5月26日、ビジョンセンター横浜にて「第15回 JIPI DH研修会」が開催されました。
JIPI(Japanese Institute of Periodontology and Implantology)は、歯周炎やインプラントを中心に学ぶスタディーグループです。JIPIのDH研修会は、日本歯周病学会認定歯科衛生士取得をみすえた、歯科衛生士業務のスキルアップを行う場でもあり、全国から勉強熱心な歯科衛生士さんが集まります。
それでは、さっそく当日の会場の様子をお伝えします♪
歯科治療、インプラント治療の役割を考える
研修会はJIPI主宰の牧草一人先生の講義からスタート。
京都府開業の牧草先生は、歯周治療およびインプラント治療のスペシャリストです。超高齢社会について説明したのち、幼少年期から高年期までの各ライフステージにおける歯科治療や、インプラント治療の役割と注意点について述べました。
現在のインプラント治療は、外科主導型、補綴主導型であった時代から、「患者の人生主導型」になっていると話しました。
牧草先生は、その“疾患”をどう治すかではなく、その“患者”の抱えている問題点をどう解決するかということを常に考え、科学的根拠に基づいた医療(EBM)に限らず、患者本位の医療を行っているとのことでした。
また、インプラントで有名なブローネマルク先生や、牧草先生が先日参加したイタリアの研修でも、患者さんの経過を長く追うことが重要であり、一生面倒を見るつもりで関わらなければいけないということが言われていたようです。
そのため、ひとつの医院に長く勤めることが、歯科衛生士としての大きな価値になると話しました。
歯科衛生士業務について徹底解説!
つづいて、歯科衛生士業務や歯周治療の流れについて、各学会のホームページを元に詳しく解説。
歯周治療の流れの説明では、「歯周組織検査なしにスケーリングはできない。検査のない医療行為は暴力である。」と話し、歯周組織検査の重要性を述べました。
また、口腔状態が全身に及ぼす影響や、よく噛むことの効果についても、統計調査の結果を元に説明しました。
歯科医師や歯科衛生士は、歯を通して患者さんの人生に関わる仕事であり、認定資格をとるという目的だけでなく、その過程で患者さんのことを深く考えたり、勉強することの方がより大切と話す牧草先生。
その上で、認定歯科衛生士資格をとるメリットを4つ挙げました。
- 歯周治療への貢献(専門性の高い歯科衛生士業務)
- モチベーションの向上(生きがい、やりがいのある仕事)
- 歯科医院へのアピール(労働条件の向上)
- 患者さんへのアピール(信頼関係の構築)
目からウロコの歯根解剖学!
次は、今回の研修会でメインとなる歯根解剖学のお話です。
牧草先生は、歯科衛生士が歯根解剖学を理解しておくことは非常に重要だといいます。
なぜなら、スケーリングやSRPを行う器具はすべて刃物であり、SRPでは歯周ポケット内でのブラインド操作になります。そのため、SRPという行為は、暗くて狭い場所で刃物を振り回すようなものであり、歯根解剖学を理解せずに行うと、生体を傷つけてしまう可能性があるとのことです。
まずは解剖学という学問について解説。解剖学とは、正常像を学ぶ学問であり、正常像以外はすべて異常像であると話しました。
また、歯根面に対する配慮やオーバートリートメントについても言及し、「すごくザラザラ」な触感が、「まあまあザラザラ感がとれた」くらいでよしとするような、心の余裕が必要だと話しました。
つづいて、日本歯周病学会の学会会誌歯科衛生士コーナーに掲載されている、「SRPの現在を考える 概念と効果」を紹介し、SRPの関連用語や、歯周治療に対する意識の変化について解説しました。
そして、歯根解剖学の各論に入ります。
今回の講演では、70年以上前に出版された『歯の解剖学』という書籍を元に、すべての歯種について解説しました。
牧草先生は、臨床現場で働くかたわら、30年以上、講師としても大学や専門学校の学生に解剖学を教えています。
そのため、実際の症例を見ながら解剖学を学ぶことができ、今まで解剖学が苦手と感じていた歯科衛生士さんも、興味津々に聞いていました。
すべての歯種について解説し終わったあと、牧草先生は次のように述べました。
自然界に存在する形には必ず理由がある。
そしてそれは自然現象の影響を受けて変化することが通常である。
歯について、とても詳しく学ぶことのできる講演でした。
午後からは歯科衛生士の方々による講演
お昼休みのあとは、フリーランス歯科衛生士の黒川綾さんによる講演です。
歯科衛生士歴21年目の黒川さんは、現在は、2つの歯科医院で勤務するかたわら、株式会社プラスアルファを設立し、全国的にセミナー活動を行っています。
18歳と13歳のお子さんをもつお母さんでもあり、今年の春からは東北大学大学院に入学するなど、公私ともに活躍されています。
黒川さんは「超高齢社会における各ステージでの歯科衛生士の役割」というテーマで、あらゆる年代に対して歯科衛生士として行うアプローチについて説明しました。
まずは「フレイル」という言葉の意味について説明。その後、高年期、中年期、壮年期、青年期、幼少年期の順で、それぞれの年代に対してアプローチするべきことを解説しました。
黒川さんは講演の中で、さまざまな文献を紹介。また、実際に黒川さんが診ている患者さんの症例がライフステージごとに紹介され、とてもリアリティあふれる内容でした。
そして、どのステージにおいても歯科医院に通い続けてもらうことが大切であるといい、一度担当した患者さんとは一生関わり続けるつもりで接しているそうです。
最後に黒川さんは、歯科医院を“やめたくない”のではなく、“やめられない”んです!と、熱いメッセージを送りました。
日本歯周病学会認定歯科衛生士資格取得へ向けたアドバイス
研修会の最後には、昨年に認定歯科衛生士の資格を取得された川野彩子さんが、実際の試験で行ったプレゼンテーションを披露しました。
また、プレゼンテーションだけでなく、質疑応答で実際に聞かれたことや、試験当日の流れ、会場の様子なども詳しく説明。
口腔内写真撮影では、側方面観は必ずミラーを使用することや、デンタルX線撮影では、咬合面をそろえるよう意識して行うことなど、資料収集におけるポイントも解説しました。
そして、自分で撮影した資料を確認することで、自分の仕事を評価できると話しました。
勉強熱心な歯科衛生士さんが集まる研修会
お昼休みには、受講生の方が実際に診ている患者さんの症例を、牧草先生に相談している光景が見られました。
ほかにも、講師の川野さんが作成した資料に目を通す方がいるなど、歯科衛生士として熱心に仕事に取り組まれている歯科衛生士さんが非常に多く参加している印象を受けました。
私たち編集部としても、ひとりでも多くの認定歯科衛生士さんが増えることを楽しみにしています!
歯周治療が好き、日本歯周病学会に興味があるという方は、ぜひ学会や研修会に参加してみてください!