医師と歯科医師の共演セミナー「歯科医が感染症医となる日」が開催!

2019年10月27日、東京都新宿区のビジョンセンター新宿にて、日本アンチエイジング歯科学会主催の「Special One day Seminar」が開催されました。

本セミナーのテーマは“歯科医が感染症医となる日”。さまざまな分野のエキスパートである4名の講師が、歯周病を「全身感染症」としてとらえ、歯科と糖尿病、認知症などとの関連性を詳しく解説しました。

当日の参加者は約170名。歯科医師だけでなく、歯科衛生士の参加も多くみられ、会場は大きな盛り上がりをみせました。

オープニングで挨拶を行う松尾通会長
オープニングで挨拶を行う松尾通会長

口腔−腸 マイクロバイオーム相関から見える未来/辻村傑先生

辻村傑先生
辻村傑先生

神奈川県で開業する歯科医師 辻村傑先生は、まず予防的アプローチ方法の変遷について、その歴史とともに紹介。

アプローチ方法としては、以下の4つが挙げられました。

  1. 非特異的プラーク仮説
  2. 特異的なプラーク仮説
  3. 生態学的プラーク仮説
  4. 後天的遺伝学

予防歯科が行われはじめた1960年代は「非特異的プラーク仮説」が主流で、口腔内からすべてのバイオフィルムを取り除くことを目的とした予防処置が行われていました。しかし、1980年代後半になると「特異的プラーク仮説」が唱えられ、クロルヘキシジンなどを使用した、任意の病原菌にアプローチする方法がとられるようになったといいます。

今後は、あらゆる細菌叢のバランスが崩れてしまった結果、疾病が起きるという「生態学的プラーク仮説」に基づいた予防的アプローチが必要になってくるとのこと。

ここで辻村先生は、「プロフィラキシス」という予防処置の考え方について、その歴史と定義を紹介。

PMTCについては、イェテボリ大学のアクセルソン教授の言葉を引用し、「ノーリスク歯面に対して、クリーニングやポリッシングを行うことはナンセンスである」と話しました。

プロフィラキシスの構成要素
プロフィラキシスの構成要素

本来あるべき予防処置の流れについて言及した辻村先生は、プラークの量的コントロールではなく、質的コントロールへ変化するべきだと述べ、さまざまなリスク検査方法や、自院でのメインテナンスプログラムを紹介しました。

最後には、60名の患者さんを対象に院内で行った研究の結果を紹介。口腔内細菌の多様性という観点で患者さんを3つのグループに分類し、それぞれの歯周病レベル係数やBOP率、舌苔量、PCRの値を比較しました。

常在菌のバランスを整え、細菌と共に生きる」ことが、これからの歯科医療における命題であると述べました。

なぜ歯周病菌は、糖尿病やアルツハイマー病を引き起こすのか?/西田亙先生

西田亙先生
西田亙先生

糖尿病専門医の西田亙先生は、まず歯周炎の新分類について解説し、新分類を決定する上でベースとなった論文について説明。

また、高感度CRPの読み方や検査方法についても解説し、歯周治療によってCRPが減少し、インスリンの投与が不要になった症例を紹介しました。

次に、歯周病菌はプラーク内だけでなく、歯肉や全身にも存在することを、肝膿瘍で死亡した女性の症例をもとに解説。

この女性は、死亡する3年前に歯周治療を中断しており、病理解剖の結果、肝臓・心臓・腎臓に口腔細菌の存在が認められたといいます。

歯肉や全身にまで住みつくポルフィロモナス・ジンジバリス菌
歯肉や全身にまで住みつくポルフィロモナス・ジンジバリス菌

さらに西田先生は、歯性感染症のひとつである「レミエール症候群」や早産についても解説。それぞれの症例が報告された論文を紹介し、口腔内細菌との関わりを説明しました。

認知症については、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌のタンパク分解酵素である「ジンジパイン」の阻害薬が、アルツハイマー病の治療薬として開発されていると話し、ジンジパイン阻害薬の特徴についても詳しく説明しました。

最後には、多くの犬がもつポルフィロモナス・グラエ菌という歯周病菌について言及。この菌は、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌と同じように、上皮細胞に付着し、細胞内に進入する働きをもつといいます。

講演では、愛犬の71%、飼い主の16%に、このポルフィロモナス・グラエ菌が存在するという報告を紹介。

歯周病菌は人間だけでなく愛犬の健康にも関わることをアピールし、口腔衛生の重要性をさらに国民に向けて発信していくべきだと述べました。

P.gi(ポルフィロモナス・ジンジバリス)菌とP.gu(ポルフィロモナス・グラエ)菌
P.gi菌とP.gu菌の違いについて

お昼休み

今回のSpecial One day Seminarには、10社の企業が協賛。昼休みには、各社の製品紹介などが行われました。

その後は、午後の講演開始まで企業ブースにたくさんの人が集まり、製品について興味をもつ人が後を絶えませんでした。

企業ブースの様子
企業ブースの様子

また、昼食には、同学会が特注したアンチエイジング効果がある食材をふんだんに使ったお弁当と、協賛企業の1社でもあるオハヨー乳業株式会社から、「ロイテリヨーグルト」が提供されました。

アンチエイジング効果がある素材を使用したお弁当
アンチエイジング効果がある素材を使用したお弁当

受講者の多くが、日本アンチエイジング歯科学会のこだわりや気遣いを感じられたのではないでしょうか。

歯科でできる糖尿病療養指導/原瀬忠弘先生

原瀬忠弘先生
原瀬忠弘先生

午後は、愛媛県糖尿病協会の理事を務める歯科医師 原瀬忠弘先生による講演から開始。まずは、糖尿病の基礎知識について解説しました。

現在の日本における糖尿病患者数や、糖尿病やそれにともなう合併症にかかっている医療費について説明。

糖尿病は、「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」と定義されるといい、口渇、多飲などの五大症状や合併症についても詳しく解説しました。

糖尿病と歯周病の共通点は、「血管への影響があること」と話す原瀬先生は、医療連携がとれておらず、歯周治療がスムーズに進まなかった症例を紹介。糖尿病患者においては、「歯科治療を行う」というだけの考えから脱却しなければいけないと述べました。

歯周病と糖尿病の共通点
歯周病と糖尿病の共通点

また、発刊されたばかりの「糖尿病診療ガイドライン2019」の内容についても言及。歯周病について掲載されている項目を解説し、新分類についても明記されていることを紹介しました。

さらに原瀬先生は、自身が所属する「愛媛Dental Diabetes研究会(通称:愛媛DDSG)」で行った研究について報告。歯科医院を受診する患者の糖尿病罹患率や、未治療者の割合など、興味深いデータを見ることができました。

最後に原瀬先生は、糖尿病臨床の父とよばれるエリオット・ジョスリン先生の、「糖尿病ほど患者の自覚と理解が必要な病気はありません」という言葉を引用し、これは歯周病についてもまったく同じことがいえると述べました。

糖尿病と歯周病の療養方法は非常に似通っており、その二つのアプローチをうまく混合し、臨床に取り入れることで、ワンランク上のシステム作りができるのではないかと話しました。

認知症専門医が教える!脳の老化を止めたければ歯を守りなさい/長谷川嘉哉先生

長谷川嘉也先生
長谷川嘉也先生

認知症専門医である長谷川嘉也先生は、はじめに「物忘れ」と「認知症」の違いについて解説。初期の認知症では、服薬管理や料理、金銭管理ができなくなるなど、さまざまな症状の例を挙げて詳しく説明しました。

認知症の症状には、「中核症状」と「周辺症状」という2種類の症状があるという長谷川先生。認知症のスクリーニング検査である「MMSE」が15点以下の患者は、周辺症状として人格や性格の変化、幻覚、妄想、暴力行為といった「家族が困る症状」が表れてくるとのこと。

そのため、外来患者に中核症状または周辺症状が表れているかを判断する際は、「患者の認知症によって周りの家族が困っているか」という部分に着目していると話しました。

認知症の症状
認知症の症状

さらに長谷川先生は、認知症には段階があると述べ、現在日本に400万人いるといわれている早期認知症の特徴について詳しく解説しました。

その後、中核症状と周辺症状それぞれの段階について説明。中核症状がでてきた段階で認知症の治療や予防を行うことは非常に有効で、歯科による介入もこの段階で行うことが重要であると伝えました。

次に、認知症の治療薬や薬以外の治療方法について説明。薬以外の治療方法の中には「歯科治療」も含まれており、認知症患者の口腔内の特徴とともに、口腔ケアによって認知症が改善した症例を紹介しました。

また、かかりつけ強化型歯科診療所(か強診)についても言及し、医科の目線から、口腔ケアを依頼できると感じられる歯科医院の特徴を伝えました。

口腔ケアを依頼できる歯科医院の特徴
口腔ケアを依頼できる歯科医院の特徴

西田亙先生講演・シンポジウム

セミナーの最後には、再び西田亙先生が登壇。西田先生が普段、一般の方に向けて講演している内容を30分程度で紹介しました。

ユーモアを交えながら、一般の方にもわかりやすいデータを紹介し、専門用語の伝え方などのポイントを学ぶことができました。

市民フォーラムで使用している歯周炎の説明スライド
市民フォーラムで使用している歯周炎の説明スライド

その後は、4名の講師によるシンポジウムとして、今回のセミナーで講演された内容についてディスカッションが行われました。

会場からの質問も多く、講演では聞けないような貴重なエピソードも聞くことができたため、受講者の満足度も高かったのではないでしょうか。

シンポジウムの様子
シンポジウムの様子

さまざまな分野のスペシャリストである4名の講師陣を迎え、口腔内細菌と全身疾患の関わりや口腔ケアの重要性について深く学ぶことができた、今回のSpecial One day Seminar。

今後もますます、口腔内細菌が及ぼす影響について解明されることが増えていくことが考えられます。

受診者の約9割が健常者であるとされる歯科医院。病気に罹患したときだけではなく、0歳から100歳まで定期的に受診しつづける医療機関です。

そこでは、口腔疾患の治療のみならず、患者教育や口腔の感染制御を通して、全身疾患の予防も行うことができます。

歯科医院はそのような貴重な機会をもつ医療機関であることを、あらためて実感させられるセミナーでした。