者まで「連続」している診療科は歯科以外にはないという西田先生。
とくに事業継承により世代を超えて診療を続けている歯科医院は、一人の人間の幼少期から人生の最期までを知ることができる、大変価値のある場所だと力説しました。
つづいて、西田先生は歯科衛生士の経済的価値について解説。NDBオープンデータによると、歯周組織検査やスケーリング、歯科衛生実地指導料といった、歯科衛生士が関わる項目の年間保険診療費は約7,000億円。
(参考:NDBオープンデータ-厚生労働省)
これは歯科外来総計約2.2兆円のうち、約3分の1を占めているといい、歯科衛生士の経済的価値について強く賞賛しました。
令和の時代が求める歯科衛生士像とは?
講演の後半は、炎症についての話からスタート。
まずは炎症反応に関係する血液中の値であるC反応性タンパク(CRP)について解説。久山町研究によると、CRP 0.1mg/dL以上で心筋梗塞および糖尿病の発症リスクが正常値時の3倍以上になることがわかっています。
(参考:久山町研究とは-九州大学)
このCRPは、適切な歯周基本治療により0.13mg/dL下げることができるといいます。
歯科衛生士の仕事は歯周基本治療という“炎症消退”を通して、全身の健康を守ることができる唯一の職業であるということを、歯科の立場から発信していくべきだと強調しました。
また、「医療はサイエンスとサービス」であるという西田先生。令和の歯科衛生士に必要なこととして、「本物の知識と技術をつけること(サイエンス)」と「デンタルインタビューを行うこと(サービス)」の二つをあげました。
たとえば、歯がなく噛めない患者さんに対して野菜を食べなさい、柔らかいものばかり食べないでください、というのは不可能。行動にはかならず原因があるので、患者さんの話をきちんと聞いて適切な情報を伝えていくことが必要といいます。
そして、デンタルインタビューは「患者さんとスタッフ双方が倖(しあわ)せにいたるための学問」であるという西田先生。
歯科衛生士の離職率の高さに触れ、正しい知識を身につけてそれを患者さんに伝えていくことができれば、結果的に自身の幸せや、歯科衛生士としてのやりがいに繋がると結論づけました。
重度慢性歯周炎に対する非外科的治療の方法
西田先生による講義の後は、会員歯科衛生士による症例発表が行われました。
1人目の本吉ひとみさんは『重度慢性歯周炎の患者に根面デブライドメントとEr.YAGレーザーを用いて非外科的歯周治療を選択した一症例』について発表。
一般的に「治らない」といわれている5mm以上の歯周ポケットに対して、非外科的治療を選択した症例を挙げ、その背景や実際の治療内容、使用した機器について解説しました。
本吉さんは治療にあたり、6mm以上のポケットでは半分以上歯石を取り残してしまうことや、プロービングデプスの数値には健康な歯肉と炎症歯肉では差異があることなど、数多くの論文を調査し、情報収集を行ったとのこと。
近年の技術の進歩や治療機器の発達にも触れ、今後、外科処置をいやがる患者さんへのひとつの選択肢として、Er.YAGレーザーを用いた治療が提案できると結論づけました。
歯科衛生士がマイクロスコープを使うことのメリット
2人目の杉本悦子さんは、『マイクロスコープを使って歯科衛生士ができること』について発表しました。
歯科衛生士歴10年目の杉本さんは、歯周病の改善には、歯科医師や歯科衛生士の技術だけでなく、患者さん自身の協力が必要不可欠であると日々痛感しているといいます。
今回の発表では、マイクロスコープの特徴やルーペとの使い分けについて、論文や比較表をもとに解説。その後、マイクロスコープの存在によって、患者さん自身の歯科に対する意識の向上が確認できたケースを紹介しました。
4年前に初診で来院された患者さんは、当時遅刻や無断キャンセルが目立ち、歯周治療の途中に来院が途絶えてしまったとのこと。
昨年歯肉の痛みを訴えて再来院された際に、マイクロスコープ視野下の動画や写真をお見せしながら、ブラッシングや歯間部清掃の有用性を説明。
その結果、「一緒に頑張っていこう」という連帯感が生まれ、再評価まで移行することができたといいます。マイクロスコープの使用は、自らの治療の確認になるだけでなく、患者さんのモチベーション向上にも繋がることを示しました。
当日は4社の協賛企業が出展。お昼休みには展示ブースの周囲が参加者で埋めつくされるほど、みなさん興味津々の様子でした。
また、セミナーの終わりには懇親会も開催。
講演内容や症例発表の感想だけでなく、それぞれの職場やプライベートの話など、日頃なかなか会えない仲間との再開に、終始盛り上がった様子を見せていました。
来年度は2020年10月4日(日)に開催。特別講演には、大阪大学大学院歯学研究科予防歯科学教室教授の天野敦雄先生が登壇される予定です。
数多くの歯科衛生士が集うハイジニストミーティング。トップランナーとして活躍されている方も参加されており、さまざまな情報を得ることができるセミナーでした。