都民向け公開講座「トップアスリートに学ぶ!スポーツを支える歯科医療の最前線」が開催!

10月20日、日本歯科大学生命歯学部にて、公益社団法人 東京都歯科衛生士会主催の第10回都民向け公開講座が開催されました。

こちらの都民向け公開講座は、年に一度、都民の健康と歯科保健を充実させる目的で、東京都歯科衛生士会が主催しています。参加費が無料で、歯科医療従事者だけでなく、一般の方も参加できる講座です。

講師は、日本スポーツ歯科医学会認定医で、昭和大学歯学部歯科矯正学講座の講師を務める芳賀秀郷(はがしゅうご)先生と、日本スノーボード協会公認デモンストレーターの臼井裕二先生の2名。

講座の前半は、芳賀先生によるスポーツ歯科についての講演、後半には、2名の講師による歯科とスポーツとの関わりについての対談が行われました。

それでは早速、当日の会場の様子をお伝えします♪

講演中の様子
講演中の様子

スポーツ歯科医学とは?

スポーツ歯科医学とは、イギリスのボクシング選手に対して、歯科医師がマウスガードを作製したことからはじまった専門分野といいます。

芳賀先生が勤める昭和大学では、1984年にADA(アメリカ歯科医師会)が発行した、「チームデンティストに関するガイドライン」にしたがって、アスリートの検診やマウスガードの作製、歯科治療を行っていると話しました。

つづいて、芳賀先生は、スポーツ歯科関連の資格を紹介。

公益財団法人 日本スポーツ協会が認定する「公認スポーツデンティスト」のほかに、一般社団法人 日本スポーツ歯科医学会では認定医のほか、「MG(マウスガード)テクニカルインストラクター」「スポーツデンタルハイジニスト」という資格が取得できます。

また、マウスガード製作に関する技工指導を適切に行うことのできる大学や病院、あるいは各種施設団体等には、同学会認定の「MG研修施設」という称号が与えられるそうです。

中でも、現在全国で62名が所有するスポーツデンタルハイジニストは、これからどんどんと活躍が望まれる資格のひとつです。
(参照:認定スポーツデンタルハイジニストってどんな資格?

講師の芳賀秀郷先生
講師の芳賀秀郷先生

アスリートと歯科の関係

パフォーマンスを落とさないことが、最大のパフォーマンスである。

次に、ラグビーやアメリカンフットボールなどの、選手同士の接触が多いスポーツで起きやすい外傷について説明。骨折などは治療にかなりの時間がかかってしまうため、アスリートにとってはできるだけ外傷を予防してあげることが重要と芳賀先生は話しました。

ここで、前歯のオーバージェットと外傷のリスクに関する論文を紹介。歯列不正に対しては、矯正治療を行うことで外傷のリスクを減らせることを伝えました。

つづいて、芳賀先生は、アスリートに特化した「スポーツデンタルチェック」について解説。このチェックでは、歯科疾患だけでなく、咬合状態や顎の機能について評価します。

また、オリンピックやアジア大会に出場するアスリートの方々は、内科・整形外科・歯科の受診が大会前に義務付けられているとのこと。とくに歯科治療は1回で終わらない場合も多いため、検診や治療に望ましい時期などを説明しました。

さらに、アスリートの口腔内環境の特徴についても話し、スポーツデンタルチェックの診査項目やフローチャートについても解説しました。

マウスガードについて詳しく解説!

次に、芳賀先生は、マウスガードの効果や取り扱いについて説明。既製品とカスタムメイドでつくるマウスガードの違いや、製作の基本的な流れ、再製の期間についても話しました。

また、マウスガードの着用が義務化されているスポーツや、一部義務化されているスポーツ、着用が推奨されるスポーツなど、それぞれの規定に基づいて詳しく解説しました。

さらに、歯が脱落したときの対応についても説明し、歯牙を乾燥させないことや、歯牙を浸漬する保存液についても紹介しました。

スポーツ用マウスガードの一例
スポーツ用マウスガードの一例

智歯があることで骨折しやすくなる?!

講演の最後に芳賀先生は、埋伏智歯と下顎の骨折リスクの関連について紹介しました。

実際にラグビー選手で、埋伏智歯の周りにある顎骨が骨折してしまった症例を、レントゲン写真をもとに解説。手術前の準備として行う治療や手術中の写真、抜去した智歯の写真を見せ、術後の経過を説明しました。

また、2019年4月からは抜去した智歯の歯髄幹細胞を取り出し、将来的に再生医療に応用する研究プロジェクトが開始されたようです。

歯科医師とトップアスリートによる対談!

公開講座の後半では、芳賀先生と臼井先生による対談が行われました。お二人は10年来の友人とのことで、会場は終始あたたかい雰囲気に包まれていました。

芳賀先生と臼井先生が企画するスノーボード大会(福島県)のスタッフとのお写真
講師の2名が企画するスノーボード大会(福島県)のスタッフと

まずは、臼井先生が持つ「デモンストレーター」の資格について説明。デモンストレーターとは、簡単に言うと「インストラクターを教えるインストラクター」で、スノーボードの伝え方や教え方を教育する選手のことを指します。

デモンストレーターになるには、スノーボードの操作の正確性を表現する全日本大会で6位以内に入ることが条件で、臼井先生は8期連続でその資格を取得しているとのこと。

対談では、はじめに競技中の臼井先生の動画が流れ、スノーボードの滑り方について解説しました。また、競技中に食いしばる瞬間についても説明し、方向転換をする直前はとくに力が入りやすいと話しました。

また、競技中食いしばる顎の位置は、かならずしもまっすぐではないと芳賀先生は指摘します。左右どちらかにズラして咬む選手など、選手によってさまざまなクセや競技中の顎位があるようです。なかには、競技中ほとんど咬むことなくプレーをしている選手もいるようです。そのため、マウスガードはそれぞれの選手にに応じて調整する必要があると話しました。

さらに、臼井先生は、スノーボードのレッスンを行う際、「伝え方」を意識しているといいます。さまざまな年代に応じた話し方、言葉の使い方をすることによって、「教える」ことがしっかりと「伝わる」ように心がけているそうです。

対談中の臼井先生
対談中の臼井先生

これは、私たち歯科衛生士が患者さんへの指導を行うときにも共通していえることだと感じました。

そして対談の最後には、芳賀先生がスポーツ歯科に取り組んでいる理由のひとつとして、「スポーツを通して、歯科の重要性を広めたい」と話し、公開講座を締めくくりました。

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いかがでしたか?

普段歯科に通っている方だけでなく、そうでない方にも歯科の重要性を認識してもらう。このような一般の方を交えた講演が行われる機会は、歯科業界にとって大変貴重です。

日本のトップアスリートによるお話を聞けたことで、歯科のことだけでなく、一人の人間としても学ぶことが多い公開講座でした。

歯科衛生士としての幅は、スポーツ界にも広げることができます。興味のある方は、ぜひこれからの日本のアスリートの力になれるよう、スポーツ歯科に対する専門性を高めましょう!